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February 2025

2025.02.24

「仕掛人・藤枝梅安」

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0D7CC7G5H/ref=atv_dp_share_cu_r

amazonPrimeで。

原作も名作なら映画も文句なく名作。

昭和生まれのおっさんである私にとっては、こうした娯楽時代劇は子供のころに親しんだ原風景のひとつだ。そこには、近代が押し殺してきた情緒と感性が息づいている。

もちろん、歴史上の江戸時代の実相については正統な学説があるのだろうけれど、私のような無学無教養な一般大衆にとっては、池波正太郎が描いた江戸が真実だ。司馬遼太郎が描いた明治が多くの人々の原風景になっているのと同じように。

長く続いた原作の中で、本作はその最初のエピソードになる。登場人物もまだ多くはなく、その分深く掘り下げられる。2作目以降はどうも少し騒がしい感じもするのだが、最初のこの作品には翳が色濃く、その中で、生き別れた肉親や男同士の相棒や、正道を歩めなかった人々のそれぞれに主人公が下す対処が、言葉少なく静かに語られていく。

心を揺らす最後の仕掛で梅安が口にした言葉が、強く印象に残る。

見終わったあと、長く深いため息をつかせるような、哀切に満ちた作品でした。

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2025.02.23

「アップルシード」

https://www.amazon.co.jp/APPLESEED-%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%84%9B/dp/B0145X7FUK/ref=sr_1_4

amazonPrime に来ていたのでつい見てしまいましたよ。懐かしさもあるけど、なによりこの40年前の作品のテーマは、今まさに具現化のとば口に立っているわけで、驚きます。SFファンタジーがもうSFではなくなりつつあるっていうね。

ただ残念ながら映像作品としてはもうひとつ。あの時代は全編3DCGということ自体に大きな意味があって、それが自己目的化してるきらいがあり、いま見るとだから何という気分にはなる。物語としても原作が持っていた紆余曲折が整理・圧縮され過ぎて急ぎ過ぎ。そして音楽がもっさりし過ぎ。

でもこのテーマ、ほんと面白いんよね。
たぶん攻殻機動隊より私はこっちの方が好きですね。士郎正宗はこの物語を中断凍結してしまったそうだけど、再開してくれないかなあ。。無理か。

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「死に損なった男」

https://shinizokomovie.com/

一見、キモい映画のように見えるけど、これが実に滋味のある良い作品。必見です。
以下はネタバレですが、できれば予備知識なしに見ていただきたい。

* * *

本作には様々な立場、背景の人々が登場して、それぞれの考えや行動が交わっていくのだが、そのリアリティがとてもいい。観念的過ぎず、かといって生臭さ過ぎず、ほどよい程度で人間社会の多様性や生きる意味を実感できる。

その多様な、あるいは多面的な感じは、感情の質においてもいえる。主人公の仕事は漫才の構成作家なので、当然、作中にお笑いのステージが出てくるのだが、それがまたバカ笑いではなく、まことに味のある泣き笑いでじんわりくる上に、その内容が外側を包む映画の核心部分と共鳴して物語を前に進める力にもなっている。まるでアーモンドをチョコでくるんだお菓子のよう。

さらに、ここにはステレオタイプな人間というのは出てこない。もちろん、どこかで見たような役柄ではあるのだが、ちょっとだけフィクションのお約束を外すことで妙なリアリティが出てきている。

たとえば、DVの元夫に言い寄られた女性の反応は、普通のお芝居なら激烈な拒否だろうけれど、本作ではそうなっていない。恐怖で動きが鈍くなっているような煮え切らない態度が、見ている方をむずむずさせ、DV男への嫌悪感をかきたてる。

あるいは、主人公がその嫌なDV男を刺し殺そうかという場面で、相手を刺さずに自分の腹を刺す場面。これは実は、幽霊男に詰め寄られたときに包丁を自分に向ける場面と重なって、彼の絶望の根深さをこれ以上なく表しているだろう。誰もが無意識に自己防衛反応を示すはずのまさにその頂点で、自分に刃を向けてしまう意外すぎる筋書は、人間を深く観察した結果ならではだろうか。

