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December 2023

2023.12.31

「バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版」

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/0OSAJP7XNRDORYWD6NJHAW1YG1/ref=share_ios_movie

1987年公開というから、35年前の作品。その後何度もリマスター版が出て、これはその最新の版になります。

文化というものの持つ力がよく出ていると思いました。荒んだ砂漠の片隅でかろうじて生きている人々に、ヨーロッパから流れ着いたような一人の女性の持つその力がじんわりと伝わって、見違えるような生き生きした人々に生まれ変わっていく様が感動的。宿のピアノ弾きの青年が形だけ弾いていた曲が、良き聞き手を得て、それまどとは打って変わって情感の込もったものに変貌するところでじーんと来ました。
日本のミニシアターブームを牽引したといわれるだけあって、素晴らしい作品です。

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2023.12.30

「窓ぎわのトットちゃん」

https://tottochan-movie.jp/

とてつもない陽キャのトットちゃんに励まされる感じの映画です。
そんなトットちゃんも実はいろいろ辛い目や悲しい目にあったりして多感な少女の面もあったりします。でも逆境にめげずにやがてむくむくと陽キャが復活します。まあもともと裕福で自由な空気の実家みたいなんですけどね。

戦争に突入していくときの嫌な世相もちょっと出てくる中で、トットちゃんの陽性がいっそう際立ちます。

年末で溜まった疲れを洗い落としてくれるようないい映画でした。

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2023.12.29

「メシア」

https://www.netflix.com/title/80117557
NETFLIX

たしかに、新たな予言者がキリスト教とイスラム教を統合できたりすれば、それは目出たいことには違いありません。この作品はそういう人々の無意識の願望を匂わせながら、信仰というものの本質が極めて個人的で内的なものであることや、人々の祈りとパワーポリティクスという相反するもののせめぎあいを描いているように見えます。また、一見、信仰のように見えるものも、実は大衆動員の道具でしかない米国の一部のの現状も見せていたりします。いろいろな想念が励起される面白い作品でした。

次第に「彼」と彼の言葉を信じる人々が増えていく中で、一応の区切りになる第10話で、それまで手品か現実か曖昧だった奇跡がリアルに現れ、そこでお話は途切れます。本当にそんなことが起きるなら、もう物語はどう収束させればいいのかわからないものになってしまうから、これはこれで余韻の残るいい終わらせ方というべきでしょうか。

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2023.12.25

「ファースト・カウ」

http://firstcow.jp/

資本主義のお話に見えました。
本作に登場する牛は、もちろん資本のことでしょう。

主人公の二人はそれぞれ、経営者と技術者です。この2者が協力してこそ事業というものは創造され推進される。そういう風なことが描かれています。

残念ながら、彼らのスタートがあまりに貧しく、元手となる資本を盗みによって手に入れる誘惑に勝てなかったことで、正道を歩くことはできませんでした。

しかしそうはいっても、最初の投資という冒険と、成果物を世に問うときの期待と不安、実際に評価されたときの充実感と喜び、にも関わらず後ろめたさによる拭えない不安、より大きな商機に対する警戒感と焦り、いろいろな要素が寓話的に詰め込まれていて、たいへん面白かったです。

最後に、経営者の彼が、大怪我をした技術者の男を見限って一人で逃げることもできたはずなのに、そうはせず、俺が付いているから大丈夫と言って共に眠りに落ちるのが、経営者のありようとして様々な想念を呼び起こします。なかなかの良作でした。

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2023.12.24

「REBEL MOON」

https://www.netflix.com/title/81464239

キャラクターのエピソードの集合体のような本作を見ると、ザック・スナイダーという人を映画監督と呼ぶのがいいのかどうか迷う。むしろ映像作家と呼ぶ方がしっくりくる気がする。

映像は相変わらず独特だ。色調とスローモーションで胡麻化しているように見えるけれど、例えばタリクのエピソードは実に神話的な映像で、さすがと思わせる。ここはたぶん他の人には真似のできないところだろう。ただ、それ以外の部分はちょっと精彩に欠ける感じがして、そこが長尺の映画の作り手というよりは短編映像作家という印象を受ける所以だ。(もちろん「アーミー・オブ・ザ・デッド」は堂々たる映画作品だったけど)

キャスティングにも少し手抜かりがあった気がする。東洋系の俳優に韓国風の衣装を着せたキャラクタは、稀代の剣士という触れ込みなのに剣捌きがもっさりしていて見るに堪えない。そういうところにはあまり重きを置いていないのだろうか。。

