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September 2025

2025.09.28

「チェンソーマン レゼ篇」

https://chainsawman.dog/movie_reze/

「ルックバック」と同レベルの何かを期待して見に行ってみたのだが・・
まあブロックバスター映画でそういうことをするのは却ってよろしくないのだろう。

報われぬ恋のひと時の幸福感や、それが叶わなかった切なさ、ただ主人公ひとりがその理由を知らない悲哀、そういったものを描く要素は十分にあったし適切に配置されていたと思う。それなのにこの感動の薄さは何だろう。

ひとつには、アクション部分の激烈さが、微妙な感情を吹き飛ばしてしまったのかもしれない。あるいは、話の持っていき方が、主人公に惚れた女が組織を裏切って命を落とすのと似すぎていてマンネリ感があったのかもしれない。

だがそれ以上に、切なさのような微妙な感情は、取り扱いに細心の注意が必要なのではないかと思った。どのジャンルについても、必要な要素は揃っているのに心が動かないということはある。人の情動は微妙なものだ。
その点では、「遠い山なみの光」を見たすぐ後だったことで、本作は多少割を食ったかもしれない。あんな繊細さをデンジに期待するのがそもそも間違いなのだろう。

面白いことに、作中でデンジとマキマが一緒に映画を見に行くシーンがある。一日かけてたくさんの映画を見てさして感動もしなかったのに、最後に見た映画の何の変哲もないラストシーンで、二人とも涙を流す。それについてマキマが、人を感動させるのは作為的な技法ではなく真実に触れることだ的なことを言うくだりがあった。(正確な台詞は忘れた)

作者は、人の感動を呼ぶには何が最も大切かを十分に弁えていることが、ここからわかる。そのうえで、本作はこういう風に作っている。この商業映画の立ち位置を、誰よりも作り手自身が理解しているということなのだろう。マキマの台詞は観客への弁明と言ったらうがち過ぎか。

まあ、いろいろ酷いことを書いたけれど、青春の甘酸っぱさやはちゃめちゃさは目一杯あって、レゼは究極にエロつよこわかわいくて 、少年漫画原作の面目躍如ではありました。

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2025.09.21

「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」

https://zsazsakorda-film.jp/

正直なところ、前作「アステロイド・シティ」がマニアック過ぎて十分理解できない感じがしていたので、もうウエス・アンダーソンは見るのやめようかと思っていたのだけど、彼自身がひとつのジャンルだとまで言われる芸術家の作品を何年かに一度見に行くのは、礼儀というか儀式のようなものだと思って見に行ってみた。

ところが。
本作は打って変わってわかりやすい。悪辣を極めた事業家の父と純真に育った娘とが少しづつ影響しあい、父の心変わりから最後には世のため人のために全てをなげうつことになるまで、かなり一直線だ。出資者を説得する旅に娘を伴う形でお話は進むのだが、ケチな彼らと取引を進める姿を描きながら、その実は、娘とのわだかまりや疑念を少しづつ取り除いていくことに心を砕いている。ニヒルでスノッブな笑いも入ってはいるのだが、無機質ではない。

その代わり、だろうか。もっと大きな政治性のあるテーマでは存分に皮肉を効かせている。最後に登場する叔父さんの髭は、あれは板垣退助か(笑)。カンバーバッチが異様な存在感でベニチオ・デル・トロと張り合っていた。他の出資者たちが、最後の旅には主人公の自家用機で同道するのと対象的に、その目的地で待つ最後の出資者は明らかに打ち倒すべき敵。世界中で紛争のタネを蒔き、平和を阻害し武器を売りつけることで永遠に金を儲け続ける、といえば何のことか想像はつく。

ウエス・アンダーソンはもう少しスノッブに隠喩で皮肉る手法だと思っていたが、本作ではかなりあからさまだ。どういう心境の変化なのかはわからない。

ともあれ、世の中が千々に乱れていく中で、見つめるべき指標をきちんと示して終わりました。

毎度、精緻な絵柄の紙芝居で、今回も満足しました。

 

そうそう、それから書くの忘れてたけど、本編が始まる前のコマーシャルの最後に、列車のコンパートメントで数人が会話している映像が出て来て、これは初めて見るけど何のコマーシャルだろと思ったら、左の席に座ってるのウエス・アンダーソンその人じゃないか? てなことがありました。このあとNO MORE 映画泥棒 が流れてから普通に映画が始まるんですが、あれは新しい試みなんですかね?