そして、何と言っても圧巻なのは、幽霊男。このおやじは幽霊のくせに足もついていて、相手の胸倉を掴んで激しく詰問するなど、およそ幽霊らしからぬ強烈な物理的存在感を放っているだけでもう規格外なのだが、中年男役の典型ともいえる横柄で粗暴で無能という姿を示すはずが、意外にも、行動が面白くてキモ可愛いうえに、主人公の創作活動を援けたりもする有能さを発揮する。中年男性の侮れない能力を遺憾なく示しているのである。中年ってバカにされるのが役柄だと思っていたら、とんでもありませんでした。そりゃ普通に有能で人間理解も深いよね、年取っている分だけ。あたりまえだわ。

そういう風に、お約束を微妙に壊してリアリティを導入しているところから、滋味のようなものがじんわりと滲みだしているのが、本作のたいへんよいところです。

繰り返しになりますが、どうみても必見の一本です。

 

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2025.02.16

「セプテンバー5」

https://september5movie.jp/

今の日本のTV報道に、果たしてこういう緊張感はあるだろうか、ということをつらつら考えさせる作品。もちろん、こういう経験が共有され積み重なって今の行動規範の体系ができあがっているのだろうと思いたいけれど。仏作って魂入れずになっていないかどうか。

まあ、TVを見なくなってかれこれ10年くらいになるから、最近のことはさっぱりわからないけれど、ネットや新聞を通じて聞くTVの醜態は、何かの終わりを感じさせることが多くなっている気がする。
とはいえ、その代わりとしてはSNSも混沌への道を突っ走っていて、どこを見ても救いは無いわけだけれど。

古い感覚で言うと、この状況を打開するのは良識を保持している個人の発信の積み重ねでしかないのだけれど、そういう個人の割合も減ってきているだろうか。

そんな風なことを想起させる作品でした。

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2025.02.12

「ウィッチャー 深海のセイレーン」

https://www.netflix.com/title/81484026

NETFLIX

うーん。二級品て感じ。音楽がだめなんですわ。
普段意識しないけど、こういうのを見ると音楽がどれほど重要かよくわかります。

お話はまあ普通。
人魚の絵というかデザインは割といい。不気味に描かれることが多いモチーフだけど、この作品では上品に描かれている。

結末はウィッチャーらしいというか、怪物も人と同等に生きる権利がある世界観が出ていました。まあそんなところ。

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2025.02.11

「野生の島のロズ」

https://gaga.ne.jp/roz-movie/

遭難した船に積まれていた家事ロボットが、野生の島で偶然起動し、ちょうどそこに居合わせた雁の雛を育てることになったことから始まるお話。雁の成長物語であると同時に、育てる側のロボットの変化の物語でもある。

本作はこの両者の成長と変化が絶妙のバランスで組み合わさっていて、最初から最後まで楽しめる。なんといってもディテールがすばらしい。子育てものの中でもトップクラスの出来の良さだろう。

映画には密度というものがあると思うのだが、この作品はそれがかなり濃い。その理由はたぶん繰り返しにある。
一番はっきり見えるのは、ロボットが修理のために都市に連れ去られるシークエンスを、2回繰り返しているところだ。最初は島を離れることに抵抗し、2回目は、自ら悟って去っていく。この繰り返しによって心情の変化が浮彫にされる。
あるいは細かいところ、たとえば冒頭の狐との卵の奪い合いでも、すこししつこいくらいに繰り返しが仕込まれている。こうすることで、狐という存在を作品の中の特別な位置に押し上げている。

物語の筋の良さと同時に、厚みを持たせる様々な技巧が凝らされた、イチオシの一本でした。

そうそう、出だしからしばらくのアニメーションの質感がまた素晴らしかったことは特筆しておきたい。

* * *

ところで、普通に感想を書くならこれでおしまいなのだが、もう1点追記しておかなければならないことがある。

ほんの数年前であれば、本作はよくできたファンタジーに過ぎなかったはずだ。ところがいまや、これはひょっとすると近未来の現実を先取りしている作品なのかもしれないと思えてくる。そうすると、作中で描かれている、「見えないもの」の存在が俄然気になってくる。

