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September 2024

2024.09.30

「ボストン市庁舎」

https://cityhall-movie.com/

同じ監督の「ニューヨーク公共図書館」がわりとよかったので、これも見て見ようと思ったわけです。2時間くらいなんだろうとなんとなく思って行ったらなんと4時間半。
疲れました。

内容はまあ、市役所の仕事なので、日本とそれほど違う印象はなかったのですが、やはり移民問題と麻薬関係はちょっと違っていました。

市長自身もアイルランド系移民の子なのですが、その市長がラテン系移民の市民代表たちとのミーティングで自分の先祖の話をします。1900年頃はアイルランド系は「犬」と呼ばれ社会の最下層だったと。それで自分の祖父たちは政治の場に少しづつ代表を送り込んで自分たちの要求が通るように一歩一歩進んできたと。それをやれと、ラテン系の人々に向かって熱く語るわけです。驚きました。これがアメリカかと。

あるいは、都市開発のときに必ず持ち上がる立ち退き問題については、市の担当者が内部ミーティングで、民族ごとに蓄財の方法も違うことからそれぞれの民族ごとに異なるアプローチをする必要があると説明していました。日本ではちょっと想像できないような課題があるのがわかります。

麻薬については、合法化された大麻の店を、再開発のショッピングモールの中に作るという案件が取り上げられていました。中国系の開発業者が、市の規定に基づいてやっているんだという趣旨のことを高圧的に言い募っていました。アジア系と黒人系とのいがみ合いのようで、見ていてちょっと嫌な気分になります。

他の、福祉系や社会保障系の話は、日本と似たような構図ですが、やはりここにもルーツの異なる人々の軋轢があります。

ここの市長は民主党系で、トランプ大統領の4年間を窮屈な思いで乗り切ったのでしょうけれど、差別が多く残っていると言われるボストンで、それなりの実績を上げたようです。締めくくりは彼のスピーチでしたが、その自負と気構えが見えるような良い演説でした。

さて、11月の大統領選まであと2か月ですが、あの国はどうなりますことやら。

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2024.09.29

「憐れみの3章」

https://www.searchlightpictures.jp/movies/kindsofkindness

原題の"KINDS OF KINDNESS"は直訳すれば「優しさの種類」くらいなんだろうか。タイトルの付け方といい、内容といい、考えてしまうと難解になりそうだ。優しさとか憐みとは違う何かが横溢している。

ということで、直感的にまとめてしまうことにする。

第1章は組織に順応させられる男の話。普通の人としての倫理観に反する行動を強制され、何かに従属していなければ不安でたまらない気持ちを利用されて、人を捨てる代わりに安堵を得る、そういう平凡な人間の話だ。

第2章は、これはちょっと難しい。周囲の常識良識に惑わされず、何が正しくて何が間違っているかを己の直感だけで強引に決めてしまう男の話・・この男に対する疑念と不信が最高潮に達したその直後、最後の瞬間に仰天します。これはちょっと凄い。

第3章は奇跡のような何かを探し求める集団に属する女の話。さんざんな苦労を続けてきても見つけられず、つまらないつまづきで心身を捧げて尽くしてきた集団から見捨てられ、藁をも掴む気持ちで手繰り寄せた手掛かりが、ついに探し続けてきたものだとわかったときの言葉にならない歓喜。そのあとすぐに訪れる些細な齟齬で、その奇跡が手の中をすり抜けて永遠に届かないところへ行ってしまう、絶望?喪失感?これは言葉にならない絶妙さがある。

* * *

3話通して見終わると、人間というものがいかにその場の空気に支配されやすい存在かということが痛いほどよくわかります。




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「ビートルジュースビートルジュース」

https://wwws.warnerbros.co.jp/beetlejuice/index.html

1作目は観てないけど、十分楽しめる内容だった。
もし3作目を作るとなったらタイトルはもちろん「ビートルジュースビートルジュースビートルジュース」だろう。それってヤバいことが起きるんじゃないか。

といった風なつまらない面白さが横溢した作品ではありました。
モニカベルッチとかどういう風に生かすのかと思ったらなるほどね。まあ、この作品ならそういう役回りだよな確かに。
私としては、ウィノナ・ライダーとジェナ・オルテガの親子が割といい感じにフィットしていたのと、オルテガの世界に遍く親しみやすさにまた触れられてよかったなという感想です。これ、金髪碧眼の役者にはたぶんできない役で、オルテガの無国籍な風貌って最強だなと思いました。

