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August 2024

2024.08.25

「箱男」

https://happinet-phantom.com/hakootoko/

宿敵「ワッペン乞食」ってどこのアメコミですか。出だしは箱男とこの前座とのバトルアクション。直方体の箱から短く出た足の滑稽さ加減が漫画のよう。でもコミカルなのはここまで。以後はどろどろした内面の世界に突入します。

原作は読んでないけど、映画にはいろいろな要素が登場して、一言で言うのは難しいですが、私には人が他人や世界をどう認識するかというお話のように思えました。

人はまず自分の物語を持って、その中に周囲の要素を位置づけることで他人や世界を認識する、といったようなことです。なるほど感がありました。

一方、他人も各自が各々の物語を持っているので、自分の物語とは当然ながらせめぎ合っています。そして強い物語の方が勝つことで弱い方を物語に組み込んでいく。まるで我々の人生そのものです。

安全な箱の中から世界を覗き見ることは、自分の物語を他者の取り込み圧から守ることなのかもしれません。ニセ医者はカメラマンの物語を下敷きにすることから始めて、自分オリジナルの物語を強い力で書き上げました。本物になるとはそういうことかもしれません。本物になった彼は、もう他人を必要とせず、この物語からフェイドアウトしていきます。

コミュニケーションに長けた女という生き物は、箱男的な生き物である男にとって、自分の物語を他人の物語と交わらせる鍵のようなものなのでしょうか。作中では、光の天使と表現していて、箱男は一旦はその手引きで箱から逃れるように見えました。けれども箱の磁力は強く、男はまた元に戻ってしまう。女は憐みのまなざしを残して去っていきます。

原作がどういう趣旨の作品なのかわかりませんが、映画を見た感想はざっとそんなところです。こうして感想文を書き連ねている私は、「箱男」という映画を自分の文脈・物語の中に位置づけて捉え直そう、作品に翻弄され溺れかけた自分に主体性を取り戻そうと悪戦苦闘している、まさに箱男そのものと言えるかもしれません。最後のシーンで、箱男とはあなたのことだ、と言っていましたが、その通りですね。なかなか面白い作品でした。

ただ、主体的に生きるということが即、世界との対決になってしまっているのは、かなり昭和っぽい気がします。他者とコミュニケートしながらも自分らしさを保つ令和風の生き方からすると、ちょっと古い感じがしました。でもまあ現実は相変わらずその程度なのかもしれません。

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2024.08.19

「ツイスターズ」

https://wwws.warnerbros.co.jp/twisters/

ディザスタームービーだからまた思わせぶりな展開なんだろう。そういう先入観があって、観に行くのが随分遅くなってしまった。

ところが観てみると、これが先入観を打ち砕く快作。話の展開に無理がなく自然に入っていける。竜巻の脅威は実際に体験したことがないけれど、被災地の写真などから想像できる範囲で最大級の描かれ方になっており、事実に近い無理のない描写なのだろうと思えた。加えて、ありがちなべたついたロマンスを不自然に強調することもなくストイックな作りで、好感が持てる。

主人公の女性を演じるデイジー・エドガー=ジョーンズは、「ザリガニの鳴くところ」以来だけれど、あのとき同様、いやそれ以上に、深い印象を残す。本作の基調を成すさっぱりとした潔さと、その裏に隠された様々な人間の苦悩や弱さ強さが組み合わさった、複雑で玄妙な感触を体現している。

この玄妙さは、女性の自立という視点にも絡んでいる。
ひと昔前なら、竜巻に吸い上げられそうになるはらはらどきどきのシーンは主演女優のもので、それを逞しい腕でつなぎとめるのがロマンスの相方の男性の役割という定番があった。けれども、本作ではそうなっていない。
脇役の男が助けるのは、長く一緒に旅をしてきた女性の方で、主人公の女性はというと、車を走らせて最も危険な竜巻の中心部へ突撃し、この災害を消滅させる科学的手法を試すのだ。ひとりで。命をかけて。

明らかに、これまでの世の中の定番とは違うものになっている。
もちろんそこには、自分が原因で起こしてしまった悲劇に対する言いようのない無念と、二度と繰り返すまいという決意があったことはいうまでもないけれど、それとは別に、この立場が女性でも男性でも同じであろうという印象を抱かせる。この感覚が新鮮で清々しい。

他の出演者もお話の展開も、この感覚を引き立てていて、作品全体に一本筋を通している。快作と感じるのは、作り手がそれをはっきり意識しているのが感じられるからだ。これを何と呼ぶのかわからないが、新しい時代の到来を感じさせる。

