https://gaga.ne.jp/sacredfig/
これはまた感想を書きづらい。一言で言えば、権威主義が家族の関係に亀裂を生じさせ崩壊させるまでを描いているのだが。。
市民から評判の悪い革命裁判所の職員である父が、昇進の際にその地位の証のような形で貸与された拳銃を家の中で紛失する。それを探し出す過程で、家族間の信頼関係が壊れ次第に猜疑心に支配されるようになり、最後には暴力が渦巻く修羅場になってしまう。
この父親は、昇進する前は保守的で善良な市民だった。その普通の人が次第に狂気にとりつかれていく過程が描かれている。表面的に見れば、この父親が悪役であり、家族たちは悪くないということになるはずだが、ふと疑問も覚える。
拳銃は結局誰が隠したかわかるのだが、そこだけ見ればいたずらにしても度が過ぎるというところだ。父親に同情したくもなる。体制側の役所の職員であるというだけで身の危険に晒されながら生活しなければならない重圧にしてもそうだ。
とはいえ。
作中ではあまり深くは描かれていないこともある。革命裁判所というところが、碌な審議もせずに市民を簡単に死刑にするらしいということが、父が昇進した直後の仕事場の描写で少しだけ描かれる。それがどの程度真実なのかは、こちらからはわからないが、その後のストーリー展開の基礎として重要だ。一体この体制の歯車でしかない父親はどの程度罪深いのか。それは、家族の反応から観客それぞれが推し量るしかない。父は家族を嘘ばかり言うと詰問するけれど、家族の側からすれば非道で恥知らずな仕事内容を黙っていた父の方こそ嘘つきだろう。
ひとつだけ確かに言えることはある。体制側にしても反発する一般人側にしても、はなはだしく狭量で鷹揚さを欠いているということだ。服装警察という言葉が作中にも出てくるけれど、服装が気に入らないというだけで市民が逮捕されたり拘置所で暴行を受けて死亡するなどというのはまともではない。そういう体制側の反知性的な行動が、一般人側からも余裕と寛容さを次第に奪い、対話も成立しない息苦しく危険な環境を作り上げてしまっている。
これは経済制裁に喘ぐイラン国内の話で、貧すりゃ鈍すで片付くことかもしれないけれど、これから下り坂の我々もひょっとすると、と考えるとひとごとではないのかもしれない。