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March 2024

2024.03.31

「オッペンハイマー」

https://www.oppenheimermovie.jp/#

科学と政治と思想とが入り乱れて緊張感のある3時間だった。
脈絡のないようにも思える各カットが、こうして繋ぎ合わされることで、この物理学者の人間としての総体が立ち現れてくるようで、クリストファー・ノーランはいい仕事をしたと思う。

この作品について、広島とか長崎とかをことさらに取り上げようとするのは間違いだ。また、作品の細部について、被爆国の心情からあれこれ解釈を加えることにも違和感がある。

そうではなく、これは開発主体である連合国の科学界が、どんな世界情勢のただなかで、政治の世界からどんな働きかけを受け、どう目標を設定し、どんな葛藤や軋轢を抱えながらそれを完遂したか、そして後年、この人物が、自ら解き放った恐るべき力をどう思うようになったか、そういうストーリーとして丸ごと受け止めるのがよいだろうと思う。

ただ、こうした新兵器の開発は最先端の科学者にしかできないとしても、いったん出来上がったものを発展させ運用することからは、当の科学者たちは遠ざけられるという冷徹な事実があったことは、知っておいてよいと思う。

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「ゴーストバスターズ フローズン・サマー」

https://www.ghostbusters.jp/

1は面白かった。2は主人公の女の子の知的で勇敢な感じと、素朴な田舎の環境とが溶け合って心温まる懐かしい話だった。

それを受けた本作はというと、ちょっと期待外れは否めない。なにより、ゴーストバスターズの活躍といっても、事件の発端を考えるとマッチポンプになってしまっているのがいまいちだ。登場人物たちも取り立ててキャラが立っているわけでもない。強力なゴーストを封じ込める切り札の人も取ってつけたような感じで浮いていた。
アメリカ人の好きな家族愛の話に落とし込もうとしているけど、底が浅い感じがした。

2でやめておけばよかったのになあ。少し残念でした。

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2024.03.25

「葬送のフリーレン」

https://frieren-anime.jp/
全28話 NETFLIXで

なんとなく絵柄に惹かれて見始めたのが第8話が公開されたあたりで、そこからはまりました。面白さに気づいたのは第3話、クヴァールのエピソード。人間がその短い一生と引き換えに、どれほどの進歩を遂げるかということが、封印されたまま80年を経たクヴァールとの対比で鮮やかに描き出されていました。これまでエルフという種族は、ファンタジーの世界ではある種の添え物、便利な小道具としてのみ使われてきたように思うのですが、本作では、その長寿が物語の中心テーマにすらなっているようで、悠久の時間と短命な人間の生の営みとが随所で交錯することで、深い陰影を生み出しています。ぐっときますね。

見始めてみると、そのほかにも様々な面白さが埋め込まれていて、飽きないつくりになっていました。なによりその世界観に惹かれます。今は亡きヒンメルの生き様をフリーレンの回想の形で折に触れ挿入することで、日常の些細な事柄の大切さが、大冒険譚と並ぶ重みで語られます。最終回のヴィアベルの一人語りは、その総まとめのようになっています。世に溢れる凡庸なヒーロー物語との決定的な違いを感じることができます。

もちろん、普通の作品でもそうしたことは盛り込まれてはいるのですが、たいていはおざなりだったり取って付けたような不自然さがあるところが、本作ではそれをごく自然な振る舞いとしてことあるごとに描いていて、それがちっとも嫌味でなく、清々しさを感じさせるのが凄いです。技術的には語り口のうまさなのですが、それ以上に作品の精神的な支柱としてしっかり根付いている感じです。

作品の基礎がそのようにしっかりできているうえに、注目すべきは現実社会との関連です。「魔法」という言葉を「技術」と読み替えると、現代社会にも通じるところが多く、いろいろと考えさせられます。魔法は自由であるべきだというフリーレンの考え方と、魔法は特別なものであるべきだというゼーリエのそれとの違いなどは、オープンソースにまつわる議論や、技術の民主化の議論などを髣髴とさせます。作り手はそうした現実社会の動向にも明るいのだろうと思います。

