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June 2025

2025.06.29

「28年後...」

https://www.28years-later.jp/

前作の「28週後」は、詳細は忘れたけれど、かなり怖い感染ものだったことだけは覚えている。同時に、感染症に対する免疫を持つ子供たちと赤ん坊を救う人間ドラマでもあった。ちなみに1作目の「28日後」はたぶん見ていない。

本作はシリーズ3本目で、前作で封じ込めに失敗した感染症がイギリス全土にひろがり手が付けられなくなった世界のお話。とはいっても、前作のように米軍やNATOが出てきたり、感染症対策の複雑で政治的な動きがあるわけではない。

本作では後半にかけて、感染症の恐怖は背景に後退し、代わって人間の死すべき定めに焦点があたっている。少年は病の母親を連れて危険な大地を横断し、一縷の希望に縋って医師の男に会いに行く。その終着点で見る光景が、圧巻。白昼のカタコンベとでも言うべきこの構築物を、仮に芸術作品として素のままで世に問うたなら、おそらく囂々の非難を浴びることだろう。けれども映画の一つのシーンとして描かれたことで、その意図は誤りなく伝わってくる。これは医師の言う「メメント・モリ」そのものだ。

この林立する骨たちの足元で、医師は少年に、母親の病は末期であることを告げ、人の定めを静かに諭す。そして別れ際に「メメント・アモーレ」と希望の言葉を贈るのだ。この医師役をレイフ・ファインズが務めていて、たいへんよかった。

さて以上が大筋なのだけれど、実はこのほかに、前日譚とそれに呼応する後日譚が付いている。これは本編の滋味深い高尚な空気とまるで違っていて、狂気じみた軽薄な趣だ。変だと思って見ていたけれど、後で検索してみるとこんな情報があった。

https://jp.ign.com/28-years-later/79948/news/28
「現代のイギリスでも屈指の悪名高い人物を思わせる描写が明確に含まれており、観客の間で波紋を広げている」

この辺りは日本人の私にはまったくわからない。これは当然、作り手の真意を含んでいるはずだから、そうすると私はこの映画を半分しか理解できていないことになる。

うーん。複雑な心境になりますね。
続きは次作を見てから、ということで。。。

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2025.06.23

「国宝」

https://kokuhou-movie.com/

芸道ものの本道をいく大作。しかも伝統芸能という因習の世界での話で、芸術家の葛藤とはまた違う、社会との軋轢も加わって見ごたえ十分。人間国宝を演じる二人の俳優、吉沢亮と田中泯の鬼気迫る存在感に圧倒されます。映画というフレームワークでは、表情のアップなども効果的に使われるので、その迫力はいやがおうにも高まります。こんなやつが隣にいたら落ち着かないけど(笑)

吉沢亮と対を成す役回りの横浜流星の方には、それとは別の軸で魅了されます。人間離れした二人の人間国宝と違って、彼の役は、とびぬけた才に恵まれたわけではないのに、家柄という立場上、主役を演じることを宿命づけられている人間の苦悩と足掻きを表すこと。それをきっちり演じ切っていました。病を押しての最後の舞台は泣かせます。

作中で、先代の国宝が死の床で話す言葉がとりわけ印象に残ります。彼ほどの境地に達した人間が、その目指したものと引き換えに何を差し出してきたかが、よく表れていました。

そして、彼らが引き換えに得たものの言いようのない美しさを、吉沢演じる次の国宝が示してくれます。

芸を極めようとする者の突き抜けた姿と、それに関わった人々の愛憎半ばする心情に揺さぶられっぱなしの3時間。邦画もやればできるじゃないかと思わせてくれる作品でした。

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2025.06.22

「罪人たち」

https://www.warnerbros.co.jp/movie/o596j9bjp/

出だしは、アフリカ系アメリカ人がエンタメビジネスで成り上がっていくお話のように始まるけれど、途中から音楽というものの魅力と魔性のような話に変わっていく。それに引き寄せられる人ならざる生き物の振る舞いは従来型のお約束で固めつつ、彼らを人間以上に理性ある存在として描くことで、魔性はむしろ音楽そのものに宿っていることを浮きあがらせているように見える。

