「遠い山なみの光」
https://gaga.ne.jp/yamanami/
カズオ・イシグロってほんと、泣かせるツボを心得てるよな。
「わたしを離さないで」を読んだときもそうだった。
今回、原作小説は読んでいないけれど、映画製作に Executive Producer として原作者が関わっていることは、きっと大きく影響しているのだろう。
この繊細な作品は、世の中の価値観がひっくり返る時代を描いているにも関わらず、そういう時代につきものの思想とかイデオロギーのような暴力的でいかついものには一切触れない。その代わりに、もっと人間性の根幹を成す深いところにそっと触れてくる。
戦後復興という時代に我々日本人が抱いた、自由への憧れ、明日への希望、そして過去の否定、にも拘らず纏わりついてくる不安と後悔と未練、それらがないまぜになって、記憶の彼方にある。
遠い山並みとは、長い旅路の終わりにその記憶を振り返って遠望した姿であり、光とは、忌まわしさを時が濾過した後の、ほのかな郷愁なのかもしれない。
誰もが抱いている過去への複雑な想い、容易に言葉にはできないその淡い影を、この作品は美しく形にしている。
二人の女性のストーリーが、あの時代に交わって絡み合う様子を、30年後の異国から眺める形で語られていくのだが、その二人の軌道がひとつに縒り合されるとき、胸が苦しくなるような哀愁が訪れる。その運びがあまりにも巧みなので、作り手の術中にすっかり嵌っていることに最後まで気付かず、またしてもやられました。イシグロ作品はだいたいこれ。
その哀愁を堪能したあと、現代を生きる若い女性の励ましに癒されます。これが、30年前に若者から老人に向けられた励ましとぴったり重なるのが、またニクいです。時代が変わっても変わらないものがある、そのことが、作品が最後に伝えてくれる贈り物です。
映像のつくりも素晴らしい。短めの多種多様なエピソードをテンポよく繋いでいくことで、人物と時代の奥行きを作り出していきます。繋ぎ方も、触媒になるような共通の物をさりげなく挟むなど洒落ています。
見終わっていろいろ思い出すほどに味が出る、滋味のある作品でした。
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