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November 2024

2024.11.24

「アット・ザ・ベンチ」

https://www.spoon-inc.co.jp/at-the-bench/

全5話の短編を繋いだ作品。河川敷にぽつんと残された古びたベンチで交わされる人情劇。
想いを言葉で伝えようとして、言葉というものの曖昧さゆえに想いがすれ違う様を、繰り返し描いています。

第2話が特に、腹の皮がよじれる面白さで、これは普通にお笑いとして一級品です。冴えない男女の女性から男性へのちょっとした不満の蓄積を、遠回しな言葉で伝えようとしてすれ違い、それをまた言葉で補おうとしてよじれていくドタバタ劇。可笑しくて涙がでちまいました。

第3話は、すれ違いをうまく解消できずにお互いに感情が高ぶり、売り言葉に買い言葉の応酬になってしまう姉妹がふと、伝わらない思いの理由は、聞こうとしない態度ゆえであると気づいて、そこから想いが通じていくお話。前半のささくれ立った空気が、本質を突いたたった一言で転回し、和やかな空気に落ち着いていく安堵感がよいです。

第4話は、少し説明っぽいお話。この作品のいわば解説のようになっています。見る方はここで初めて、想いが伝わらない言葉のやりとりのもどかしさが本作の補助線であると知らされます。

そして第5話。実は、第1話とセットになっています。4話までで、想いを伝えることの難しさを意識させられた下地の上で、寂しいとは本当はどういうことなのかが語られます。幼馴染の男女の女性が「やっと伝わった」というところが本作の白眉です。1話で既に出てきた、長い付き合いの男性をただ呼び出す、たったそれだけのことが、どれほどの幸福なのか、それが第5話で胸に迫ってきます。明日にはなくなってしまうその情景を、二人で一緒に見ておきたい、ただそれだけのために無心に呼び出し、相手もそれにためらいなく応じる、そういう関係の愛おしさが伝わってきます。第5話で2回目の「のり君呼んで」の台詞を聞いた瞬間に、この映画が伝えたいことが雷光のように閃きます。
それを伝えきった広瀬すずの力量も素晴らしかった。

一見すると第2話が他を食っているように見えますが、実は第1話と5話の組み合わせにじんとくる、とてもいいお話でした。

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2024.11.23

「Arcane シーズン2」

https://www.arcane.com/ja-jp/

物語は正直に言うとちょっと弱いというか、話が飛ぶので追っても仕方がありません。そこをキャラクタの造形で補っている感じ。いかにもゲームが原作らしい作りです。アニメーションの凄さは相変わらずどころか、シーズン1よりさらに質が上がっている感じ。

シーズン1ではジンクスとシルコという地下世界の住人が興味深いキャラクタでした。シーズン2では、逆に地上で繁栄する都市の為政者と科学者がクローズアップされます。よくわからない魔術師みたいなのまで絡み、いくつもの協力と敵対の関係が錯綜して、最終話まで話は混沌とします。結局2つの陣営に収斂して最終決戦にもつれ込みます。まあ妥当な落としどころでしょうか。

お話の背景にある思想も興味深いものがあります。覚醒した男の口を借りて語られる2つの考えが印象に残ります。ひとつは、善と悪はコインの裏表でありどちらも人間性の発露である(ゆえにどちらかがもう一方を滅ぼすことはできない)というもの。もうひとつは、「完全」には価値がないー(それは)追及の終焉なのだということ。(これに先立って、不完全だからこそ優れた人格がかたちづくられたという台詞がある)
いやーそういうこと日本の制作者はこっぱずかしくて言えませんよね。でもフランスの制作陣がつくるとなんとなく頷いてしまいます。

アニメーションの絵の質が凄いのもフランス人の手になるからなのでしょうか。もちろん、それを支える予算は、日本のTV局あたりではたぶん不可能なレベルなのでしょう。

美の基準がそもそも違う。静止画でも凄いのに、その質を落とさずになめらかに動かしている。NETFLIXはよくこれだけのものを支えるお金を出してくれました。値上げはもう完全に許します。

そういうわけで、期待どおりの凄いアニメーションでした。

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2024.11.18

「ロボット・ドリームズ」

https://klockworx-v.com/robotdreams/

これはいつの作品なんだろう、と思わせるような幸せな記憶に満ち溢れている。背景に出てくるニューヨークの街並みの向こうにはいつも、テロで破壊される前のWTCのツインタワーが見えているし、セントラルパークではローラースケートが大流行している。

そんな豊かなアメリカの黄金期を背景に、ひとつの友情が育まれ、運命の綾で引き離され、元通り回復しようと様々な努力をするも報われず、いつかまた別の友情を見つけていく、といったようなお話。それをゆっくりとほのぼのしたアニメーションで描いている。

まあ、見る必要があるかと言うと見なくてもいいけれど、見れば見たなりに、何も考えなくても幸せだった頃を思い出せるかもしれない、そんな作品でした。

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2024.11.17

「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」

https://gladiator2.jp/

「力と名誉」が主題になっている。この種の映画では黄金パターンだ。名誉を気に掛けなくなった力が暴走するのを食い止めて名誉を取り戻すというお話。

ここに2つの復讐が絡んでくる。ひとつは敗戦から奴隷となった主人公の復讐であり、もうひとつは彼の所有者である奴隷商の復讐だ。奴隷商は前者を利用しながら状況を巧みに利用して自らの復讐を果たそうとする。その過程が闘技場の見世物と組み合わさって、映画としての面白さを支えている。