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2024.09.23

「デイ・アフター・トゥモロー」

https://www.netflix.com/title/60034574
NETFLIXで

2004年公開だから、なんと20年前の映画。ジェイクギレンホールが高校生約で出てます。若いなー。

気候変動の疑いはこの頃には映画になるほど盛り上がっていたということでしょうか。娯楽作品だから急速な変動が起きるパニック仕立てになっているけれど、実際はじわじわと影響が拡大しているのが現状です。破滅的なことは起きないだろうし、そうなるはるか以前に何らかの対策が取られるのでしょう。

とはいえ、つい先日はインドネシアが遷都したニュースが流れていました。地下水の汲み上げ過ぎによる地盤沈下や慢性的な洪水が主因だそうだけれど、海面が上昇すればもたないという判断もあるかもしれません。

20年前と違って今は、気候変動は紛れもなく起きているのが我々庶民にも実感できます。寒冷化ではなく温暖化と、災害の激甚化・頻発化。ひょっとすると東京を捨ててどこかに移住する疎開みたいなことが、起こり得るのでしょうか。絵的には「天気の子」のエピローグのような水没した東京が目に浮かびます。ああなったらなったでなんとか生きていくのだろうなと思います。

氷河期より水の惑星の方がいいかな。生き物が豊かなら。

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2024.09.22

「侍タイムスリッパー」

https://www.samutai.net/

設定が奇想天外なので、これはおちゃらけコメディにちょっとほっこりを練り込んだ軽い作品だと思い込んでいましたが、とんでもない。観てみたら骨太な一級品でした。導入部こそ設定を生かした笑いの要素が多いけれど、中盤のあっと驚く展開から、武士(もののふ)の心のありようを描き出すシリアス劇に変貌します。時代劇を見て育った身にはこの部分の熱さにぐっときます。

主人公の思いは、お家とか国とかを支える意識が第一にあって、個人の尊厳をなによりも重視する現代社会とは相容れないところはあるのですが、それでも、この熱い思いには胸を打たれます。自分が生きている社会、公(おおやけ)に対する思いと言えばいいのでしょうか。主人公が宿敵との真剣勝負の果てに見せる葛藤、それを克服する彼の恥も外聞もない有様は、我々が久しく見失っているものを思い出させてくれます。すばらしい演技でした。
で、そこをあっさり引き取ってコミカルに引き戻す。上手いですね。

描きたいものがはっきりしているから、随所に光る小技にも奥行きのある感慨が宿ります。ケーキを出されてこんな極上の菓子を誰でも食べられるようになった豊かな日本に涙するところなど、笑いと涙でもうどうしていいかわかりません。このシリアスとコミカルの混ぜ具合がいたるところに見られて絶妙です。笑いの方に振った作りなら安易だろうけれど、主人公の生真面目さを使ってシリアス方向にも同じくらい引っ張っている。この起伏のリズムに悶絶すること請け合いです。

これはもう傑作でいいんじゃないでしょうか。
また本格時代劇を見てみたくなりました。

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2024.09.15

「ヒットマン」

https://hit-man-movie.jp/

グレン・パウエル百面相といった趣の作品だけれど、それに留まらずあっと驚く展開が用意されている。結末は「ザリガニの鳴くところ」を思わせる弱者の生存戦略に行き着くのだが、笑いの中に一抹の苦みを含む、それゆえに真摯な作品。好みです。

本業は大学の哲学教授が、副業で警察の囮捜査の殺し屋役に扮し依頼人をだまし討ち逮捕するという設定。個性あふれる依頼人たちに応じて、相手のイメージどおりの殺し屋像を演じ分ける主人公が笑いを誘う。そんな日常(?)の中にも、ふとシリアスな瞬間が訪れ、「愛が憎しみに変わるのをいくつも見てきた」などと素晴らしい決め台詞が挟まったりする。これがお笑い要素ではなく真剣味を帯びて語られるのがいい。笑いと苦みとが交互に現れ互いを引き立てる。

殺し屋と依頼人の会話の意味付けが、それと並走する形で、本業の哲学講義の中で、学生たちに向けた質疑の形で行われる。この二重構造の仕掛けも上手い。いやでも奥行き感が出てくる。

そんな風に上手く世渡りをしているように見える主人公だが、逮捕起訴された依頼人たちの公判に証人として列席するときは神妙だ。相手の弁護士に倫理観を問われて、自分は仕事をこなしているだけだと思わず声を荒げてしまったりするあたりに、彼の内心忸怩たる思いも見える。

そんな彼がある日、依頼人の女性にかけた情けから愛が芽生え、物語が動きだす。それだけで済むならいい話で終わるのだが、そうは問屋がおろさない。この先は見てのお楽しみ。嘘から出たまこととでも言うべき展開に直面した彼の処世の哲学が試される。本業の講義の中では、彼の行動の理論的支柱が先行して示されている。

