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January 2024

2024.01.28

「哀れなるものたち」

https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings

この作品には下品さがありません。これほど下品なモチーフを扱っているのに。

たぶん、むき出しの(あるいは子供のように単純な)合理性を前に出しているからだろうと思います。序盤で見せられる老外科医の「科学的な」仕事ぶりや生い立ち、その外科医が生み出した主人公の機械のような台詞、それら様式が醸し出す空気に、見ている方は感染し錯覚を覚えます。まるでこちらの思考回路を少し変容させるようなやり方で、作り手の凄まじい力量が感じられます。

こうして作品の土台を堅固に構築した上で、その合理性の切っ先を社会の様々な常識(という名の束縛)に向けてきます。

性欲、金銭欲、支配欲、そのいずれに対しても、合理性に基づく科学的態度と哲学的思索というのは、まことにラディカルな効果を及ぼすことが痛いほどわかります。その切っ先に晒された我々の常識は泣き叫んで許しを請い、あるいは怒りに震えて復讐を企て、最後には打ち倒される。まさに「哀れなるものたち」です。

もちろんこれらは、実現しないお伽ぎ話です。子供じみた単純さだけでは立ち向かえない複雑性が常に立ちはだかるからです。それは例えば、お話の最後に主人公が作り上げた楽園が経済的にはどう維持され得るかが描かれていないことからも明らかです。医者になるというマジックワードだけでは少々弱い。

でも、「それでも地球は回る」と言い続け、言い継いでいくことの大切さが、本作の眼目なのだろうと思います。

それにしてもエマ・ストーンがこれほどの役者だとはいままで気づきませんでした。極端な役を担うと真価がよく見えます。小児から大人へと短期間に変貌を遂げる人格を演じきっていました。すごいです。

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2024.01.21

「サン・セバスチャンへ、ようこそ」

https://longride.jp/rifkin/

これは映画の教養がないと半分も楽しめない感じ。私にはさっぱりでした。
古典映画を教えることを生業とする主人公が、その古典の名作シーンを折々に妄想しながら、その中の登場人物を自分の周囲の人間に置き換えて、さえない小太りの老人である自分への批判や賞賛、哲学を語らせるのですが、おっさん、その妄想癖治した方がいいぞと思うくらいで、どういう置き換えの妙があるのかはわかりませんでした。

その一方で、このおっさんこそが本作の中心に位置して、そのキモさ加減を存分に観客に向けてぶちまけることについては、痛いほどよく分かってしまいます。体つき顔つきしぐさはもちろん、唾液でぬらぬらした半開きの口元に短足蟹股禿げ小太りに加えて、その口の利き方の傲慢さ考え方の厚かましさと、キモ汁エキスを体中からどばどば出している感じ。ああはなりたくないもんだ。(役者さんお見事)

でも、物語の終わり近くで、まだ若く情熱的な不倫妻に三行半を頂戴するところでは、さすがに同情します。なにせこの妻ときたら、夫の前であっけらかんと、不倫相手との情事を思い出して身悶えするところを見せつけたりするのですから。なんと憐れなりおやじ。

さはさりながらおやじの方もご当地美女に横恋慕してなんとそれが成功かと思わせる微妙なところまでいくのですから、まあお互い様。でもそれも最後は儚い空想に終わります。失意のどん底でおやじが見た妄想は、死神に説教をくらった挙句に健康についてのいくつものアドバイス。死にたいくらいの挫折感を味わっているのに、体は健康そのもので死神にすら相手にされないなんて、なんて悲しい生き物なんだおやじ。

とまあ、キモいおやじへの憐憫と同情で幕を閉じるのかとおもったら、最後の最後で、またむかつく態度でくだらない上から目線の質問を観客席へ投げてよこしやがるのでした。おやじ真骨頂全開です。さきほどまでの同情はふっとんで、死ねや! という感想で終わるのでした。

そういうものを見せたかったんでしょうかね? 本作のウッディ・アレンは(笑)
あーつまり、具体的なモノを作らずに批評ばかりしている高尚ぶった勘違いおやじのキモさを。

確かにいつもどおり味わいのある作品でしたが、あのおっさんに迂闊に感情移入するとキモいのでもやもやします。それと、話の進行はわりと一本調子で、今回はあっさり作ったなという感触でした。

そうそう、アレがクリストフ・ヴァルツだとはまったく気づきませんでした。顔大写しだったのになあ。

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2024.01.03

「進撃の巨人」

https://www.netflix.com/title/70299043
NETFLIXで

全94話を1.5倍速で正月3日かけて一気見した。長くて疲れたけどわりといいお話で、設定に想定外の驚きがあちこちあって、アクションもナイスだった。最終シーズンはちょっと鬱陶しいくらいに説明的だったけれど、あれ全部を絵だけで見せるのは無理だろうから、誤解の余地を減らしてよかったと思う。

2024年の現実世界は難題をいくつも抱えながら良い方悪い方どちらへ転ぶかわからないわけだけど、本作はちょっとその予習みたいなところもあった。

実際、この危うい状態を招きよせているのは、ごく一握りの人間たちのような側面もありそうだから、本作のファンタジー要素や心情的な側面を取り除いて事実関係だけを見れば、かなりラディカルに近未来のあり得るイメージを予言したような恰好になっている。原作の連載は2009-2021年ということを考えると驚きだ。

ということでとにかく目が疲れました。

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2024.01.01

「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」

https://spy-family.net/codewhite/

いやいやいや。口紅の半分が油だからってそれを導火線にするのってどうかせんとなっていう気持ちはわかりますがどうもならんですよ(汗

といったようなお笑い要素満載で楽しかったです。

アニメの方は見なくなりましたが映画はそれなりの時間と手間を掛けているようで、それでいて子どもを中心に据えたう○こネタもりもりで、おもしろおかしかった。

それでう○こタンクに落ちたはずのマイクロフィルムはどう回収するんだろうとわくわくしていたら綺麗な落ちで回収。胸をなでおろしました。

正月休みに寝ぼけた頭で見るものとしてはなかなかよい一本でした。

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