今回、派手な戦闘シーンは、正直なところ「300」や「エンジェル ウォーズ」の方が数段よかった。どうも一般向けに配信される本作のほかにR指定バージョンというのがあるそうなので、そちらでは本領発揮しているのかもしれない。

監督の名前から期待した割には、おとなしすぎる、らしさがあまり感じられない作品でした。

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「ハンガー・ゲーム0」

https://movies.kadokawa.co.jp/thehungergames0/

シリーズ第1作目に勝るとも劣らない力作。わたくし的には本年ベスト1に挙げたい。

第1作目は、金儲けと既得権優先で権力と支配の道具に成り下がったマスメディアを戯画的に描いていて衝撃的だった。その後の続編は見ていないが革命云々という割とありがちな話に収斂していったようだ。
本作はそれより前、ハンガーゲームの草創期の話になる。このような仕組みを着想し確立した支配層側の支配の哲学を描いている。
そういう視点の作品は多くない。大衆受けを宿命づけられている近代以降の映画産業においては、支配に反抗する側を描くことが興行的には優先されるのだから、当然といえばそうだ。

私は、どちらかというと支配の内幕にも同じように興味がある。強いストレスの中で人間というものがどう考え振舞うか、それこそは非日常を描く映画というものにとってまたとないテーマだろうから。

本作では、いったんは一般的な倫理観や価値観に従って行動した若者が機知と勇気を発揮して弱きを援け強きを挫き成功する様が描かれる。ところが後半は一転して、同じその若者が窮地に追い込まれ、考えを変えていく様が描かれている。宗趣替えの原因は、ひとつには弱者と思っていた彼らが一筋縄ではいかない曲者だったこと。彼らが自身の世界の中では自分の嫌う醜い私欲の争いを繰り広げており、守られるべき純真さとは程遠い存在、軽視すべからざる敵だとわかったことだ。

もうひとつの原因は、その彼らを相変わらず助けようとする理想主義で金持ちの友人に対する反発だったろう。青臭い行動をとる友人に以前の自分の浅薄さを見て次第に反感を募らせ、ついには密告に及ぶ。そのことで激しく後悔する彼のもとに、支配者からの誘いがかかる。テストに合格だと。


実際の社会で支配の階段を上るにあたって、どのようなテストがあり何が合格の条件なのか、私は知らない。しかし多かれ少なかれ、青年期までのシンプルな倫理観をどこかで捨てることを求められるのだろう。

本作はそのことを真ん中に据えて描いていて、他の情緒的で美しい作品たちとははっきり一線を画している。それを評価したい。

欲を言えば、後半の若者の心変わりを、もう少しじっくり描いてほしかった。説明的な台詞を使って少し端折ったり、偶然の要素を強めに描いているところがあって、もったいない感じが残った。

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2023.12.18

「終わらない週末」

https://www.netflix.com/title/81314956
NETFLIX

この不穏な空気! たまりません。通信がすべて途絶え交通も途絶し孤立する郊外の一軒家で、事態は静かに進行していきます。そう。これは物語ではなく事態。

登場人物は6人のみ。最初は彼らの相互不信からはじまり、交流を経て次第に相互理解から信頼構築に至るまで。途中、不可解なディザスター級の事件がいくつか起き、不穏さがいや増すのですが、それでもこの静かな進行は乱されません。行きつく先に何が待つのか、はらはらしながらただ見守るだけです。

ハッピーエンドでもなく、かといって破局でもないものの、前途に絶望的な暗雲が立ち込める中、物怖じしない子どものささやかな欲望が満たされて終わります。この不条理感!

日々の娯楽にうつつを抜かしていると地獄の窯の蓋が開くぞと警告しているかのようですが、しかしここは、下手な解釈をせずに丸ごと受け止めておこうと思いました。

それにしてもアメリカ、内戦いくんですかねえ。来年あたり(笑)

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2023.12.17

「きっと、それは愛じゃない」

https://wl-movie.jp/

見合と恋愛のいいところよくないところを様々な角度から見せてくれる教養映画(ほんとか)。でも、普通の人にとっては一生に一度かそこらしかないのにその後の人生を大きく変える選択において、十分な知識を持っているかといわれれば、そうでもないのでしょう。そうしてみると、本作は示唆に富んでいるといえそうです。

結婚式の当日に豹変して本性を現す花嫁に新郎が幻滅してひねり出す名言「結婚生活というのは演技だ」は、日本でもふた昔くらい前は割と普通にあった感覚ではないでしょうか。落語や漫才はそれを笑いに昇華していたと思います。

