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2024.04.01

「ゴッドランド/GODLAND」

https://www.godland-jp.com/

アイスランドに布教するため派遣されたデンマークの若い牧師にまつわる話。
街の中で育まれた牧師の軟な信仰が、氷と炎が支配する過酷で荒々しい島の洗礼を受ける課程を、美しい自然を背景に淡々と描いている。

この牧師には布教者に必要な不屈の信念がない。信仰は紙に書かれて読み上げられるもので、それ以上の現実の重みがない。そういうものが厳しい自然に晒されたときにどうなるかは火を見るより明らかだ。

ただ同時に、その厳しい自然の中で生きている人々の中に、牧師がもたらす文化や教養に対する憧れと、神の罰への惧れとを読み取ることもできる。彼らが初めのうち、牧師に違和感を感じながらも受け入れようと努力する様にそれが見える。

写真を撮ってくれという案内人の男は野人だが罪びとには見えなかった。ところが実はふたつの言葉を話せる能力を持ちながらこれまで黙って牧師の嘲りを聞いていたことがわかり、人や馬を平然と殺めもする者だと告解していくシーンは衝撃的だ。牧師の中の優越感や価値観が完全に破壊され凶行に及ぶほど、その衝撃は大きかった。

それもしかし何事もなかったように木造の教会は完成し、最初のミサに臨む牧師だが、それまでの積もり積もったストレスから、些細なことに耐え切れずとうとう逃げ出してしまう。

その末路は哀れにも見えるが、落ち着くべきところに落ち着いたとも思えるのは、正方形のスクリーンにずっと映し出されていた、人の営みを超越したような自然の佇まいがあるからだろうか。

解釈を拒むような美しくも厳しく張り詰めた空気を持った作品でした。

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