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2023.10.28

「PERFECT DAYS」

https://perfectdays-movie.jp/
 
ヴェンダースだが変に哲学的な問いかけはない。むしろ日本人が作ったと言われても違和感のない感触がある。それは裏を返せばヴェンダースの日本に対する理解の深さを表してもいるのだろう。
 
内容に目新しさはない。底辺と言われる職種で働きながら満たされた日々を送る男の日常が描かれているだけ。ただし、トイレ清掃員という人との接触が少ない職種を作り手は慎重に選んでいる。仮に工事現場の人足を描いていたらこういう静謐は生まれないだろう。東京の公衆トイレという建築デザインの奇妙な先端が仕事場であることも不思議な品格を醸し出している。この選択はうまい。
 
音楽も、その時々の主人公の心情を表すのに大いに役立っている。選曲にはヴェンダース自信が参加しているそうだ。
 
誰の注意も引かずひっそりと生きるこの男だが、後半では、人から頼られ必要とされるいくつかのエピソードに立ち会うことになる。同僚の若者、主人公の姪、行きつけのスナックの女将とその元夫。最後の元夫とのやりとりで、主人公は人の後半生を託されるという経験をする。そのあとの複雑で変化する感情を、役所広司が長い尺の顔芸で表すのが本作のクライマックス。歓び、希望、期待、そういったものが入れ代わり立ち代わり現れるこのシークエンスは、旧い日本人気質の私には少し強すぎるようにも思えたが、近年はこのくらいがいいのだろうか。不安や惧れがないのが、個人的には引っ掛かった。
 
人の日常の在り様を淡々と見せる作品でした。

 

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