この物語の結末を善きと感じるか、嫌悪を覚えるか、大袈裟に言えば観客も試されているのかもしれない。作り手は、愛が人を変えたと締めくくっている。確かにそうかもしれない。

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2024.09.09

「ナミビアの砂漠」

https://happinet-phantom.com/namibia-movie/

観始めてしばらくして、ああこれは猫だ、と思ったら、後が楽になった。犬とよく対比される猫の特性が随所に見られる。わかりやすい。ナミビアは関係ない。

ただそうは言っても一応人間の主人公だから、後半は猫から少し離れてもっと複雑な心情が映し出される。男には言えなかった女の辛さ、男には伝わらない悲しみや理不尽、男の身勝手に対する怒りが少し出てくる。
そんな彼女の気持ちを汲むのはやはり女だ。ストレートに抉ってくる女もいれば、優しく包み込む女もいれば、達観を伝える女もいる。。

昔の映画なら、二十歳くらいの女性の成長物語などとまとめるところを、この映画はきっぱり撥ねつける。いつまで経ってもいくつになっても彼女の本質はたぶんあまり変わらない。ただ上辺の取り繕いが上手くなるだけだ。そういう取り繕いをせずに、生の貌を表に晒しながら、この主人公はずっと生きていくのだろう。付き合う男の方はたいへんそうだが、よくしたもので、そういう女にはそれに見合う男がいるものらしい。本作は女の方にずっと焦点があたっているけれど、男の方もかなり見るべきものがあって、なかなか面白い作品になっていました。

ところでZ世代ってよく知らないけど、こういう感じなの?
それ安直にまとめ過ぎてない?

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「レベル・リッジ」

https://www.netflix.com/title/81157729

犯罪ものの映画はかなり食傷気味で、本作も初めはああまたかと思っていたのだが、見ているうちに引き込まれた。大袈裟なカーアクションやガンファイトに粗暴な台詞というのがこのカテゴリの定番だが、本作にはそういうものはない。だから却って映画という虚構の中にリアリティが滲み出ている。

アメリカ人は警察をあまり信頼していないという話をときどき聞く。本当かどうかは知らないが、この映画はその不信感の土壌を抉り出しているような作品だ。

舞台となる片田舎の町は警察に牛耳られている。裁判所の判事もグルで誰もこの状況を変えられない。変えようという気持ちはあっても、個々の弱い立場で生活を人質に取られていれば、誰もが俯いてただ不正をやり過ごすか、消極的に加担するしかない。そういう構造的な腐敗は、村社会にはよくあることなのだろう。

日本であれば因習に根差した怪談のように語られるところ、米国では悪徳警察署長が私腹を肥やす話になる。その動機も、上からの予算が降りてこないから自前で資金を調達するために法律に則って罰金徴収を強化するなどになる。最近中国でそうした動きが顕著だというニュースを見たばかりで、ひどくリアルに感じられた。

単に罰金徴収が厳しいだけなら仕方がないとも思えるが、本作で描かれる警察署長は、そのために記録の改竄、録画の停止、判事の抱き込みなど悪辣な手法を使う。はじめは法規の範囲内だと耐えていた被害者も、次第にエスカレートする狡猾な嫌がらせに対応のボルテージを上げざるを得なくなる。その過程がもどかしくもあるけれどリアルでじわじわくる。

この勝ち目の薄い戦いが最後にどういう結末を迎えるか。それは見てのお楽しみ。普段は目にも入らないごく平凡な大勢の正義感がいかに大切か、よくわかる終わり方でした。

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2024.09.02

「KAOS」

https://www.netflix.com/title/80997258

NETFLIX シーズン1全8話

ギリシャ神話の神々を、現代の風景を使って描きなおしたような、ちょっとヘンテコなドラマ。多神教で人間臭い面を持つ神々を誇張して描くことでドタバタ感を出していて面白い。その中で1点、「人間界の揉め事は神々が原因だ」というさりげない指摘が刺さる。現代の戦争や紛争の多くが宗教が主要な理由の一つであることを皮肉っているかのよう。

お話の中では、予言(運命)というものが重要な鍵になっていて、予言の成就を巡って様々な思惑が入り乱れる。神々でさえその運命からは逃れることができない。このあたりは一神教の神とはっきり違っていて、物語の題材としてたいへん優れている。

このシーズンは、一度は冥界に降りた一人の人間が、そこで見た神々の欺瞞を伝えるために、人間界に生還するところで一区切りになっている。彼女に続いてこれから大勢の人間が黄泉返りを果たしこの世にKAOSをもたらすことになる。タイトルが発現するのは次のシーズンからということらしい。クレタの人間たちがトロイを再興し、オリンポスに戦争を仕掛けると宣言されている。続編、作れるといいですね。

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