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2024.03.25

「葬送のフリーレン」

https://frieren-anime.jp/
全28話 NETFLIXで

なんとなく絵柄に惹かれて見始めたのが第8話が公開されたあたりで、そこからはまりました。面白さに気づいたのは第3話、クヴァールのエピソード。人間がその短い一生と引き換えに、どれほどの進歩を遂げるかということが、封印されたまま80年を経たクヴァールとの対比で鮮やかに描き出されていました。これまでエルフという種族は、ファンタジーの世界ではある種の添え物、便利な小道具としてのみ使われてきたように思うのですが、本作では、その長寿が物語の中心テーマにすらなっているようで、悠久の時間と短命な人間の生の営みとが随所で交錯することで、深い陰影を生み出しています。ぐっときますね。

見始めてみると、そのほかにも様々な面白さが埋め込まれていて、飽きないつくりになっていました。なによりその世界観に惹かれます。今は亡きヒンメルの生き様をフリーレンの回想の形で折に触れ挿入することで、日常の些細な事柄の大切さが、大冒険譚と並ぶ重みで語られます。最終回のヴィアベルの一人語りは、その総まとめのようになっています。世に溢れる凡庸なヒーロー物語との決定的な違いを感じることができます。

もちろん、普通の作品でもそうしたことは盛り込まれてはいるのですが、たいていはおざなりだったり取って付けたような不自然さがあるところが、本作ではそれをごく自然な振る舞いとしてことあるごとに描いていて、それがちっとも嫌味でなく、清々しさを感じさせるのが凄いです。技術的には語り口のうまさなのですが、それ以上に作品の精神的な支柱としてしっかり根付いている感じです。

作品の基礎がそのようにしっかりできているうえに、注目すべきは現実社会との関連です。「魔法」という言葉を「技術」と読み替えると、現代社会にも通じるところが多く、いろいろと考えさせられます。魔法は自由であるべきだというフリーレンの考え方と、魔法は特別なものであるべきだというゼーリエのそれとの違いなどは、オープンソースにまつわる議論や、技術の民主化の議論などを髣髴とさせます。作り手はそうした現実社会の動向にも明るいのだろうと思います。

原作の方は、女神の石碑、黄金郷のマハトなどを経て、ゼーリエ暗殺という興味をそそられるエピソードが続きますが、人間についてもっと知ろうと思うという基本設定は守備範囲が広いので、いくらでも拡張していけそうです。

本作については、ほかにもいろいろと語りたいディテールがたくさんあるのですが、長くなってしまうので一点だけ。音楽と絵の動きがぴったりなのが素晴らしい。21,26,27話のアクションシーンや語りのシーンは、まるで音楽に合わせて動きを作っているのかと思うほどです。音楽自体、ぞくぞくするほどいい音なのに、それが絵や台詞とシンクロしているのですからたまりません。劇場映画並みの総合芸術と言っていいと思います。今後もこの高品質を保ったまま続いてくれることを期待したいです。

そうそう、最後に、私の好きな魔法使いですが、自分でも意外ですが、リヒターです。職人気質と世渡りの苦みとがバランスよく同居しているようなところが良いですね。

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