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October 2024

2024.10.31

「モンスターズ/地球外生命体」

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00N0DW8HC/ref=atv_hm_hom_c_OB82b9cc_brws_19_3

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2011年の映画だから、もう十数年前だ。それなのに古い感じはしない。むしろ普遍性が感じられる。

モンスターが住み着いたメキシコから、難を逃れて安全な米国へ戻ろうとする男女二人の旅物語という、少し変わった設定。タイトルから、怪物が派手に暴れるB級ものかと思ったが、実は旅を通じた二人の関係の変化を描いた映画だ。モンスターは要所でお話に緊張をもたらすものの、実際にはほとんど姿を見せない。

本作の良さは、この主人公二人が安易に男女の関係に流れたりしないことだろうか。男の方は初めのうちはその気だったのが、ある失敗から風向きが変わり、真摯な対話の旅に変わっていく。

途中、モンスターの増殖の仕組みが、鮭の母川回帰になぞらえて知らされ、彼らもまた自然の営みの一部であることも描かれる。

旅する二人が背負っているそれぞれの生まれ育ちや境遇が、ある種の不自然なものとして二人を苦しめ素直さを失わせていることと、怪物と思われていたモンスターが自然の営みの中にしっかり根を下ろしていることが、対比的に意識され、それがクライマックスの感動に繋がっていくことになる。

その最後の場面。米国内に無事到着したものの、既にモンスターは壁を通ってこちら側にも襲来していることが判明する。二人が期待した元通りの日常~それが束縛に満ちたものであったとしても~、それはもう取り戻せない。

そんな中で、とうとう全身を現した巨大なモンスター2体の前で恐れおののく二人を尻目に、2体は出会いを寿ぎ歓喜に打ち震える。

ここまで、恐怖の源でしかなかったそれが、いまは幸福の象徴のように見えてくる不思議。それを目の当たりにした主人公二人は過去の束縛からとうとう自由になって、映画は終わる。このあたりの運びが実に上手い。

初めのうちはかなりまだるっこしい感じがあったものの、終盤にかけての緊張感や、米国の外の現実を暗に示す描写などに引っ張られて、感動の最後まで連れていかれます。派手さはないものの良作と言っていいでしょう。

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2024.10.30

「タイムカット」

https://www.netflix.com/title/81504326

NETFLIX

タイムパラドクスの意外な解決法みたいな売り文句を見かけたので見てみた。確かによくある解決とは少し違うけれど、斬新というほどでもない。SFのS的な解決なんてそもそもないのだから、それを期待しても仕方がない。

本作では親の愛を感じられない主人公が、試行錯誤の末に自分の居場所を見つけることを主題にしている。そのためにちょっと手の込んだ、時間差の設定を置いていて、それがタイムリープものにうまくはまっているところが面白い。加えて、人は年月とともに変わるものだということが重要な前提になっていて、安易なタイムリープものとは一線を画している。少し古い時代の風俗や文化を楽しめるという、このジャンルのお約束もたっぷり。

長さも1時間半ほどで手軽だし、まあまあの作品。

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2024.10.28

「ノック 終末の訪問者」

https://www.netflix.com/title/81624341

NETFLIX

ナイト・シャマランなのにうっかり見過ごしてました。んで見てみるともう完璧にシャマラン。すばらしい。

今回は、避けられない災厄に対して、種としての人類はどう身を処すべきか、みたいなお話が下敷きです。昔話に、村の若い女を毎年一人龍神に捧げて安寧を祈る風習がよく出てきますが、あれを極限まで大袈裟にした感じです。

それを例によって、理性とホラーがせめぎ合う形に仕立てて飽きさせません。他のシャマラン作品に比べてもよりいっそう不可解な理由で人が順番に死んでいきます。その理由も、手を下した者も、目の前ではっきりわかっていて、でもそんな理由あり得ない、ペテンだ、という理性とのつばぜり合いです。いやもうこの設定誰が考えたのっていうエグさ。そうして、生き残った者は、また気を取り直して生き続ける。そういうお話です。

最後の、カーステレオのスイッチを入れたり切ったりする無言のやりとりが、実に味わい深いです。他者を犠牲にして生き残ってしまった後ろめたさ、苦い思い、世界の滅びを食い止めるには仕方がなかったという自己弁護、それが二人の間で時間差を持って行き来します。それがはた目にはスイッチを入れたり切ったりの幼稚なチャンネル権争いに見える滑稽さに当の二人が同時に気づいて、ふと笑みが戻ってくる、まるで曇天に一筋光が差したかのように、生きる力が二人の中に湧いてきます。

最高ですね。素晴らしい。

コロナ禍でたくさんの人が亡くなり、当初は本当に人類滅亡もあり得るかと思えた後、しばらくしてどうやらまだ我々は絶滅しなくて済むようだと徐々にわかってきたときの安堵感を思い出します。

災害と隣り合わせでずっと生きてきた日本人の我々にとって、この作品はとても身近に感じられます。避け得ない別れを何度も経験してきて、それでも生き残ったならば、先に逝った人々を心の裡にそっと抱えて、負けん気を奮い起こして明るく前を向いて生きていく、そういうことが、この最後の短いやりとりに凝縮されているようです。