* * *

つまりまとめると、デイジー・エドガー=ジョーンズはさっぱり系の超絶美人。アン・ハサウエイの再来。しかもハサウエイが都会っ子系の役柄が多いのに対して、こちらは自然児の趣。好みだわー。
てことなんです。

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2024.08.18

「フォールガイ」

https://fallguy-movie.jp/

アメリカでは興行的に振るわなかったと聞いていたけど、まあ理由はわかる。アクションの緊迫感が間に挿入されるラブコメ要素と相殺して盛り上がりに欠ける進行になってしまっている。どっちつかずというか。この二つの要素が何かプラスの相乗作用を作り出したら凄く良くなった気もするので、構想はよかったのにちょっと残念。

スタントを生業にしている人間が実際のアクションをやってのけるという少し倒錯的な要素が満載なところは、面白くはあったけど、そのために少しわざとらしい進行になっている部分もある気がして微妙。

それでも、私としては結構楽しめました。ライアン・ゴズリングのかっこよさだけでもった感じ。一方、エミリー・ブラントは役柄と合っていたのかどうか。映画監督っぽくはなかったけど、まあ新人監督ということでそういう役作りだったんだろうか。

マイアミバイスをはじめいくつかの映画作品へのオマージュがあちこちにあったようで、元がわかる人は堪らないのじゃないでしょうか。

最後にジェイソン・モモアが出てきたのは本人なのかよくわからなかった。ポストクレジットの最後を締めているので、たぶんお笑い要素なんだろう。

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2024.08.13

240813甲信行

●3日目
朝起きるといまにも降り出しそうな曇り。涼しいのは助かるが、このまま真っ直ぐ帰るのもなんとなく物足りなさを感じて逡巡していて閃いた。この涼しさならふもとっぱらが丁度いいのでは! かねて気になっていたところだし、南下して東名で帰る道筋だし言うことない。これで決まり。

中央道に乗って甲府南まで下り、あとは精進湖目指して山の中を走る。山の日陰はさすがに涼しい。精進湖に出てみると、あっぱれな晴天で暑い。目論見がはずれてふもとっぱらも暑いだろうな。。でももう予約したし行くだけ行こう。

到着してみると、まあ広いこと。噂には聞いていたが素晴らしい解放感。わずかだが木陰もあったので、そこに設営する。車の人たちはクーラーもあるのだろうか、野ざらしの暑そうなところに、富士の景観重視で展開しているが、こちらは日陰優先でいく。どちらにせよ昼間大気が揺れ動いている間は、富士山はたいてい雲に覆われていて見えないだろうから。

それでもほんの一瞬、山頂の雲が晴れて見えることがある。そういうのに偶然行き合わせて写真をとっておく。ものの5分も経たないうちにまた雲が覆ってくるから、構図などはあまり選べないが、まあまあ満足のいく写真がとれた。来た甲斐があった。

このキャンプ場は17時以降は車の移動は禁止だ。たしかにこれだけ大勢いると、早い時間に車を止めないと大混乱するだろう。それ以外にも音楽禁止とかいろいろあって、どれも頷けるものばかりだ。来場者も弁えてよくルールを守っている。

食堂の建屋は天井高く、のっぱらと遠景の富士山に面した妻側が全面ガラスになっていて、スイスかと錯覚するようなナイスな空間になっている。この食堂で昼飯を食べてまったりする。鹿と豚のハンバーガーや鹿肉の竜田揚げなどちょっと変わったメニューを試す。竜田揚げはそもそもみりん味なので肉は何でも同じ。ハンバーガーの方はちょっと変わった味がする。ここも食べ物の注文は17時までなので、夜用にソーセージとフライドポテトを持ち帰りで買っておく。ここは自炊する人がほとんどだから、夜の食事は出ないのだ。日が暮れるとあちこちに明かりが灯り、少し離れて広いキャンプ地の全景を振り返って見るとたいへん幻想的だ。こういうのは他ではなかなか見られない。また秋にでも来てみたい。
夜は涼しく騒ぐ人もいないのでぐっすり眠る。本当に皆マナーがいい。

明け方4時半頃トイレに起きる。既に空は微妙に明るくなり始めていて、富士の山体が黒い影として見えている。空気が静まっているせいか雲もない。キャンプ地の突端に座って、少しづつ明るくなっていく富士山を飽きずに眺める。結局6時半頃までに何十枚も写真を撮る。刻々と色合いが変わっていくのを眺めて過ごした。

ここの水は毛無山から取っているそうで、冷たくて目が覚める。ウォシュレットも気持ちよくて最高でごさいました。

朝の車移動解禁は17:30。それまでにテントを撤収して、ぼんやり風景を眺める。朝のコーヒーを淹れている人、フリスビーで遊んでいる人、昨日の続きで池で魚を探している子供たちなど、思い思いに過ごしている。ただ広い、ということが多様な風景を生み出している。

