「ハンガー・ゲーム0」
https://movies.kadokawa.co.jp/thehungergames0/
シリーズ第1作目に勝るとも劣らない力作。わたくし的には本年ベスト1に挙げたい。
第1作目は、金儲けと既得権優先で権力と支配の道具に成り下がったマスメディアを戯画的に描いていて衝撃的だった。その後の続編は見ていないが革命云々という割とありがちな話に収斂していったようだ。
本作はそれより前、ハンガーゲームの草創期の話になる。このような仕組みを着想し確立した支配層側の支配の哲学を描いている。
そういう視点の作品は多くない。大衆受けを宿命づけられている近代以降の映画産業においては、支配に反抗する側を描くことが興行的には優先されるのだから、当然といえばそうだ。
私は、どちらかというと支配の内幕にも同じように興味がある。強いストレスの中で人間というものがどう考え振舞うか、それこそは非日常を描く映画というものにとってまたとないテーマだろうから。
本作では、いったんは一般的な倫理観や価値観に従って行動した若者が機知と勇気を発揮して弱きを援け強きを挫き成功する様が描かれる。ところが後半は一転して、同じその若者が窮地に追い込まれ、考えを変えていく様が描かれている。宗趣替えの原因は、ひとつには弱者と思っていた彼らが一筋縄ではいかない曲者だったこと。彼らが自身の世界の中では自分の嫌う醜い私欲の争いを繰り広げており、守られるべき純真さとは程遠い存在、軽視すべからざる敵だとわかったことだ。
もうひとつの原因は、その彼らを相変わらず助けようとする理想主義で金持ちの友人に対する反発だったろう。青臭い行動をとる友人に以前の自分の浅薄さを見て次第に反感を募らせ、ついには密告に及ぶ。そのことで激しく後悔する彼のもとに、支配者からの誘いがかかる。テストに合格だと。
実際の社会で支配の階段を上るにあたって、どのようなテストがあり何が合格の条件なのか、私は知らない。しかし多かれ少なかれ、青年期までのシンプルな倫理観をどこかで捨てることを求められるのだろう。
本作はそのことを真ん中に据えて描いていて、他の情緒的で美しい作品たちとははっきり一線を画している。それを評価したい。
欲を言えば、後半の若者の心変わりを、もう少しじっくり描いてほしかった。説明的な台詞を使って少し端折ったり、偶然の要素を強めに描いているところがあって、もったいない感じが残った。