プロスポーツに詳しくないので、マイケル・ジョーダンがどうのという話はよくわからないけれど、俳優としての彼が作品の足を引っ張らず、かつ出過ぎもせず、ぴったりとこの魔の物語にはまっているのはたいしたものだと思った。

本作には後日譚が付いていて、そのおかげでずいぶん印影が濃くなった。そして仕上げに、若かりし頃の主人公が無心に演奏する姿を持って来て、爽やかな仕上がりになった。途中は、摩人たちとの血みどろの闘いで魔性全開だったけれど、この締めのおかげでさっぱりした風が吹き抜けていった。音楽というものの二面性をたっぷり見せたあとで、良い面を出して締めくくる、なかなかよい作品でした。

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2025.06.15

「ガール・ウィズ・ニードル」

https://www.transformer.co.jp/m/needlemovie/

戦争は悲惨だということは言葉にしてしまえばそれだけだが、実際どれほどの恐ろしい淵を招き寄せるかは、体験しないとわからないことなのかもしれない。本作のような緻密な映画は現実味を帯びた虚構の世界を通じてその一端を見せてくれる。

数え上げただけでも種類の異なる悲惨が4つ5つと本作には詰め込まれている。しかもそれが玉突きのように因果を辿りながら最大の悲惨に向けて進んでいくのだ。見る側は予測不可能なその進行を息をつめて見守るしかない。

その最大の悲惨を体現する女が比較的早い段階で現れる。困窮する人を見捨てておけない親切な人間として描かれ、実際にそういう性分なのだろうと思わせるエピソードもあり、こちらはその善性を信じかけるのだが。。

戦争の悲惨とはまさにこれを言うのだろう。環境が悪を成さざるを得ないところまで人を追い込むのだ。同じ環境でもそうならない人もいるという反論は気休めに過ぎない。誰でもこの女のようになる可能性がある。神を試すなかれ。

絶望的な結末を迎えたまま、主人公もこの地を去り、暗い気持ちで席を立つのかと思った最後に後日譚があり、ささやかな修復が実践される。光差すその短い一遍がみごとで、そこまでの不穏な気持ちが穏やかなものに変わります。最後に救われました。

深い物語を紡ぎ出す映像が見事です。

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「JUNK WORLD」

https://junkworld-movie.com/

「JUNK HEAD」を見たのは2021年だから3年前・・・内容はさっぱり覚えていない、というかストーリーはこの作品では副次的なものに過ぎない気もする。なにしろその時の感想文を読み返してもさっぱりわからないw
http://hski.air-nifty.com/weblog/2021/04/post-b9fabc.html

ただ、イマジネーションの凄さに圧倒されたことだけは覚えている。全編が謎と怪奇と諧謔と低俗に満ち溢れていた。見ているこちらは、それらを種にして自由にイマジネーションを膨らませることができた。そこが最大の良さだった。

本作にもそれは受け継がれているものの、どちらかというと安定している。前作のような行き当たりばったりな展開ではなく、考えた筋書に沿って作られている感じ。相変わらず驚きの展開があるけれど、個々のシーンでのキャラクターの動きはある程度予想がつく。
それでも、あの円らな瞳の無力な人形が、千年の時を超えて準備を整え帰ってくるひたむきさには感じるものがある。無力で即物的な世界に並行して存在する、目的意識に貫かれ進歩と研鑽を怠らないもうひとつの世界。見た後でじっくり振り返ってみると、この二つの対比は刺さります。