さらにもう一歩考えを推し進めれば、災害に限らずものごとには犠牲が付きもので、それは重いものだけれど、それを言い訳に歩みを止めたりはしないという人生訓に昇華することもできるでしょうか。

シャマラン、相変わらずいいもの作りますね。

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2024.10.27

「ルー・ガルー: 人狼を探せ!」

https://www.netflix.com/title/81686180

NETFLIX

95分という手頃な長さで楽しめる、B級タイムリープもの。わざとらしいところはまあB級だから目をつぶって、なかなかいい感じのオチへ持って行っている。あれこれ伏線もそつなく回収して、おまけも付いて満足感高い。
ジャン・レノがいるだけでなんだか親しみを覚えるのは、まあLEONに衝撃を受けた世代だからかな(^^;

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2024.10.23

「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」

https://www.netflix.com/title/81276500

NETFLIX 全6話

アニメのガンダムはオリジナル以外はちゃんと見たことがないけど、ガンダムとは何かを知るにはそれで充分だ。(異論は認めます)

で、本作はその「ガンダムとは?」をしっかり踏襲している。と思う。
そしてジャパニメーションの綺麗な表現ではなく、フルCGを使った重量感のある映像。これはやばいですよ。もちろん軽快な音楽に乗って全長何十メートルの鉄の塊が飛び跳ねたりはしない。地球からの撤退戦を戦うジオンの敗残兵たちの視点で描かれるガンダムはまさに白い悪鬼だ。

重量感という点では閃光のハサウェイもなかなかだったけど、本作にはああいう嘘っぽさはなくて、さらに質感を加えて綺麗さを拭い去って、見事な悲劇になっていて、ちょっとお腹の底が痛くなるような感じで、つい最後まで一気に見続けてしまいました。状況を丹念に描写していくことでしか表せない、安易な言語化を許さない主人公の心情に真実味があると思った。

平日に仕事の後で見たりすると翌日寝不足間違いなしの作品。

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2024.10.20

「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」

https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

やっと見てきた。なんというか、普通の映画だった。前作から5年の間に、伝え聞くアメリカの現実はこの映画を追い越してしまった感が残った。

自己抑制というリミッターがはずれたジョーカーという人格を、恐れ忌み嫌う人々がいる一方で、それを羨み崇拝する人々がいる。アーサー/ジョーカーがどちらに落ち着くのか、はたまた器用に切り替えながら生きるのかに興味があった。

本作は明確に結論を出した。これでよかったのじゃないか。
アーサー・フレックの物語はこれで終わり。ジョーカーの狂気はハーレイ・クインゼルとその子に引き継がれた。

印象に残った登場人物を三人、挙げておこうと思う。
一人は、アーサーの元同僚の小人症の男。証言台で彼は、自分に優しく接してくれたのは君だけだったと涙ながらに訴える。アーサーの良心を映したような存在。でもそんなものではジョーカーを止められない。

もう一人は、テレビのインタビュアーの男。彼は質問の体を取りながら、アーサーを可哀そうな過去を背負った犯罪者というステレオタイプに強引にはめ込もうとする。はなはだしく客観性を欠いた、マスメディアを代表するような存在。アーサーはそれに激しく反発する。個々の人間を見ずに出来合いのパターンでものごとを理解したつもりになる傲慢と知的怠慢への反発だろうか。

そして最後の一人は、看守の男。この男は当初、アーサーに寛容な態度を示す。それどころか、一時は彼のカリスマに影響されかけたようにも見える。
けれども、法廷でアーサーが看守たちを豚と呼ぶのをテレビ中継で見たことで目が覚める。取り繕った寛容は消し飛び、その夜、ほかの看守たちと一緒にアーサーに暴行を加える。善良を気取っている人々の裏に潜む獣性が爆発する。

三人がそれぞれに、古き善きアメリカという幻想の一面を表しているようにも思えた。それらに対しては、アーサーはジョーカーとして応じるのみだ。一体何がジョーカーを引き止められるのか。

彼を正気に立ち戻らせたのは、父親という立場だった。思いもよらなかったが無意識に望んでいた役割、無力な誰かに信頼され必要とされる立場。それだけが、ジョーカーの狂気を癒すことができた。それがこの映画の結論だ。

至極真っ当な結論を得て、本作は普通の映画になった。それでよかったと思う。ジョーカーを野放しにしたのでは収拾がつかなくなる。メディアが伝える現実の米国の狂いっぷりも、ひょっとしたらメディアが誇張して拡散する幻想に酔っているだけで、大多数の人々はもう少し落ち着いた日常を過ごしているのではないかと希望をもたせてくれる、そんな風にも思えました。

 

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2024.10.06

「ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪 シーズン2」

https://www.amazon.co.jp/dp/B09QH8NMS1/

先行して3話のみ公開されていたところ、このほど全8話が出揃いました。前回ではいまひとつよくわからない感じでしたが、全話揃うとさすがに筋が通って存在感がありました。

