« 「毒」 | Main | 「シアター・キャンプ」 »

2023.10.21

「ザ・クリエイター/創造者」

https://www.20thcenturystudios.jp/movies/thecreator
 
出だしのSF感が素晴らしい。空に浮かぶ要塞ノマドのシャープな造形やスキャナーの非現実感と、それと裏腹の絶対的な物理的破壊力にぞくぞくきます。神の視点。これですよこれ。
 
翻って地上では、20世紀的オートマタとシミュラントと呼ばれるAIロボットと生身の人間とが、東南アジアの自然の中で混然となって生きている様が描かれています。言うなれば虫の視点。
 
天空の要塞のクリーン過ぎる非人間感と、地上の現実の泥臭さとの鋭い対比に痺れます。
 
従来の映画における人間対AIの構図は、人間が泥臭くてAIがクリーンというイメージでした。ところが本作では、これを反転させています。クリーンで非人間的な空からの破壊者が実は旧世界の反AI派の人間。一方、泥臭く命の息吹を感じさせる地上の生活者がAIロボット(とそれに共感する人間)。このイメージの反転が、本作のSF感、センスオブワンダーの源です。素晴らしい。
 
前者が米国、後者が東洋諸国というイメージをこの構図に投影しているのも、ややステレオタイプですが、東洋から見た現実の米国のベトナム戦争以降を彷彿とさせて説得力があります。
反AIに傾いたロサンゼルスの核爆発が、人間の操作ミスによるものだったのを、AIからの攻撃だと嘘を言って対AI戦争を始めた米国人という設定は、対イラク戦争を強烈に皮肉っているようです。
 
さて、SF的な出だしを過ぎると、後はむしろ人間ドラマ。AIを人間と同様の存在に見せることで、人間とAIとの「人間」ドラマに仕立てています。筋書きが多少飛躍していたり、新兵器と呼ばれたシミュラントの少女の力が超能力であってscientificでなかったりでSF感は後退しますが、代わってドラマとしての盛り上がりで惹きつけます。
 
天国へ行けるのは善い人だけだ、自分は行けないと、罪悪感を背負う元軍人がつぶやくのへ、シミュラントの少女が「それじゃ私も天国にはいけないね。人間じゃないから」と応えを返すところなどは、思わずしんみりします。もうAIにどっぷり感情移入している自分に気付きます。
 
この後は、元軍人が植物人間になった元妻の元に辿り着きその最後を看取るとか、シミュラントと一緒に天空の要塞に取り付いて破壊を試みるとか、アクション満載のエンタテインメント。ここでは、米国人が機械を機械として無慈悲に消費していくのに対して、ニューアジア人がAIを戦友として対等に扱う対比が描かれています。徹底していますね。
 
そして締めくくりは、無敵と見えた要塞の崩壊。それをもたらした男と、元妻のシミュラントとの最後の出会いはまるでローグ・ワンじゃないかと思ったら監督同じ人でした。
 
今回、二人の最後は彼らのかけがえのない子供たちを守るためという点が新しく、ローグ・ワンのときより深みが増しています。ただやっぱりそれ以上に、そこには惹かれ合う二人の魂が描かれていて、この監督の至上の価値観がその辺りにあるのかと思わせます。
 
 
ということで、細かいことに目をつぶれば、最高に楽しめるSFエンタテイメント作品でした。

 

|

« 「毒」 | Main | 「シアター・キャンプ」 »

映画・テレビ」カテゴリの記事