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November 2023

2023.11.29

「サムシング・イン・ザ・ダート」

https://klockworx-v.com/sitd/

ロサンゼルス郊外のアパートで繰り広げられる、不思議でちょっと切ないお話。主人公は夢ある少年少女ではなく中年に差し掛かった男二人。男という生き物のロマンとか野心とか臆病さと非情さとか悲しみとかがないまぜになってしんみりと残る。傑作というのと少し違うのだが、妙に心に残る作品。

* * *

一人はそこそこの成功を収めて気ままな暮らしを楽しんでいるかに見えるが、ゲイの夫に別れられた自称カメラマン。もう一人は貧相な風体で社会から逃げるようにしてここへやってきた入れ墨男。

そんな少しうらぶれた中年男たちが、浮遊するクリスタルという摩訶不思議な現象を目の当たりにし、一攫千金を夢見てドキュメンタリ映画を作ろうとする。

だがいつも些細な準備不足や手際の悪さやあれやこれやで、制作は思うように進まない。それどころか、撮影の過程で二人の様々な裏の顔が互いに少しづつ見えてきて、映像制作よりもそちらの確執へと話しの重点が移っていく。

入れ墨男が実は複数の犯罪歴があり保護観察の対象になっていることが、共同制作に影を落とす。仕事はどれもリゾートバイトばかりで、たしかに不運ではあるのだが、本人自身にも問題が多い。成功者がこの前科者に面と向かっていみじくも言った通り、彼は成功を前に躊躇してしまうのだ。成功することが何か悪いことのように思って背を向けてしまう。そう。我々日本人にはお馴染みの特質であり、アメリカ的な成功者から見れば単なる弱さでしかないあれだ。

とはいうものの、成功者に見える男の方もゲイの夫に縁を切られながら生活費の援助に縋るような裏の顔もあって、奇妙に人物像が錯綜している。

錯綜といえば時間軸もそうだ、はじめは映像制作に勤しむ二人の時間軸で話はすすむのだが、少しづつ、制作が終わったあとの回想録のような短い映像が差し込まれて行って、しまいにはそちらが話の本筋になっていく。この振り替わりというか筋の転換は本作の際立った特徴だろう。通好みというか。

その時間の転換の絶妙さが、最後にこの二人の悲しみや切なさを滲みださせていてしんみりする。これは、成功を夢見ながらそれを自ら拒絶してしまう、悲しい男への鎮魂の詩だったのだろうか。

男には、女と違って子どもという未来がない。
なんとなく、最後にそんな感傷を抱いてしまうような作品でした。

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2023.11.26

「首」

https://movies.kadokawa.co.jp/kubi/

野心とその報い、みたいなお話。もうね、次々死にます。
予告編で秀吉が「俺が天下取ったらあいつらみんな消えてもらう」と言っていたのは、信長や光秀や家康のことだと思っていたら、なんとまあもっと身近な人間たちのことでした。それがきっかけで、この作品は彼らの野心に焦点を当ててるのかなと思いましたのです。

この監督は、武士のような生まれつき地位や名誉のある人間たちが抱く愛憎や野心については否定的で軽蔑しているのだろうと予想していましたが、それだけでなく、農民のような底辺の人間の野心についても一様に否定的だということを、秀吉の言動を通じて言っているように見えました。その秀吉はといえば誰よりも強い野心の持ち主だろうのに。

光秀を討伐するにあたって彼が示した褒美が金銀だというところを見れば、人間の動機なんてより多くの金目当てに過ぎないだろうと言いたいかのようです。事実そうだろうと思ってはみても、あんまりいい気分はしません。

おっさんたちの男色がそこかしこで挿入されていて見ているのも気分の悪いものです。ひょっとすると昨今流行りのアレをこれでもかと糾弾しているのかもしれません。

最後は唐突に終わります。まるで話は打ち切りだみたいな。あれでいいんですかね。

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2023.11.23

「ロックウッド除霊探偵局」

https://www.netflix.com/title/81116060

うーん。ちょっとはずれだったか。ティーン向けの安上がりなファンタジーといったところ。

突然この世に霊があふれ出して、みたいな設定はホラーファンタジーの基本だけど、それに対処できるのが霊を感知できる少年少女だけで大人は役に立たない、という前提が社会全体に共有されているのがちょっと面白い。この世界では子供が爆弾やレイピアを振り回して除霊するのが公的に認められている。いかにも子ども向けといった趣。

