「アット・ザ・ベンチ」
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全5話の短編を繋いだ作品。河川敷にぽつんと残された古びたベンチで交わされる人情劇。
想いを言葉で伝えようとして、言葉というものの曖昧さゆえに想いがすれ違う様を、繰り返し描いています。
第2話が特に、腹の皮がよじれる面白さで、これは普通にお笑いとして一級品です。冴えない男女の女性から男性へのちょっとした不満の蓄積を、遠回しな言葉で伝えようとしてすれ違い、それをまた言葉で補おうとしてよじれていくドタバタ劇。可笑しくて涙がでちまいました。
第3話は、すれ違いをうまく解消できずにお互いに感情が高ぶり、売り言葉に買い言葉の応酬になってしまう姉妹がふと、伝わらない思いの理由は、聞こうとしない態度ゆえであると気づいて、そこから想いが通じていくお話。前半のささくれ立った空気が、本質を突いたたった一言で転回し、和やかな空気に落ち着いていく安堵感がよいです。
第4話は、少し説明っぽいお話。この作品のいわば解説のようになっています。見る方はここで初めて、想いが伝わらない言葉のやりとりのもどかしさが本作の補助線であると知らされます。
そして第5話。実は、第1話とセットになっています。4話までで、想いを伝えることの難しさを意識させられた下地の上で、寂しいとは本当はどういうことなのかが語られます。幼馴染の男女の女性が「やっと伝わった」というところが本作の白眉です。1話で既に出てきた、長い付き合いの男性をただ呼び出す、たったそれだけのことが、どれほどの幸福なのか、それが第5話で胸に迫ってきます。明日にはなくなってしまうその情景を、二人で一緒に見ておきたい、ただそれだけのために無心に呼び出し、相手もそれにためらいなく応じる、そういう関係の愛おしさが伝わってきます。第5話で2回目の「のり君呼んで」の台詞を聞いた瞬間に、この映画が伝えたいことが雷光のように閃きます。
それを伝えきった広瀬すずの力量も素晴らしかった。
一見すると第2話が他を食っているように見えますが、実は第1話と5話の組み合わせにじんとくる、とてもいいお話でした。