原作の方は、女神の石碑、黄金郷のマハトなどを経て、ゼーリエ暗殺という興味をそそられるエピソードが続きますが、人間についてもっと知ろうと思うという基本設定は守備範囲が広いので、いくらでも拡張していけそうです。

本作については、ほかにもいろいろと語りたいディテールがたくさんあるのですが、長くなってしまうので一点だけ。音楽と絵の動きがぴったりなのが素晴らしい。21,26,27話のアクションシーンや語りのシーンは、まるで音楽に合わせて動きを作っているのかと思うほどです。音楽自体、ぞくぞくするほどいい音なのに、それが絵や台詞とシンクロしているのですからたまりません。劇場映画並みの総合芸術と言っていいと思います。今後もこの高品質を保ったまま続いてくれることを期待したいです。

そうそう、最後に、私の好きな魔法使いですが、自分でも意外ですが、リヒターです。職人気質と世渡りの苦みとが危ういバランスをとって同居しているようなところが良いですね。

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2024.03.24

「四月になれば彼女は」

https://4gatsu-movie.toho.co.jp/

野菜も食わねばいかんぞとデンケンじいさんに言われたこともあって、恋愛映画も見なければいかんということで行ってみました。単純なホレタハレタではなく、余命映画の粋を組み込んだ夫婦関係を長持ちさせる映画でした。日常の些細なことってとても大切ということがわかります。

元カノの面影が心の底にまだ残っている夫と、幸福に罪悪感を感じてしまう妻。その夫婦の一時的な別離から再会に至るまでを、元カノの病死を交えながら辿っていきます。夫の前から姿を消した妻が元カノが入院している終末期医療施設で職を得て、その人と成りを知っていくところはアイデアだなと思います。余命ものが生み出す情動を恋愛作品にうまく取り入れています。

美しい思い出や叶わなかった旅路なども満載で、わりとじんわりとする良作でした。やっぱり野菜は食っておくべきですね。

ただまあ、ウユニ、プラハ、アイスランド、そして海辺の療養施設・・結構お金かかりそうですね。

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2024.03.23

「三体」

https://www.netflix.com/jp/title/81024821

全8話。NETFLIXで。

三体ってそういう意味だったのか。それをビデオゲームの形式で見せてくれるのがなかなか面白い。小説は読んでいないけれど、独創的な感じがある。それはたぶん時間感覚の扱いにあるのだと思う。人類の進化のスピードと三体人のそれとの違い。三体人が太陽系に到達するまでの400年というタイムラグ。そういうことがお話の基礎に組み込まれていて、あらゆるエピソードがその独創的な影響を受ける。

ただ、面壁人というのが何なのか、少しわかりにくかった。一気見したので、終わりの方は少し居眠りしていたせいだと思うのだが、巻き戻して拾い見してもよくわからない。仕方がないので小説のあらすじをネットでざっと見てわかった。ここはⅡに続く重要な基礎になるはずだから、もう少しじっくり扱ってもよかったのだはないかと思う。

それから、人間ドラマが少し余計というか煩い感じがした。それが三体人との決定的な差異として後半に効いてくるなら話は別だが、それがまだわからない。草食系研究者で癌末期の彼が脳だけの存在になって飛んで行ったあとどうなるのか、そこは気になる。やっぱり小説を読んだ方がいいのだろうか。

本作はたぶん小説のⅠの部分だろうけれど、続きも楽しみ。

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2024.03.11

「ARGYLLE/アーガイル」

https://argylle-movie.jp/

予告映像を見てどういう話なのか興味を掻き立てられてたので見てきました。そういうことだったのね。
種明かしのあとも二転三転する仕組みになっていて面白いです。ぽっちゃり目の彼女が大立ち回りするところとかは新鮮ですね。こういうアクションはあんまり見たことがないです。
悪の組織の下っ端構成員のやられっぷりというか悲哀というのは、この種の映画の定番ですが、本作ではとりわけ涙を誘います。すごい美人とかイケメンにやられるなら仕方がないかと思いますが、あれですからねえ。。とはいえスケートのシーンはそんなわけあるかーいと思いつつもスピード感のあるバトルで爽快でした。

