「バティモン5 望まれざる者」
https://block5-movie.com/
フランスでは右寄りの意見が台頭してきていて、大統領は議会選挙に踏み切るそうだ。本作のような映画は状況を知るひとつの手掛かりにはなるかと思って見た。しかし残念ながらドキュメンタリではないので、やや情緒的な描かれ方に傾いていて、参考になるかどうかは慎重に考える必要がある。というのは、理想を掲げる新任の市長のやり方が性急過ぎて、現実味がないからだ。大勢の移民が住んでいるアパートに突然警察を突入させて強制退去しろなどという荒療治は、現実の政治家ならやらないだろう。それもよりにもよってクリスマスに。実際にはもっと慎重な対話を重ねるはずだ。だから本作は、社会派映画とはいっても、かなり作られた感じのするものという印象になる。
とはいえ、実際に昨年あたりは、パリで移民の若者による暴動が起きたというニュースもあったから、情勢は一部でそれなりに緊迫しているのだろうとは思う。
作中にはいろいろなタイプの人が登場する。先祖代々フランス人で、フランスという国の体制の中心近くにいる人。世の中の広さと現実を知らない理想主義者として描かれる。代々フランス人だが体制の中で比較的低い地位にあって仕事柄移民と接することが多い人。移民に同情的な人から、移民を憎んでいる人までいろいろだ。移民がルーツだが世代を重ねて努力し一定の地位を手に入れた人。移民に寛容だった時代の恩恵を受けている。最近移民として来て仕事も少なく言葉も不自由な人。同化しようと努力しており体制の理解を得やすい人もいれば、フランス人になろうという意識が乏しい人もいる。
映画では、この最後のタイプが最初のタイプと対立して先鋭化する様が描かれている。最後のタイプの人々が、先進国に居続けている理由は、電気すらないルーツ国より国民福祉という概念が存在する国の方がずっとましだから。けれども先進国の元々の文化に同化する気はない。言葉も覚えないし大家族で住む習慣も変えられない。これがおそらく、軋轢を生む真因なのだろう。本作はそこをしっかり捉えている(わかりにくいけれど)。
映画からはっきり読み取れることはそれくらいだろうか。それで充分ともいえる。移民の中には、そもそも文化に同化する気がない者が含まれる、という点は非常に重要だ。これは移民について考えるときの基本的な認識として持っておく必要があるだろう。
さて、生まれつき恵まれた先進国の人間としては、移民として来るならここの文化に同化してくれと言いたい気持ちはよくわかる。自分は変わりたくないのだから。
けれども、必要があって移民を受け入れる以上は、自分の方も相応に変わる必要があることは受け入れざるを得ないだろう。奴隷を連れてくるのとは違うのだから。それとも、そうなのだろうか?
そんなことをあれこれ考えさせられて、解像度が少し上がった気がする、そんな作品でした。
ちょっと蛇足を書いておくと、公式サイトのREVIEWには西欧世界における移民問題の現実感が滲み出ているようで、まだ問題が深刻化していない日本人コメントの平和ぶりとの対比が興味深いです。
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