弱小探偵局が才能とチームワークで頭角を現していきながら、謎の多い局長の過去を微妙に絡ませるシーズン2につなげている。この局長の自信過剰で気障な振る舞いが好きな人は好きかも。

途中のエピソードで、地下の礼拝堂のようなものが出てくるのだけど、これが映画「ヴァチカンのエクソシスト」に出てきたものとそっくりなんだけど、有名なロケ地なのか、それともスタジオセットの使い回しなんだろうか。安っぽくて笑えた。

謎解きはシーズン2が本番のようだけど、続けて見るかどうかは微妙。
暇なら倍速で飛ばし飛ばしに見てみてもいいかというくらい。

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2023.11.20

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

https://www.kitaro-tanjo.com/
 
水木しげるの作品は独特の感性で満たされている。本作でもそれをたっぷり味わえる。
 
作家の原体験からくるのだろうか。押し付けられた権威とか大儀とかを絶対に信用しない。見ている我々一般大衆はそこに共鳴する。実際、そうしたものはろくでもないものだと大多数が経験的に知っているからだろう。
 
その上で、しかし大儀というものを否定しない。むしろ、個々人が自ら犠牲を払って示すそれには最大限の敬意を払う。そして払われる代償を前にした深い悲しみを描き出す。
 
まあ、そういったところだろうか。
うろ覚えだが原作漫画では、人間というものをもう少し絶望的に救いがたいものとして身も蓋もない描き方をしていたように思うけれど、令和の世の一般向け作品として、多少の希望は持たせた結末にしているようだ。なにせ猫娘があんなすらりとした美人なんですから、その空気に合わせないわけにいきませんよね。
 
もともとの猫娘を知る身としてはここで卑屈に含み笑いをして背中を見せるわけです。

 

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2023.11.19

「リアリティ/REALITY」

https://transformer.co.jp/m/reality/

アメリカでの機密漏洩というと、この件が日本でも比較的大きなニュースになっていたのが記憶にある。
https://www.bbc.com/japanese/65271731

この映画はそれとは別件で、大統領選へのロシアの関与に関するものだそう。実際にあった事件を捜査したFBIの録音をもとにセリフを起こしたという異色作。約90分という短い上映時間は録音時間とほぼ同じ短かさで、場面も容疑者の自宅まわりと聴取が行われた一室の映像だけで構成されているが、演出の巧みさで緊張感が張り詰めていて見ごたえがある。

この事件を起こした元空軍スタッフの女性が、機密をマスメディアに漏洩しようと思った理由を聞かれたときの答えが、内部事情とメディアに流れる情報の落差に絶望している様子をよく表していて秀逸。

金銭でもなく党派性でもなく、ただ、嘘が蔓延する世界に怒りを叩き付けるような事件で、なんともやりきれない気分になる。公僕というは神経が太くないとやっていけない辛い仕事だということがよくわかる、興味深い作品でした。

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2023.11.13

「正欲」

https://bitters.co.jp/seiyoku/#modal

LGBTQというのは正直に言うとわからない。だからそれを前面に押し立ててメッセージ化したような作品はあまり見る気が起きずに来た。それらは流行りに乗ったある種のプロバガンダの匂いがするからだ。

けれども本作は、そういうものとは一線を画している。LGBTQを美化していない。
一方の側に立つのではなく、LGBTQ的な者の側の視線と、そうではない多数派・正統派(と本人たちは思っている)側の視線とを、等分に扱っている。

尺の大部分を少数派の側を描くことに使い、見る側に彼らの内面をじっくり見せて、その苦悩について理解を深めさせながら、一方で、多数派・正統派に属する検事の側の事情も立ち入って描き、両者を最後に引き合わせている。このシーンのやりとりの最後がたいへん印象的だ。