科学者の中には、人間の意識などというものは、生化学反応の単なる集積に過ぎないとする説もあるやに聞くけれど、本作はそれを明確に否定している。科学技術によって作られたロボットに、存在しないはずの魂を仮定しているのだから。

生成AIに創発のような現象が観測されるいまの時代にあって、この作品をどう考えたらいいのか、判断に迷う。まあ、人生の楽しみが増えたと思っておこうか。

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2025.02.09

「オーダー」

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC-Justin-Kurzel/dp/B0DS6FZF43

amazonPrimeで。

実話がもとになっているそう。1980年代くらいの話だろうか。主人公はFBI捜査官なのだが、テロリストのリーダーはもう一人の主人公ともいえる。そのくらいの濃さで描かれている。

そのテロの主犯だが、彼のようなことを考えたり実行したりする人が実際にいる、いた、ということにまず驚く。現代の我々日本人にはおよそ想像もつかない。武器がカジュアルに手に入るアメリカならではの妄想に染まる話なのだろう。

そう。彼の計画はあくまでも妄想に過ぎない。

前の大統領選の議会占拠事件は、武器が違法な国の者の目には、馬鹿々々しい騒動にしか映らなかったけれど、米国人はひょっとすると、あそこにもし武装集団が紛れ込んでいたら、と感じていたのだろうか。

そんな風な環境の違いなど考えながら見終わりました。

武力革命など目指さなくても、現大統領がそれに似たことをやり始めそうな現実を前にすると、作り物の映画など色褪せると言うしかないのが、ちょっと残念。というか現実のニュースの方が明らかに面白いの、どうしたもんでしょうね。(笑

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2025.02.03

「おんどりの鳴く前に」

https://culturallife.co.jp/ondori-movie/

「あなたは三度わたしを知らないと言うであろう。」
聖書の有名な逸話からタイトルを取ったのだろうか。

お話自体は実によくあるもので、何も目新しさはない。
村を支配する権力者の口封じに屈して正義を見失いかけていた男がいる。権力者が村人を取り込む手管は相手の最も欲しがっているものを与えること。この男はそうして篭絡されかかっている。非道な行いを何度も目にしながらその度に、「私は知らない」と言い逃れる、心弱きペテロ。

それがとうとう耐え切れず、勇気を振り絞って暴虐に立ち向かう。実にありがちな筋書きだ。

この作品を他の同様のものから分ける点があるとすれば、それは、タイトルに工夫があること。ルーマニアは正教会が8割だそうだから、その地の人々はこのタイトルを聞いた瞬間にある心象を抱くことだろう。そして映画の中身は彼らが日常抱えるものを映し出しているのかもしれない。

まあ、凡そそういう作品でした。
つくりはわるくない感じです。

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2025.02.02

「アンデッド/愛しき者の不在」

https://www.undead-movie.jp/

ゾンビもの映画は、元人間がゾンビに変わった瞬間から人間の不倶戴天の敵になる。まだ人間でいられるうちは、ゾンビが元誰であれ、可能な限り早くゾンビを打ち倒さなければ自分がやられる。その凄まじいストレスが、これまでのほぼすべてのゾンビ映画の基本だった。もちろん「ウォーム・ボディーズ」のような例外的な傑作はあったけれど。

本作はそこをスローダウンしている。緊張感はあるものの、ひょっとしてこのゾンビは人の世界に戻って来たのでは、あるいはそれが可能なのでは、と思わせる微妙な境界線上をゆっくりとたゆたっている。

その間、周囲の人々は様々に思い悩み、一抹の希望を胸にそれぞれに行動する。その心の裡を想うと居たたまれない気持ちになる。見ている方も、ひょっとしたらという希望を共有する。

けれども、生きとし生けるものは全て、死すべき定めを負っている。枉げることはできない。

本作はその定めを、格調高く、美しく謳い上げている。三組の当事者たちの中で、とりわけ、小さな子を喪う母の哀しみと別れの言葉は胸を打ちます。

内容に呼応した音と音楽の使い方が素晴らしい、長く記憶に残るだろう作品でした。

 

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