「正欲」
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LGBTQというのは正直に言うとわからない。だからそれを前面に押し立ててメッセージ化したような作品はあまり見る気が起きずに来た。それらは流行りに乗ったある種のプロバガンダの匂いがするからだ。
けれども本作は、そういうものとは一線を画している。LGBTQを美化していない。
一方の側に立つのではなく、LGBTQ的な者の側の視線と、そうではない多数派・正統派(と本人たちは思っている)側の視線とを、等分に扱っている。
尺の大部分を少数派の側を描くことに使い、見る側に彼らの内面をじっくり見せて、その苦悩について理解を深めさせながら、一方で、多数派・正統派に属する検事の側の事情も立ち入って描き、両者を最後に引き合わせている。このシーンのやりとりの最後がたいへん印象的だ。
誤解から仲間が逮捕されてしまった少数派が、「いなくなったりしない」というたった一言で、彼らの絆の強さを示したことと、その言葉を投げられた検事が実は、妻と子どもから否をつきつけられ絶縁されてしまったこととが、好対照を成している。
多数派・正統派を自任する彼らも、正統と彼らが考える人どうしの繋がりを壊してしまうことが普通に起きるではないかという問いかけだ。そんな彼らが、人の絆をよすがに生きている少数者のどこを批判したり裁いたりできるというのか。本作はそういう切り口でLGBTQを見せている。
職業柄、検事は普通の人が見ないようなものをたくさん見てきたのだろう。だから道を外れないように教え諭したがる点には同情の余地がある。しかしその視野の偏りについてはいささか無自覚すぎた。
少し前に、総理大臣秘書官がLGBTQに関する失言で人権意識の低さを露呈し更迭されたことがあったが、本作はそういう単純で偏った人たちに対して、ガッキーの口を借りて強烈な警句を浴びせている。
世の中は我々普通の人の想像を超えて多様らしい。
ところで、ガッキーの死んだ目と生きた目の演じ分けはなかなかよかったけど、それ以上に東野絢香という役者さんの見せ場がすごかった。美形は演技が美形の影に隠れがちだけれど、そうではない(失礼)人の演技というのは真に人の心を打つのだということを見せつけてくれました。これからが楽しみですね。