「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」
https://zsazsakorda-film.jp/
正直なところ、前作「アステロイド・シティ」がマニアック過ぎて十分理解できない感じがしていたので、もうウエス・アンダーソンは見るのやめようかと思っていたのだけど、彼自身がひとつのジャンルだとまで言われる芸術家の作品を何年かに一度見に行くのは、礼儀というか儀式のようなものだと思って見に行ってみた。
ところが。
本作は打って変わってわかりやすい。悪辣を極めた事業家の父と純真に育った娘とが少しづつ影響しあい、父の心変わりから最後には世のため人のために全てをなげうつことになるまで、かなり一直線だ。出資者を説得する旅に娘を伴う形でお話は進むのだが、ケチな彼らと取引を進める姿を描きながら、その実は、娘とのわだかまりや疑念を少しづつ取り除いていくことに心を砕いている。ニヒルでスノッブな笑いも入ってはいるのだが、無機質ではない。
その代わり、だろうか。もっと大きな政治性のあるテーマでは存分に皮肉を効かせている。最後に登場する叔父さんの髭は、あれは板垣退助か(笑)。カンバーバッチが異様な存在感でベニチオ・デル・トロと張り合っていた。他の出資者たちが、最後の旅には主人公の自家用機で同道するのと対象的に、その目的地で待つ最後の出資者は明らかに打ち倒すべき敵。世界中で紛争のタネを蒔き、平和を阻害し武器を売りつけることで永遠に金を儲け続ける、といえば何のことか想像はつく。
ウエス・アンダーソンはもう少しスノッブに隠喩で皮肉る手法だと思っていたが、本作ではかなりあからさまだ。どういう心境の変化なのかはわからない。
ともあれ、世の中が千々に乱れていく中で、見つめるべき指標をきちんと示して終わりました。
毎度、精緻な絵柄の紙芝居で、今回も満足しました。
そうそう、それから書くの忘れてたけど、本編が始まる前のコマーシャルの最後に、列車のコンパートメントで数人が会話している映像が出て来て、これは初めて見るけど何のコマーシャルだろと思ったら、左の席に座ってるのウエス・アンダーソンその人じゃないか? てなことがありました。このあとNO MORE 映画泥棒 が流れてから普通に映画が始まるんですが、あれは新しい試みなんですかね?
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