誤解から仲間が逮捕されてしまった少数派が、「いなくなったりしない」というたった一言で、彼らの絆の強さを示したことと、その言葉を投げられた検事が実は、妻と子どもから否をつきつけられ絶縁されてしまったこととが、好対照を成している。

多数派・正統派を自任する彼らも、正統と彼らが考える人どうしの繋がりを壊してしまうことが普通に起きるではないかという問いかけだ。そんな彼らが、人の絆をよすがに生きている少数者のどこを批判したり裁いたりできるというのか。本作はそういう切り口でLGBTQを見せている。

職業柄、検事は普通の人が見ないようなものをたくさん見てきたのだろう。だから道を外れないように教え諭したがる点には同情の余地がある。しかしその視野の偏りについてはいささか無自覚すぎた。

少し前に、総理大臣秘書官がLGBTQに関する失言で人権意識の低さを露呈し更迭されたことがあったが、本作はそういう単純で偏った人たちに対して、ガッキーの口を借りて強烈な警句を浴びせている。

世の中は我々普通の人の想像を超えて多様らしい。

ところで、ガッキーの死んだ目と生きた目の演じ分けはなかなかよかったけど、それ以上に東野絢香という役者さんの見せ場がすごかった。美形は演技が美形の影に隠れがちだけれど、そうではない(失礼)人の演技というのは真に人の心を打つのだということを見せつけてくれました。これからが楽しみですね。

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2023.11.12

「マーベルズ」

https://marvel.disney.co.jp/movie/marvels

うむ。能天気でよかったです。
キャプテン・マーベルの無敵ぶりは突き抜けて過ぎていて敵が撃破されるのはもうお約束済みでコミカルでさえあるんだけど、そんな宇宙最強な彼女ゆえの失敗の尻拭いのお話、ということに一応なっている。世の中、力で解決できないことなんて山ほどあるということで、まあいいんじゃないでしょうか。

それにしても、指パッチン以降のMCUは混乱の極みという感じで、むしろその混乱を見せるのを売りにしている節もあるけど、なんだか落ち着きません。やっぱりピークは過ぎたんですね。。

敵役を演じるソーイ・アシュトンさんの悲劇の女性リーダーっぷり、追い詰められた者の焦燥感がなかなかよかった。

恒例のエンドクレジットのおまけ映像は・・えーっとX-MENってあれもマーベルなんですね。絡んできます。スーパーパワーのスタイルの違い、力のアベンジャーズ、技のX-MENという違いをどう吸収していくんでしょうか。

 

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2023.11.08

「葬送のフリーレン」

https://www.netflix.com/jp/title/81726714
NETFLIXで。
 
とりあえず9話まで一気見。
原作は漫画だそうで、熱血単純ストーリーとは違うよさがある。
 
寿命千年を超えるというエルフの魔法使いを軸に、彼女から見ればずっと短命な種族である人間をもっと知るために旅をするというお話になっている。
 
その設定も面白いし、なにより人間の特色を浮き彫りにする手法が鮮やか。
 
人間の弟子を取る初めの方で、その弟子がなぜ技術を身に付けることを急ぐのか、その理由を描き出すエピソードがよい。
 
また、数十年前に封印した魔物の封印を解き最終決着をつけるエピソードでは、短命種族である人間がわずかな間に研究と研鑽を積み、以前は敵わなかった魔物の強さをいつのまにか当然のように凌駕している驚きを描いている。これもいい。
 
描くべきものがあって、それを巧みな話の運びで見せていく、とてもいい作品だと思う。
 
これは続けて見ていきたい。

 

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2023.11.07

「鬼武者」

https://www.netflix.com/title/81153116
NETFLIX 全8話
 
伝奇剣豪小説のアニメ化といった趣。古臭い。でも懐かしい。
 
元のゲームでは明智左馬之助という武士が主人公らしいが、こちらの主人公はなんと宮本武蔵。その武蔵役に三船敏郎を起用しているのはよかった。アニメなのになんのことかと思うなら、予告編を見てみればすぐに意味がわかる。これが古臭さと懐かしさの理由だ。
剣戟の迫力は例えばFateシリーズほどではないし、敵役のキャラクタは少し上滑り気味だしで、さほど見るべきところはないのだが、三船敏郎のぶっきらぼうであまり説明的ではない台詞のおかげで、いい雰囲気が出ている。
 