時間が来たので出発。十分満足したので、これでもう直帰する。南へ少し下って新東名に乗って東京へ。

今回は天気に恵まれて快適だった。どんなツーリングでも、瞼に残る一瞬があるものだけれど、今回はそれがいくつもあってよかった。体力が許す限りツーリングは続けたい。

それにしても東京は相変わらず暑いな。なんとかならないか。

 

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2024.08.12

240812甲信行

●2日目
青木湖、木崎湖も行きたいけど少し距離がある。昨日の山歩きの疲れがあるので今日はあまり無理をしたくない。充電もしたいので松本市街へ出ることにする。出発して標高を下げながら西へ進むと、海野宿というのがGoogleMapsに現れる。奈良井宿と並んで教科書に出てくる名前だ。寄ってみることにする。
江戸時代の宿場町としてしか知らなかったが、歴史はもっとずっと古く、南北朝より前から海野氏一族の元で栄えていたらしい。足利幕府あたりで北条方に付いたりして衰退するが、明治になると養蚕業で再び栄える。上田周辺は気候が養蚕に適していたらしい。歴史資料館で養蚕の展示を小一時間じっくり見るなど。

日も高くなってきて再び西へ走る。市街地に入る前に、タリーズと蔦屋とダイソーの複合施設があったので、タリーズで充電がてら汗を乾かすことにする。タリーズには勉強OKのポップがあって土地柄が偲ばれる。長野県は教育熱心なのだ。
ダイソーには首都圏では見られない品揃えがあって、空気で膨らます枕を500円で買ってみるなど。

GoogleMapsで付近のキャンプ場を探すと、梓川の河原に公営のキャンプ場があって1泊200円(2ひゃく円)だというので電話予約する。そういえば、GoogleMapsのおかげで、紙のツーリングマップはとんと持ち歩かなくなった。ネットは検索すれば詳細情報を深堀できるのが紙との決定的な違いで、もう後戻りできない。

到着してみると水道と簡易トイレ以外何もないが承知の上。ちょっと怪しい感じの先客がいるくらいだが、まあ日本の治安はよいそうだから大丈夫だろう。設営したあと市街地へ行き、壊れた靴の替わりを探してスポーツ用品店を何軒か回ってみる。
松本はさほど大きい都市ではないけれど、登山関係は充実している感じがした。やはり登山客が多いのだろうか。幅広の登山靴を探してみたところ、好日山荘にKeenがあったのだが見送った。慌てなくてもよさそうだったし、こちらは汗みどろの浮浪者のような身なりで、おまけに壊れた靴とか履いているし!wで多少の気後れもあった。

靴は諦めて、代わりに長袖シャツを1枚無印良品で買う。ユニクロがあればよかったがひと駅遠かった。1泊2日のつもりで2枚用意していたシャツは両方とも汗だくで使えなくなっていた。

奈良井川沿いの大規模ショッピングモールの中にスーパー銭湯があったので、そこでさっぱりして夕飯も食べる。ツーリング中はコンビニのサンドイッチが主食なので、ときどきこういうのもいい。キャンプなのに自炊しないのかとよく思われるのだが、移動が主体のコースのときは自炊はしない。道志渓谷のように一か所に決めて数泊するときは食材と金網を持って行くことはあるが、最近はあまりやらない。あちこち移動する方が好きなのだ。
施設内のスタバで明日の計画を考えるが決まらない。小淵沢あたりで涼むか、ほったらかし温泉でキャンプか・・
とりあえず二輪ツーリスト用の高速ETC割引に登録だけする。中央道、東名道などを2日間乗り降りし放題ということでかなり行動の自由度が上がる。こういうものもネットで全部当日に予約登録できてしまう便利な世の中なのだ。
盆地のためか昼はかなり暑かったが、夜は逆に涼しくてよく眠れた。

 

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2024.08.11

240811甲信行

盆休みを使って、甲信地方へツーリングしてきた。関越道で草津方面へ行って、そこから西へ進んで松本諏訪方面へ下って中央道で帰ってくるのが、最近のわりと定番になっている。見るところが多いのと、涼しいのと、適度にバイクを走らせる満足感が一回で得られていいコースなのだ。