本作はムスリムどうしの見合い結婚を取り上げているけれど、カソリックも含め、非西洋、非近代の社会ではどこも似たり寄ったりだろうと思ったりします。むしろ西洋近代の自由恋愛思想の方が異端なのかもしれません。

中盤過ぎまでは見合い結婚優勢で話は進み、挙式までいくのですが、その後の苦渋に満ちた後悔が結構来ます。それをやり過ごして、昔の人は生きてきたのかもしれないなとさえ思いますが、イスラムの結婚には離婚の条件も簡潔に定められているそうで、あっさり破局。自由恋愛の勝利で終わるのは、英国の映画ですから当然です。

少子化とか離婚の多さを取り上げて自由恋愛を批判する向きもあるかもしれませんが、どう転んでもその後の結婚生活が演技なのであれば、せめて結婚するときくらいは夢を見てもいいのかもしれませんね。

いやもちろん仲睦まじい夫婦の方が大多数なわけで、とてもいいことだとは思いますですはい。

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2023.12.10

「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」

https://wwws.warnerbros.co.jp/wonka/index.html

バランスが良くて引っ掛かりが少ない、誰にでも楽しめるファンタジー。言ってみれば優等生的な作品。前作はほとんど覚えていないが、チョコレート工場の主はもっと毒と癖のあるキャラクタで、ジョニー・デップにぴったりだと思った記憶はある。

それに比べると、本作の主人公はいい人すぎる気もするけど、まあお話の組み立てからすればこの方がいいのだろう。こちらはティモシー・シャラメがまさにぴったり。

内容は、世界を変える気概に燃える技術オタクの人の好さに惹かれて仲間が集まり、理不尽な妨害を仕掛けてくる悪徳商売敵とその一味に打ち克ってそれぞれの夢と幸せを実現するというお話。絵にかいたような定番だけれど、チョコレートというネタでこれほど様々な仕掛けを繰り出してくるとは思わなかった。大きな見どころになっている。
風変わりな小人を絡ませて一本調子を避けているのもいい。

家族連れで見に行ける、手ごろなクリスマス映画といったところでしょうか。

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2023.12.04

「悪魔はいつもそこに」

https://www.netflix.com/jp/title/81028870

NETFLIXで

エクソシストがちっとも悪魔じゃなかったので、ちょっと悪魔を見たいなと思って以前から気になっていた本作を見てみた。

悪魔が人の姿を借りてよろしくない行いをするのを悪と呼ぶとすれば、確かに本作はそこかしこに悪魔がいたと言っていい。ホラーにする必要もなく、おどろおどろしい脅しも特撮も必要ない。ただ、淡々と悪が描かれている。そしてそれに抗うひとりの青年。

現世的には、悪を滅ぼすことはその悪を纏った人間を傷つけることになるから、法的には彼は罪人だが、もちろん感覚的にはそんなことはない。やむにやまれずというよくある話。だがそこに湿っぽさは皆無だ。

このざらついた感触はなかなかいい。悪に近付かないよう、運命を狂わされないように気を付けたいものだが、実際にはそうもいかないとき、こういう乾いた感触を思い出してみるのは、悪を遠ざけるためにもいいことなのだろう。やつらの方は厚顔無恥だから押し込まれないように強面を装う必要はある。

まだ若いけれど名優と言っていいトム・ホランドが、そういう青年の乾いた悲しみを過不足なく演じていてよかったです。

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2023.12.03

「エクソシスト 信じる者」

https://exorcist-believer.jp/

選択の重み、という趣の作品。宣伝では恐怖とわかりやすく言っていて、確かに受け狙いで怖がらせる意図はあるものの、それが本旨ではない。お陰で作品としては単なる恐怖映画の卑俗を脱して、より深遠なものを描き出せている。

人の限りある能力で未来を見通すことなどできない中で、それでも日々行動を選択していかなければならない。それが人の生き死にに関わるようなことであってもだ。

選択の結果が思い通りにならないどころか、想定と逆方向に物事が進んでしまったとしても、それは運命というものだ。ただ受け入れて無言でそれを見つめながら生きていくのが人という生き物だろう。本作はそんな風なことを言っているように見える。修羅場の最後で、主人公のアフリカ系の父が黙って隣人の家族を食い入るように見つめている姿が圧巻でした。

まあたいした選択もせず日々ぐうたら生きている私としては、あの誰もが知る美しくもおそろしい主旋律をもっとたくさん聞きたかったです。高校の体育祭であの旋律に合わせてよくわからん現代的な振り付けのダンスをやらされた男子生徒としては、懐かしさもひとしおでした。

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