この第2作目でオドロオドロした世界像が後退して、三作目の完結編はどうなるのか、期待が高まります。

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2025.06.09

「Devil May Cry」

https://www.netflix.com/title/81506915

NETFLIX 全8話

元はゲームだそう。ネットにいろいろな感想が載っているけれど、元のゲームとの違いで良し悪しを言っているものが多い。私は元を知らないので、先入観もなく単純に映像作品として見ることができる。その感想はというと、とてもよく出来ていると思う。お約束に従った盛り上げ方とか、キャラの立ち具合とか、一級品です。
それに加えて、いままさに世界中で問題になっている移民問題をなぞるかのようなストーリー展開。国際政治の非情さが産み落とした悪の感情。それらに翻弄される普通の市民感覚。そういったものが物語の骨格を成していて、安定感がある。その上に割といい出来のアクションが載っているので安心して楽しめる。

8話で一応の決着かと思ったら、これが序章のようで、次も出たら見てみたい。

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「我来たり、我見たり、我勝利せり」

https://hark3.com/vvv/

ちょっとぶっ飛び過ぎていて、どう評価したらいいのかわからない。
いわゆる超富裕層で投資の才能は頭抜けているが、行きずりの人間を銃で撃ち殺すという性向がある男がいて、政府も警察も周囲の人間も、彼の社会的地位故に見て見ぬふりをしているという胸糞悪くなるお話だ。

金持ちが一般人を銃で狩る娯楽に興じるというと「ザ・ハント」を思い出すのだが、あちらは一般人の方も米国市民らしく武器を手に反撃し、娯楽気分の金持ち達に死の鉄槌をくれてやる予定調和的な結末で安心できたけれど、本作はそれとは全く違う。

人間狩りを性癖に持つこの男は、では凶悪な雰囲気を漂わせているかというと全く逆で、むしろ家族を大切にする良き家庭人として描かれている。そんなミスマッチがあるものだろうか。

殺害に及ぶときは、毎回証拠隠滅の手筈を整えて実行しているところを見ると、あからさまにやってはまずいことはわかっているようだ。けれどもそれは罪の意識からではなく、単に面倒ごとを引き起こさないための単なる手順、様式に過ぎない。見つからなければ罪ではないという考え方だ。

人は平等であり基本的人権が尊重される社会に暮らしている我々にとっては、全く理解できないけれど、近代以前ではこういう感覚も不思議ではなかったのだろうか。

映画が進むにつれて、こちらの常識の壁が崩されていく感覚があって、その意味では映画らしい映画と言うべきなのだろう。初めは主人公の罪を追求しようと食い下がる記者が、次第に取り込まれて、ある衝撃的な事件の後は忠実な僕に変わってしまう。その様子が、見る側の常識の変容を象徴しているかのようだ。

良識からすれば嫌な映画だと言うべきだが、さてどうだろうと考え込んでしまうような巧妙さがある作品でした。

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2025.06.01

「アッシュ ~孤独の惑星」

https://www.primevideo.com/-/ja/detail/%E3%82%A2%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5-%EF%BD%9E%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AE%E6%83%91%E6%98%9F%EF%BD%9E/0FKICWHBWVILZ80VMMJ62B73SH

アマプラの新作というので期待してみて見たけど、まあ、そこそこという感じ。
人類が移住先を求めて背水の陣で探査活動を展開した先で、探査チームが異星の生物と遭遇し・・という話は飽きるほどある。本作もまあそのひとつで、目新しさはない。

探査基地の惨劇の原因は早々に予想がついてしまうのだが、作り手は故意にわかるようにしている。それだけならあまりにもステレオタイプだからだろう。そのありがちな筋書で引っ張っていって、最後にその理由にちょっと捻りを加えているのが新しいといえばそう。考えあぐねてそうしたのだろうか。アイデア自体は悪くないと思うのだけれど、主人公の女性がなぜ特別なのかが最後までわからず仕舞いだったのが残念。もうひと頑張りしてほしかった。

宇宙服のデザインなどは割と私の好みだったのはよかったです。

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