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July 2024

2024.07.28

「墓泥棒と失われた女神」

https://www.bitters.co.jp/hakadorobou/

タイトルからどたばた喜劇を想像していたけれど、結構しんみりする内容だった。
唯一無二の不思議な能力を持つ男が、それを生かす正道を見つけられず、墓泥棒のお先棒を担ぎながら裏街道を歩いていくものの、最後に正しい生き方に目覚めるといった感じのお話。

こう一言で言ってしまうと味も何もないのだが、少しづつ種を明かしながら見せていく組み立てがうまい。墓泥棒の生き方を必ずしも否定せず、仲間意識や冒険の楽しさや、隠しきれない罪の意識、取り返しのつかない切なさを、仲間内の吟遊詩人に歌わせてもいる。

そのうえで、主人公が最後に選ぶのは、亡き恋人が残した人のありようだった。結末のシーンは少しジンとくる。

冒頭のシーンを、中盤で回収するやり方に意外性があって面白い。それが、主人公が生き方を改めるひとつのきっかけにもなっている。

孤児を育てる女性のストーリーラインと墓泥棒のラインとが、終盤近くまで交わらずに進むのを忍耐強く待つことができれば、最後の一瞬で美しい果実が得られる、わりといい作品でした。

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2024.07.27

「モノノ怪」

https://www.mononoke-movie.com/

この色使いやトーンがいい。予告編で見たときは、どこかとっておきの場面だけのことかと思ったら、なんと最初から最後までこれで埋め尽くされてる。エンドクレジットもこれ。すごい。

お話は、権力機構というものがそれに従事する人々をどう変えてしまうか、それに適応しようとしない個人をどう壊すか、みたいなことで、割とありがちだけど、回りくどくなくストレートに表現していていい。

何か臭いにおいのする水を毎朝の儀式で全員がありがたがりながら飲み干すことでそれを表していて、その臭みの表現がまたいい。良い匂いを表すはじけるような綺麗な表現と対を成して、腐臭の陰湿さを際立たせている。

居並ぶ組織人たちの顔をああいう風に表現しているのも秀逸。実際にこんな感じなのを見たことがあって、すごくリアルだと思った。

大きなイベントー例えばオリンピックなどーの陰で自殺者が出るニュースを目にするたびに、なぜ彼らは事実を公表せずに自死を選ぶのか不思議に思っていたけれど、この作品はその空気と論理を掴んで見せてくれていると思う。

結構な異色作。

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2024.07.26

「デッドプール&ウルヴァリン」

https://marvel.disney.co.jp/movie/deadpool-and-wolverine

はちゃめちゃです。導入部のあとすぐのなんとか指令室みたいなところでの会話が長すぎて寝そうになります。その後は再生不死身の二人の刺し合いがこれまたボリューム多くて、こういうのをゲテモノというのでしょうか。なにしろ不死身なので、刺そうが撃とうがイテーとか言うだけで死なない。疲れ果ててげっぷが出そうです。
たぶん、マーベルのキャラクタに詳しい人なら、知っている顔がいろいろ出てきて面白いのでしょうけれど、私はさっぱりなので、その分損した気分です。

ただ、ローガンのときのあの小さかった娘が立派に成長したのが見られたのは、ウルヴァリンでなくても和みます。よかったね。相変わらず狂暴だけど抑制もできるようになったみたいで。

そして本作でもう一人面白いキャラクタが、カサンドラ・ノヴァ。クールで最強の狂人。一応ヴィランということになっているけど、不死身コンビとの約束をちゃんと守るなど、一遍の義理は知っている。まあ、その背景は黙っているのがやっぱりヴィラんなんだけど。

あーあとウェズリー・スナイプスが出てきていろいろひがみを言っていたのもウケてました。いろいろ言うというとデッドプールがマルチバースは失敗だー!とかFOXがDisneyがとか劇中で言ってしまうのも笑えた。それからHONDAとKiaは酷い目に・・というか愛されてますね。

前半はどうなることかと思ったけど、X-23にほろりとさせられてカサンドラで肝が縮み上がって、そういう点ではよかったです。でも★は1つかせいぜい2つですね(^^;

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2024.07.21

「ドミノ」

https://gaga.ne.jp/domino_movie/
NETFLIXで

人の脳を操る話となると、何が本当で何が嘘かわからなくなる。本作はそれを利用して何重にも謎を仕掛けてあり、登場人物どうしの化かし合いに観客も巻き込まれてはらはらしながら最後まで見るという趣向になっている。。

能力者がやや強力過ぎて、遠方から何でもできてしまい過ぎるきらいもあるけれど、そのお陰でどんでん返しが面白くなっている。

1時間半程度と手頃な長さで軽く楽しめる作品でした。

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2024.07.15

「バッド ボーイズ」

https://www.netflix.com/title/269880

NETFLIXで

ちょうど劇場ではシリーズ4作目をやっているらしいので、ウイル・スミスの出世作ともいわれるシリーズの最初を見てみようと思った。が、正直なところ、質の悪いドタバタにしか見えなかった。最後にちょっとだけ悪党を追い詰める部分のアクションは派手だったけど、これ見よがしというかわざとらしさが目立ってしまっていた。