暇なら倍速くらいで見てもいいんじゃないでしょうか。

 

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2023.11.06

「私がやりました」

https://gaga.ne.jp/my-crime/
 
どたばた喜劇(・・じゃなくてこういうのスクリューボールコメディっていうらしい) なんだけど、何とも言えない色艶があって楽しめます。ロマンシスな若い主人公二人の華やかさのお蔭かもしれません。
 
この二人、作中では歳に似合わず大胆に陰謀を巡らす小悪魔なのですが、ハリウッド映画ならそういう悪役はたいてい相応のお仕置きを喰らうものと相場が決まっているところが、そこはフランス映画。驚くような展開で運命を切り拓いていってしまいます。なんともハッピー。キリスト教が根底にあるアメリカ映画や、儒教や詫び寂びの影が見え隠れする日本映画とは大きく違うところです。ちょっとウディ・アレンなんかを思い出します。まあ、アレンはおっぱいは出しませんが、フランス映画ですから当然のように出てきます。嬉しいですね。
 
そういう空気を味わえるだけでもフランス映画は楽しいのですが、本作はさらに、女性の地位向上という大義名分を前面に出してきて、そのためなら男など殺されても当然というくらいの主張をあっけらかんと押し出してきます。この捌けている感じがまたよい。
 
影など微塵も感じさせない楽しいブラックユーモア、というかエスプリと言うのでしょうか、そういうものを見られる作品でした。

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2023.11.05

「ゴジラ-1.0」

https://godzilla-movie2023.toho.co.jp/
 
私の親は他界してもう30年くらいは経つのだが、その世代までは、先の戦争の記憶が実体験として残っていた。日常には滅多に表れないが、ときおりその傷がふっと露出することがあった。具体的にはどんなシーンだったか覚えてはいないけれど、そこには、生き残ってしまった後ろめたさのようなものが漂っていたように、子供心にも感じることがあった。
 
進駐軍で経理と通訳をやりながら、それなりの生活を確保していた者でさえそうなのだから、当時の日本人全般がどれほどの痛みを抱えていたかは想像に余りある。だから、本作が描くその痛みを、私は素直に理解できるし共感もできる。親たちはどうにもならない状況の中で必死に生きていたはずなのだ。
 
翻って、いまの若者たちにこの映画はどう映るのだろう。どうも心許ない気もする。作中で兵長が戦争経験のない若手に、作戦には同行させないと言ったとき、彼の心の裡には、敗戦の後始末は自分達の罪滅ぼしを兼ねた仕事であって、その罪を背負わない若者を巻き込むことはできないという気持ちはもちろんあったろうけれど、同時に、自分達が負った傷の大きさが、若者にわかってたまるかという思いもあったかもしれない。だれかが貧乏くじを引かなきゃならんだろうという台詞に、その複雑な心中が表れているようだ。
 
それでいい、と思う。
 
旧い傷は旧い世代が背負ったまま年老い消えていくのが生命の摂理というものだろう。そうやって傷は何事もなかったかのように土に還り、新しい世代は新しい環境に適応して生き延びていくのだろうから。
 
この映画はそういう本源的な部分をしっかり捉えているように思う。そのうえで、自暴自棄も英雄的高揚も否定して、必死に生きることの尊さを的確に示している。
 
ゴジラ映画の原点に戻るはもちろん、そこからさらに遡って、より大きな生き方を指し示しているようで、-1.0という命名に納得した。
 
映像的には文句の付け所もない。「シン・ゴジラ」の悪魔的な映像を見たときは、もうこれ以上のゴジラは作れないだろうと思ったが、どんな高みもいずれ越えられる宿命にあることがまたしても実証された。特にゴジラ撃滅作戦があと一息で成功するかに見えた瀬戸際のゴジラの断末魔の様子は、今まで見たことのないものだ。これまでのゴジラ映画は、この部分がもうひとつだったが、本作はそこを完璧にしてきている。凄まじい想像力と迫力。
 
人間ドラマと怪獣ゴジラの死闘とをこれ以上なく融合させて描き切った力作でした。

 

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