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2025.09.15

「木曜殺人クラブ」

https://www.netflix.com/title/81751137

名優を揃えて作ったという感じの探偵もの。ヘレン・ミレン演じるおばあさんが元MI6という点を除けば、普通の老人たちだが、様々に知恵を凝らして殺人事件を追う。

何十年か前の殺人事件を前日譚に入れておきながら、最後までどう捌くのかわからなかったが、うまい繋げ方で、悪を許せなかった善き友の罪が明らかになる。本筋の事件の犯人も善き友だったことも併せて、全体にしんみりする味わい。

本作の目立っていい点は、元MI6がその職歴の繋がりや権力を使わずに事件を追いかけるところ。組織の力に頼らず、身近な友人の繋がりから情報を集め推理し、知人のスキルを結集して犯人を絞り込む。

探偵ものにはつきものの少し間抜けな警察もいい味を出していて、割と退屈せずに観られました。

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2025.09.08

「大長編 タローマン 万博大爆発」

https://taroman-movie.asmik-ace.co.jp/

出鱈目とご都合主義が悪魔合体、という感じで作りてのやってやったぜ!という叫びが聞こえてくるような奔放な作品。2022年にEテレで放映されたTV番組の超拡大版だそう。

ポリティカリー・コレクトな制約が強まりすぎて細かすぎてうんざりしている現代の我々にはこういうドラッグを時々摂取する必要があるのかもしれない。昭和生まれのおっさんであるわたくしにはすごくよくわかります。

でもね。最初から制約でがんじがらめの世の中に生まれ落ちてきてしまった世代に、これが意味しているものがわかるだろうかという疑念はあります。どうなんでしょうね。

それと、出鱈目を意識的にやりつづけるのは無理があるっていうこともあります。それは作中でもニセの出鱈目として言及されていますけど。

意識せず、時折発露してしまう出鱈目。それこそが本物です。
四六時中出鱈目であり続けるというのは不自然でむしろ規律に近い。
そういう意味で本作は規律と出鱈目が敵味方双方に適度に混ざりあったカオスになっていて、よくできているのではないでしょうか。

というくらいの感想で、まあいいんじゃないですか^^;

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2025.09.07

「遠い山なみの光」

https://gaga.ne.jp/yamanami/

カズオ・イシグロってほんと、泣かせるツボを心得てるよな。
「わたしを離さないで」を読んだときもそうだった。

今回、原作小説は読んでいないけれど、映画製作に Executive Producer として原作者が関わっていることは、きっと大きく影響しているのだろう。

この繊細な作品は、世の中の価値観がひっくり返る時代を描いているにも関わらず、そういう時代につきものの思想とかイデオロギーのような暴力的でいかついものには一切触れない。その代わりに、もっと人間性の根幹を成す深いところにそっと触れてくる。

戦後復興という時代に我々日本人が抱いた、自由への憧れ、明日への希望、そして過去の否定、にも拘らず纏わりついてくる不安と後悔と未練、それらがないまぜになって、記憶の彼方にある。

遠い山並みとは、長い旅路の終わりにその記憶を振り返って遠望した姿であり、光とは、忌まわしさを時が濾過した後の、ほのかな郷愁なのかもしれない。

誰もが抱いている過去への複雑な想い、容易に言葉にはできないその淡い影を、この作品は美しく形にしている。

二人の女性のストーリーが、あの時代に交わって絡み合う様子を、30年後の異国から眺める形で語られていくのだが、その二人の軌道がひとつに縒り合されるとき、胸が苦しくなるような哀愁が訪れる。その運びがあまりにも巧みなので、作り手の術中にすっかり嵌っていることに最後まで気付かず、またしてもやられました。イシグロ作品はだいたいこれ。

その哀愁を堪能したあと、現代を生きる若い女性の励ましに癒されます。これが、30年前に若者から老人に向けられた励ましとぴったり重なるのが、またニクいです。時代が変わっても変わらないものがある、そのことが、作品が最後に伝えてくれる贈り物です。


映像のつくりも素晴らしい。短めの多種多様なエピソードをテンポよく繋いでいくことで、人物と時代の奥行きを作り出していきます。繋ぎ方も、触媒になるような共通の物をさりげなく挟むなど洒落ています。