名誉のための復讐と力づくの復讐との違いを、観客は闘技場のクライマックスで目にすることになる。ここが本作では折り返し点になる。名誉をはっきりと意識した主人公の行動が変容し、闘いに目的が生まれる。

その後は奴隷商の復讐に移る。こちらは力づくの復讐、おそらくは個人的な恨みに基づいたものだろうか。こちらも成就するのだが、後味が悪い。名誉を伴わない力というものの醜さを表している。結局は奴隷商も主人公に討たれて、予定調和が完成するのだが・・

少し展開が速すぎるというか、背景事情の空白が大きくて、もうひとつ感情的に乗れない気分だ。たしかに筋はよくできているのだが、奴隷商の行動原理が明かされないままなので、彼の恨みの深さが伝わってこない。おそらく俳優の力量でそこを乗り切ろうとしたのだろうけれど、少し無理があった。前作にこの背景があったのなら、初めに少し思い出させてほしかった。

148分という時間を感じさせない迫力ある絵作りや物語の展開はさすがだけれど、それでもまだ、これだけの複雑な問題を扱うには尺が足りなかったかと思う。とても惜しい感じのする作品でした。

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2024.11.10

「動物界」

https://animal-kingdom.jp/

気になる作品ではあった。自分と異なる他者との共存という点が喧伝されていたのだが、実際に観てみると、そういう要素は弱かった。これなら例えば移民をそのまま描いた作品、例えば「パティモン5」とかの方が他者との共存の課題をはるかによく描き出している。

では本作の見どころはというと、鳥人間の彼が何度も墜落しながら、とうとう大空を羽ばたくシーンだろう。ここが本作の感動の頂点だ。自分の意志ではないにしても、何者かになることを強要され、その運命を受け入れ必死の努力の末にそこに辿り着く者を描いている。
主人公の彼はそれを手助けしながら、その魂を受け継ぐ。きっといい狼人間になるのだろう。

最初の期待とは違ったけれど、いいものを見られました。

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2024.11.04

「リトル・ワンダーズ」

https://klockworx.com/littlewonders

自由と無法が横溢したはちゃめちゃな作品。子どもの生命力と冒険心に圧倒されます。今の日本の子どもを取り巻く環境からは想像もできないようなフリーダムを満喫しました。登場する子ども達はいずれも父親不在ということが、このフリーダムを生み出しているのでしょうか。

それにしても、本作では実際に魔力を持った本物の魔女が、現代の普通の生活の中に紛れ込んでいて、さすがの子どもたちもこれには敵いません。どう始末するのかは見てのお楽しみ。そこだけ自力では無理で、ちょっと官憲の手を借りるのは、ずるいといえばそうですが、まあそこはお話ですから。

ゲームの虜である一方で、キッズ用モトクロスバイクを駆って野山を駆け回る逞しさもあり、たいへん好感の持てる一本でした。まあ万引きはよくないですけどね。

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「ゴンドラ」

https://moviola.jp/gondola/

ほとんど声の無い作品。山間の村と村を結ぶ小さなゴンドラの搭乗員の二人が、往復のたびに空中ですれ違う一瞬を通して交流を深めていくお話。といっても、よくある写実的でしんみりした情景ではなく、心温まる展開の中にも、若い娘二人の陽気で派手なやりとりが様々にはめ込まれていて、サーカスでも見ているような楽しさがある。
二人だけではなく、眼下の村人たちとの交流もあって飽きさせない。

初めは一方の停車駅にチェス盤を置いてゲームを楽しむような現実的なものだったのが、次第にエスカレートして、ゴンドラを様々に仮装したり、空の高みで楽器を演奏したり、半ば空想めいた展開になっていく。それがまた奇抜で開放的で楽しい。
宿舎やロッカールームなどでのやりとりが間に挟まって、シスターフッド感も横溢している。

この空想空間は最後には村人たちも巻き込んで、空と地上との大演奏会に発展する。ゴンドラのあこぎな経営者は排除され、彼らの夢の空間が実現して大団円。

いつしか引き込まれて夢中で見てしまうような、楽しい作品でした。

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2024.11.03

「ヴェノム:ザ・ラストダンス」

https://www.venom-movie.jp/

感想文書くのが楽なタイプの映画で助かる。
一言でいうと、シリーズを終わらせるために作りました、というところか。
なにしろ冒頭唐突に悪の親玉風のものが出てきてその敵であるシンビオートたちは世界を護るヒーローであるてことになっているのだ。いつの間に!?
それじゃカーネイジとかの立場がないぞ!?

いや、ヴェノムがヒーローとかやめてくれ。イカス悪役であってほしい。まあちょっと、エディとヴェノムの感傷はいいかなとは思ったけど。

なんかシンビオートの仲間がいつの間にか増えていて、なんですかこれはという気分。おまけに最後まで生き残ってるのとかもいる。エンドロールの最後に新たなシンビオートの存在を匂わせたりもしているから、たぶんあいつらは年がら年中地球に落ちてきているんだろう。パーンの竜騎士かっていう。

このぶんだと、そのうちヴェノムも復活するんだろう。まあ本作はとりあえずの区切りということでいいんじゃないでしょうか。

そうそう、スタッフロールの中でVFX関係の人数の多さが、この映像作品の特徴を如実に表していたかもしれません。寄生体であるヴェノムが繰り出す映像の面白さはこのシリーズのいいところですね。

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