今回は、(関越道)→(信越道)→湯の丸高原→松本→(中央道)→甲府南→精進湖→ふもとっぱら→富士宮→(東名道)というルートになった。

●1日目
最初は行先を湯の丸高原と決めて、あとはいつもどおりの行き当たってばったりな適当路線。関越も軽井沢あたりからぐっと涼しくなってツーリングに来たなという実感がわく。昼頃キャンプ場に到着。小振りな湿原が隣りにあって木道で一周できる。湿原というもののかなり乾いている感じ。それでもキャンプ場の受付の人の話では、雨が降れば低地は水浸しになるので、少し小高いところに設営した方がいいとのアドバイス。実際川筋風の砂利道がキャンプ地の中央あたりにある。テント設営のあと、近くにいくつか手頃な登頂コースがあったので、楽そうな湯の丸岳へ登る。体力激減を痛感したけど、どうにか登り切った山頂が、丁度正面からの逆行でたいへん神々しい雰囲気だった。これだけで今回はもう大満足。なのだが10年くらい履き続けた登山靴のソールがはがれるというおまけつき。まあ硬質ゴムの底がなくてもある程度頑丈なので、あと数日は問題ない。下山して湯の丸高原ホテルの風呂を借りてさっぱりする。首都圏の私立中学の研修が来ているみたいで、風呂が大騒ぎになる前にあがるように言われるなど。若いっていいなあ。

夜は当然星がよく見える。流星群が来ているらしくて自分も3つほど大きいのを見た。
ラジオや音楽を大音響で掛けるような輩はおらず、静かな夜を過ごせる・・と思ったのだが、男女3人組が大声でくだらない掛け合いを延々とやっていて眠れない。しまいには私のテントのすぐ横に来て寝ころびながら嬌声を上げておしゃべり。まあ、若者ってそういうものだよなと思いつつ、12時をまわって周囲もほぼ寝静まってきた頃に、ちょっと声を掛けたら大人しくなってくれた。近年の若者は聞きわけがよくて助かる。

そうそう、暗闇の湿原の木道をライトなしで歩こうとしてみたが、平衡感覚を失ってふらつくので、途中で諦めて引き返した。闇に背を向けて帰ろうとすると取り込まれそうな怖さがちょっとある。

 

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2024.08.05

「自由研究には向かない殺人」

https://www.netflix.com/title/81759464

NETFLIX全6話

たぶんイギリスの田舎町で繰り広げられる探偵もの。主役は利発な高校生女子なんだけど、この子がよいです。演じているのはエマ・マイヤーズさん22歳。ウエンズデイでジェナ・オルテガのルームメイト役だった人ですね。

もうね。女の子の友情とか筋の通し方とか親や親友家族との信頼関係とか盛り盛りで、5年前の殺人という本来陰惨な事件なのに、それに立ち向かう少女を取り巻く環境の良さに癒されます。どんな善人も善の面だけではないことも盛り込んで、少女の成長物語にもなっている。

関係者の人間模様は入り組んでいて複雑です。二転三転ある筋書で、原作小説で読めば微細なところまで読み込んで楽しめそうです。配信のドラマとしては、その複雑さについていくのがちょっとしんどい感じもしますが、本筋と枝道を見誤らなければなんとか消化できます。

予告を見た瞬間に、ああ、これは観ようと思わせるものがあって好みでした。

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2024.08.04

「インサイド・ヘッド2」

https://www.disney.co.jp/movie/insidehead2

主人公の子どもの頭の中の感情をキャラクタにするという突飛なアイデアが面白かった前作ですが、見逃がしていました。当時は突飛すぎるように見えて抵抗があったのです。

でも本作を見てみるとそれは杞憂で、割とまとまりのある作品になっていました。1では基本的な5つの感情たちのドラマだったようですが、本作では思春期の頭の中に芽生える新しく複雑な感情5種が追加されています。新種のうち中心を占めるのは「シンパイ」。これがいろいろ難儀な騒動を引き起こし、それを基本5感情がなんとか収めるという趣向です。

これまで最良の記憶だけで構成していた主人公の人格を、失敗や嫌な思い出も含めた全部で構成し直して結びにする、いい終わり方になっていました。

 

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2024.08.03

「ロイヤル・ホテル」

https://unpfilm.com/royalhotel/

ハラスメントをテーマにした映画。女性店員と粗野な男客たちにうだつの上がらない店主という設定で、各種ハラスメントを描いていきます。もとはハラスメントを撮ったドキュメンタリーだったのを、少し設定と結末を変えて作り直したそう。

どのシーンも決定的にまずい場面までは進まず、脅しの段階で留めているので、もやもやが溜まります。その鬱憤を最後に映画らしいカタルシスで終わらせています。監督によると、ハラスメントは断固拒否するというメッセージだそうで、われわれ男どもは知らないうちにやらかしているかもしれないハラスメントに気を付けましょう。

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