主な舞台は、よそびととハーフットの放浪、リンドン、エレギオン、カザド・ドゥーム、ヌーメノールの5つ。各地で光と闇のつばぜり合いが繰り広げられます。短い節ごとに小さなクライマックスがあり、そこから他の舞台に切り替わってまた盛り上がり、という形で入れ代わり立ち代わり山場がやってくる。たいへんな満腹感です。

その中で特に興味深かったのはハルブランド(サウロン)とケレブリンボールのやりとりでしょうか。サウロンの様々な立ち姿、俳優がつくる表情とライティングの効果で、あるときは頼りがいのある友人、あるときは闇の化身と様々に様相が変わるのを楽しめます。
その口舌のうまさに、高い知性があるはずのケレブリンボールが次第に篭絡され、周囲の信頼する部下たちから切り離されていくのが圧巻です。もちろんそこには、ここぞという時に幻影を見せるサウロン特有の魔力が働いていることは言うまでもないのですが、それを使わなくても、相手の野心やプライド、高慢につけこみ、身動き取れない状況を徐々に作っていく様は、まるで蛇が獲物に巻きついてゆっくりと締めあげていくのを思わせます。

この時のケレブリンボールを愚かと笑うのは簡単ですが、己の最も執着するものを読み取って目の前に差し出されたら、なかなか抗えるものではないのですから、これもサウロンと対峙してしまった者の運命と言うしかないのでしょう。むしろサウロンの騙しの技とその背後の非人間的な黒い意志とに刮目すべきです。

もう一つ注目したいのがオークを率いる闇のエルフの存在です。アダル(父)と呼ばれるこのオークの長は、過去にサウロンを排除することにいったんは成功したことから、今度も自分が状況を制御できると考えますが、辛酸を舐めたサウロンに最後にはやられてしまいます。それも、彼の子飼いのオークたちの手で。

なぜ前回と違う結果になったかですが、ひとつの台詞にその答えがあるように思いました。アダルの右腕のオークが、アダルの強引な作戦で味方にも損害が出ることを憂いて、「私たちを愛していないのですか」と諫めようとするのですが、アダルは、「愛するお前たちをサウロンの奴隷にしたくないのだ」と言って取り合いません。この右腕は最後にサウロンに操られ、仲間とともにアダルをめった刺しにするのですが、そのすぐ後に、サウロンに進言しようとしてあっさり殺されてしまいます。用済みということなのでしょう。

父なるアダルと彼が愛した子たちの運命もまた涙を誘います。オークにも愛があった。そしてそれを利用してあっさり踏みにじるサウロンの非情さも浮き彫りにもなります。このあたりに、物語としての本シリーズの良さが感じられます。

世界中でヒットした有名な三部作では、サウロンという闇の王がどういう存在なのかはほとんど触れられませんでしたが、このシリーズで嫌でもたっぷり見せてもらえて、おぞましさがいや増しますね。それが本シリーズの価値だと思います。すごいです。

ほかにも、ドゥーリン王子の浪花節的父子愛とか、若きガラドリエルの時折見せるほんのりした色気とか、おまえやっぱりグランデルフだったのかとか、ヌーメノール執政の絵に描いたような王位簒奪ぶりとか、もう各所で見どころ満載。

全5シーズンの予定だそうなので、これからまだまだ楽しめそうです。

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2024.10.05

「シビル・ウォー アメリカ最後の日」

https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/

社会が崩壊したときのアメリカを映すロードムービーというと、思い出すのは「すべての終わり」だが、あれに比べると本作は、要点だけをピンポイントで浮き彫りにした感がある。また、ロードムービーには目的地があり、そこで物語の総括が示されるものだが、本作の総括は少し予想と違っていた。

始まりは街中の突然の爆弾テロだ。ここを起点に旅が始まり、途中いくつもの小さな章に区切られてお話は進む。

米国が海外で行っている軍事行動と同じことが、米国民自身の上に降り掛かったときの悲惨さ、敵の正体もわからず戦略も目標もない中で、銃を構えた敵意に対峙した兵士のシンプルな行動原理、面倒ごとからは距離を置こうという市民の表面的な無関心と周到な自衛意識、そして予告編にもあった、分断を象徴するような「お前はどの種類のアメリカ人だ」の衝撃的な台詞。それを口にする人々の崩壊した倫理観と幼児性。いずれもアメリカの今をデフォルメして映しているのだろうか。

旅の終わりはホワイトハウスへの突入で締めくくられる。ここで表されるのは、アメリカ云々ではない。そこで映し出されたのは、ジャーナリズムの非情さ、あるいはプロフェッショナリズムだ。それに従事する者の野生の輝きも少し入っていて、人によっては嫌悪感を覚えるかもしれない。
この締めは意外だったけれど、案外これが今のアメリカに最も欠けているものなのかもしれない。

話の要点が明解でテンポよく進む小品という趣の作品でした。
銃撃の重量感ある金属音がリアルなのがポイント高い。

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