たぶん、この作品はアフリカ系刑事二人の掛け合い漫才の台詞を楽しむ作品なのだろうという気がするのだけど、英語は不自由なのでそれはよくわからなかった。
というわけで、私的には残念作というしかない。

まあ、1995年の作品だから、かなり古さが目立ったというべきなのか。

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2024.07.07

「Shirley シャーリイ」

https://senlisfilms.jp/shirley/

これはまた凄い映画を見てしまいました。のっけから、スランプに苦しむ小説家の異様な感じに気圧されます。エリザベス・モス怪演!の宣伝文句に誇張はありません。まさに魔女。

その魔女の毒牙にかかるのが、いかにも善人な若夫婦。きたきたきたよ犠牲者が。というサスペンス風のはじまりです。

ところが、この若夫婦の妻の方が意外に根性があって、魔女の毒舌にもめげずにむしろそのインスピレーションの元になり始めるのが不思議です。小説家に示唆を与えられる程の教養が身を守ったのでしょうか。でもこの魔女がそんな甘ちょろいはずはないのだが。束の間の絆。どんでん返しの悲劇の予感。若い夫の方についてもこんな風に言います。

「縄を与えて見ればいい。自分で縊れにいくだろう」

二人の女の会話のなかで、妻の座を保つ苦しさに触れています。これは若妻についての話で、小説家のことではないのですが、作品の最後に、それが実は妻というものに普遍の悩みであることがわかります。が、それはもう少し後の話。

本作は、創造的な仕事をする人間の業の深さのようなものを、終盤にかけて浮き上がらせていきます。魔女は絶妙のタイミングでアカデミズムの裏側の腐敗を明かし若妻を追い込みます。そこからは、贄となった彼女の朦朧とした意識そのままに映像が展開していき、悲劇へとつながっていきます。自らは手を下すことなくそこまで人を追い込み、それを自分の作品の粋に封じ込め、傑作を生みだす小説家。鬼ですね。

そして、本作の真髄は、そのあとに訪れます。彼女が書き上げた傑作を読んだ夫の教授が妻を賞賛するシーンの中に、教授の妻の座をどうにか今回も守り通せた小説家の安堵を見たときに、この作品の深淵がぱっくりと口を開けるのです。この女は、そのために、人をひとり死に至らしめた。

本当におそろしい。傑作です。

(補足)
で、本作は「ルックバック」を見たすぐあとに見たのですが、創作活動の捉え方において2作を比べると、これほどの違いがあるということに、ちょっと感動したりしています。これは幼さと成熟との差と捉えられがちですが、そうでもないというのが率直な感想です。というのは、本作では成熟の裏に腐敗が見えているからです。
変に大人ぶらずに、純情をもっと愛でましょう。

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2024.07.06

「ルックバック」

https://lookback-anime.com/

たった58分の中に、言葉に表せない情感が詰まっている。
この絵! 創造的な仕事を目指す若者の息遣いが間近に感じられて素晴らしい。生の情動がスクリーンからあふれてくる。

女の子二人の青春の煌めき、主役と補佐役の強い絆、そして自立を目指した当然の別れ。途中までの筋書はたしかにどこかで見たようなものだけれど、そのあとの急展開に胸が詰まる。再会を匂わせ期待を持たせておいて、いきなりの訃報。悲嘆にくれ仕事も投げ出しかける主役の子に、不思議な体験が訪れる。

ありそうでいて現実にはない、それでも個人の秘めた体験の中にひょっとしたらあるかもしれない、魂の震えを伝える作品。本年必見と言っていいと思います。

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2024.07.05

「ダムゼル/運命を拓きし者」

https://www.netflix.com/title/80991090
NETFLIX

ありがちな龍退治のお話をなぞりつつ、結末に新しい感覚を盛り込んでいてよかったです。時間も110分と手頃な割にボリューム感があり、最後にどんでん返しのサプライズもあって満足しました。この終わり方は、白人国家でなくなる恐怖を感じている米国人にはちょっと刺激が強いかもしれません。多様性と差別解消の時代の空気をよく反映している一方で、今後は世の中の方で反動が起きそうで、この種の作品が古き善きと呼ばれるようになるのかもしれませんが。。

騙されて生贄にされた非力な主人公が、最初はとにかく逃げ回るしかない中で、真実と対抗策の種を見つけて、まずは逃げおおせるまでが前半部。そして自分の身代わりに連れ去られた妹を助けるために再び龍の巣へ戻ってからの対決が後半部。二段構えになっていてボリューム感が出ています。

そして、真実を語っても通じない相手を、いったんは策略で屈服させた後の主人公の行動がたいへん印象に残ります。見つけた種の使い方もなるほど感があって上手い。

予告編だけだとありふれた作品に見えてしまって、しばらく視聴を躊躇しましたが、見てよかったです。いかつい実力派のミリー・ボビー・ブラウンを存分に暴れさせるに足る舞台のしつらえでした。

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