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2024.02.25

「落下の解剖学」

https://gaga.ne.jp/anatomy/

法廷劇というのは、物的証拠が乏しい中で状況から様々な推理が成立するときに面白くなるのだろう。本作も十分な証拠は無い中で、容疑者と関係者の心理を推し量る体をとりながら、そこで浮き彫りになる夫婦の問題や人の尊厳の問題がテーマになる。

容疑者の心の闇をいやらしく暴き立てようとする検察側と、人の尊厳を真摯に語ろうとする弁護側の間で、見ている側の心証が右に左に揺れ動くところがこの種のドラマの醍醐味だ。

本作はそうした定番の軌道を辿っていくのだが、最後の決定的な証言が、この夫婦の盲目の子が語る、日常に埋没していたエピソードだというのが感慨深い。人の本心はそういうところで現れるものだということに、そして犠牲者自身が自分の結末を予見していただろうことに、この劇に登場するすべての人々と観客である我々とが等しく共感し涙する。見事な落とし方と言うほかない。

傑出した才能をそれぞれに持つ夫婦の、一方だけが社会的な成功を収めた果ての悲劇に、複雑な思いを残して劇は幕を閉じる。

味わい深い良い作品でした。

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