いろいろ目新しさがあって楽しかったです。
スタッフロール途中のおまけ映像もお見逃しなく。

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「ゴールド・ボーイ」

https://gold-boy.com/

こういうのを心理戦と言うらしいのですが、凝った作りで意外性は確かにあります。作為的になり過ぎないぎりぎりのところで見切っている感じ。たぶん、すべてがいわゆる悪人どうしの間の駆け引きに収まっているからで、これが日本の一般常識の方へ滲み出てくると、いやそうはならんやろ、ということになりそうです。

これで最後が悪人の勝利で終わってしまうと後味が悪いところですが、幸いそれぞれに報いを受ける終わり方で、一応、安堵しました。

それにしても、頭が良くて用意周到というだけの普通の犯罪者と、真正のサイコキラーとの実力?差が最後に露になったのは面白かったです。

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2024.03.10

「デューン 砂の惑星PART2」

https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/

1に引き続いて密度の高い映像と音に満たされる3時間。はじめはリラックスして見ていても、だんだん引き込まれ背筋が緊張してきて、最後は固唾を飲んで見つめることになります。

ストーリーは案外シンプルで、ついでに言うと映像のトーンもシンプルだけれど、それを作品の格調高さに結び付けているところがさすがです。シンプルは雑とは正反対の概念だとわかりますね。ラグジュアリーという言葉さえ想起させるほど。

そして、終盤には宗教的な荘厳さも滲み出てくるように思えます。お話自体、帝国より長い歴史を持つ秘密教団の暗躍を横糸に織り込んでいて、それは主人公の母親を媒介に姿を見せているのですが、それとは別に、砂漠の民の原理主義的信仰が太い糸として絡んできます。

宇宙の各地に散らばる領主たちとの争いの火ぶたが切って落とされますが、舞台の中心はあくまでもこの砂の惑星。この星でしか産しない香料が宇宙航行に欠かせない燃料である以上はそうなるのが当然です。

かくして、お話は3へ続く端緒についたところで終わるのですが、次が待ち遠しいですね。ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、フローレンス・ピュー、レア・セドゥ、そしてなんとアニャ・テイラー=ジョイが、それぞれの美質を最大限に発揮する役にぴったりはまっていて、この映画が総力戦で作られたのを窺わせます。

こんな凄い作品を手軽に楽しめるなんて、映画ってやっぱり素晴らしいですね。

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2024.03.03

「マダムウェブ」

https://www.madame-web.jp/

どこがサスペンスでミステリーなのか、という世評が行き渡っている中で、でもやっぱり何かあるんじゃないかと思って遅ればせながら見てきました。
はい。つまらなかったです。

ミステリー要素は期待せず、むしろシスターフッドを見る映画だと聞いていたのですが、まあたしかにそれはありです。

少女3人は3人とも親に見放された境遇で、マダム・ウェブの元で疑似家族を形成することになるようです。まあ、親の愛が無くて可哀そうではあるんだけど明日食うものに困るような本物の孤児ではないので、物語としては緩いです。なんだかんだ言っても覇権国家アメリカの豊かさに守られてはいるんですよね。愛はなくても金はあるというか。
でもマダム・ウェブ自身はこの後どうやって生計を立てていくのでしょうか。昼は普通に職業人なんですかね。救急救命士では時間の自由は利かなそうですが。

彼女たちはこの後、正義の仮面ヒーローとして何か活躍するようで、その映像が最後に流れるのですが、いやマダム・ウェブそんな熟女コスチュームにへんてこメガネで3人娘を率いて暗躍するって、もろにキワモノじゃないですか。期待しちゃうですよ。

そういうわけで、配信の方が最近は質がいいものが増えてるぞという認識を新たにさせてくれる一本でした。

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