見終わっていろいろ思い出すほどに味が出る、滋味のある作品でした。

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2025.09.06

「ウェンズデー シーズン2」

https://www.netflix.com/title/81231974

全8話の後半4話も公開されたので見た。
近頃、アメリカを中心に世の中がとんでもないことになりつつあるので、「正しさ」の逆をいく本作はやや印象が薄まりがちだ。そんなんでいいのかとは思うけど。

前半4話は、かなりとっ散らかった内容で、一体これがどう収束するのかさっぱりわからなかった。後半も5,6話くらいまではその延長でますますわけがわからなくなってきて、これはハズレだろうかと思い始めたけれど、そこはティム・バートンさすがというべきか、ちゃんと怪物一家とアダムス・ファミリーの対決の構図に持ち込んで見事に着地。
アダムズ・ファミリーの様々な秘密や、The Thingの出自!とか、びっくりのタネ明かしもあって、それなりに面白かった。

ウェンズデーのゴシックホラー調だけだと単調で飽きられるところを、対極にあるような陽性のイーニッドを置いて彩りを付けてきたけど、それに加えて後半では、アグネスが俄然クローズアップされて、これが非常によく効いていた。情報担当の裏方というのは、スパイ映画などでは主役と同じくらい重要だけれど、そういう感じのポジション。のけ者能力的にもぴったり。今後不可欠なキャラクタというだけでなく、ウェンズデー、イーニッドとのトリオがずばりはまっている。イーヴィー・テンプルトンという16歳の女優さんだそうだけど、これは逸材かも。

アダムズファミリーの秘密が本シーズンでだいぶ明らかになってきたけど、これで全てが解明されたわけでもない。それに狼化して戻れなくなったイーニッドの救出もあって、シーズン3に期待が高まります。わたくし的にはアグネスに引き続き活躍してほしい・・・

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2025.09.01

「海辺へ行く道」

https://umibe-movie.jp/

最初ちょっとダルい感じの始まりで、これは失敗かと思ったところが、だんだん面白くなってきて、後半はたいへん良かったです。初めの方は、まず物語の背景を紹介してたのですね。騙されやすい、擦れていない町の人々や、ひょっとすると人間ではない、夏だけ堤防にやってくる海の生き物の化身とかを絡ませて、アーティスト移住支援を謳うちょっと変わった町の雰囲気を構築しています。

そんな環境の中で、のびのびと作品づくりを楽しむ美術部の子ども達。彼らに日々舞い込む依頼や自分たちで見つけたネタに軽やかに取り組む様子がお話の幹です。

世の中の普通の価値観と時には衝突したり、大人の無理解や身勝手に直面したりしながらも、自然体でアートの精神を様々な形にしていきます。普通の子ども達に見えるけれど本物のアーティスト。見ていると気持ちがほぐれていきます。

もちろん、町のアーティストの中にはニセモノもいます。また、贋作を手掛ける怪しい人もいたりします。でもそういう人でさえ、アートを理解して非アートな世の中との橋渡しをしているように描かれています。そういう緩さが本作の味わいでもあり、アートというものの懐の広さが伝わってくる由縁でもあるのでしょう。

終盤になって、アートという価値観の対極にあるような貸金屋の女がクローズアップされてきます。なにかというとすぐお札を切りたがるこの女が、実はアートな日々を過ごしている子ども達の親戚だというのがよくできています。断絶しておらず、どこかでつながっている。子どもたちもお金に対する拒否反応などはなく、あればあったで嬉しいと素直な反応を見せています。本当に屈託がない。

金ぴかの東京からやってきた彼女が、帰り際にカナリアの笛を吹くところでは、ちょっとウルっと来ました。美術部が自発的に作成したオブジェが、町に現れた不気味な怪物を打ち払ったのとイメージが重なって、彼女の悪い憑き物も落ちたようで、心からよかったねという気持ちになれます。


そんな町の様々な風景を見ていて、ちょっと瀬戸内芸術祭を思い出しました。もう行く機会もないかもしれないけれど、いつまでも懐かしく思い出す景色や作品たち。エンディングの一枚の絵は、絵そのものよりも、背景に映っている海の青さがえもいわれぬ色合いで引き込まれます。

アートの息吹を生き生きと思い出させてくれる、良い映画でした。

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