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October 2023

2023.10.30

「THE KILLER」

https://www.netflix.com/title/80234448
 
NETFLIX映画を映画館で。
 
暗殺者というと、007の影響なのか、かっこいいものという先入観がある。しかし本作の暗殺者は、あまりかっこよくはない。なにしろ冒頭で仕事に失敗してしまい、その後始末に隠れ家の妻が暴行され、その復讐をひとつひとつやっていくという身も蓋もないお話だ。途中、同じエキスパートに格闘でがつんがつんにやられて負けそうになったりもする。そもそも狙撃や毒殺爆殺を旨とする接敵能力に優れているタイプで、近接戦闘はあまり強くないのだ。そう聞けば、派手さのない、つまりはかっこよくはないということがわかるだろう。
 
しかしその方法論には頷かせるものがある。計画は綿密に。予定通りに。アドリブはしない。ああいった仕事が本当にあるとしたら、まあそうなんだろうと思わせる。
 
とはいえ、正直なところこの映画のどこを評価すればいいのか戸惑う。プロの仕事の確実さ? 敵の社会的影響力の度合いに応じた自制? まあそういうところを見るべきなのだろう。
 
「エイリアン3」「セブン」「ファイト・クラブ」「ゴーン・ガール」などのエッジの効いたフィンチャー作品に比べて、ちょっと見るべきところを見つけられなかったもどかしさが残る作品ではありました。
 
ただ、復讐対象のエキスパートをティルダ・スウィントンが演じていたところはよかった。そこだけスクリーンの色合いが違うような感じがするくらい。名優というのはああいうものなんだろうか。

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2023.10.29

「PLUTO」

https://pluto-anime.com/
 
アツい!この作品はアツいです!
 
原作は手塚治虫の「地上最大のロボット」。それを浦沢直樹が漫画にしたのが「PLUTO」(読んでない)。細かい技術の話などを越えて、これは作り手のものすごい熱量を感じさせる。それにアテられて一晩ぶっとおしで見てしまいました。
 
映像作品としては台詞が多いですが、漫画というのは実は台詞で構成されていると私は思っているので、漫画を原作とする本作がこうなるのは違和感ありません。むしろゲジヒトの活動を縦軸として通し、連なる各ロボットたちのエピソードをオムニバスのように並べて少しづつ重ね合わせた、浦沢直樹の骨太な構想力にぐっときます。
 
人間かロボットか区別がつかないほど発達した世界最高峰のロボットたちが見せる、人を凌ぐほどの強い感情の動きが、見る側の先入観を浸食して、ロボットも普通に喜怒哀楽があるものだと思わせていき、それを土台に人間ドラマ(というかロボットドラマ)を展開します。本作はロボットどうこうより、憎悪と復讐を中心に据えた人間ドラマであるところに価値があります。
 
そこに、ロボットの超絶パワーで可能になる派手なアクションを被せていきます。これで面白くないわけがない。
 
節目で絡んでくる影の主役、天馬博士のマッドぶりと、その背後にある深い悲しみに打たれます。あの天馬博士が滂沱の涙を流して顔をくしゃくしゃにして泣くなんて。
 
 
中東で均衡が崩れておかしなことになっている今、ちょうどこのタイミングで配信が開始されたのは、もちろん偶然でしょうけれど、それにしても本作のテーマがあまりにも現在の世界の在り様にマッチしていて、そら恐ろしくなるほどです。
 
大人が見て、物を想うべき作品でした。

 

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2023.10.28

「PERFECT DAYS」

https://perfectdays-movie.jp/
 
ヴェンダースだが変に哲学的な問いかけはない。むしろ日本人が作ったと言われても違和感のない感触がある。それは裏を返せばヴェンダースの日本に対する理解の深さを表してもいるのだろう。
 
内容に目新しさはない。底辺と言われる職種で働きながら満たされた日々を送る男の日常が描かれているだけ。ただし、トイレ清掃員という人との接触が少ない職種を作り手は慎重に選んでいる。仮に工事現場の人足を描いていたらこういう静謐は生まれないだろう。東京の公衆トイレという建築デザインの奇妙な先端が仕事場であることも不思議な品格を醸し出している。この選択はうまい。
 
音楽も、その時々の主人公の心情を表すのに大いに役立っている。選曲にはヴェンダース自信が参加しているそうだ。
 
誰の注意も引かずひっそりと生きるこの男だが、後半では、人から頼られ必要とされるいくつかのエピソードに立ち会うことになる。同僚の若者、主人公の姪、行きつけのスナックの女将とその元夫。最後の元夫とのやりとりで、主人公は人の後半生を託されるという経験をする。そのあとの複雑で変化する感情を、役所広司が長い尺の顔芸で表すのが本作のクライマックス。歓び、希望、期待、そういったものが入れ代わり立ち代わり現れるこのシークエンスは、旧い日本人気質の私には少し強すぎるようにも思えたが、近年はこのくらいがいいのだろうか。不安や惧れがないのが、個人的には引っ掛かった。
 
人の日常の在り様を淡々と見せる作品でした。

 

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2023.10.22

「シアター・キャンプ」

https://www.searchlightpictures.jp/movies/theatercamp
 
演劇とか映画とかの製作現場を題材にした作品は、面白いと決まっているようなものだけれど、この作品もとても面白く楽しめました。ミュージカル製作の舞台裏ということで、随所に素晴らしい歌声が挿入されるという仕掛けがとっても良いです。いいところに目を付けたなという感じ。ミュージカル映画にしてしまうと、余計なところにまで歌が入ってちょっとしつこい感じになりやすいけど、本作はそこを回避しつつ、必要な場面にはミュージカルの練習や公演の場面という形で歌を入れて盛り上げています。こんなうまい方法があるなんて。
 
お話の展開は全くの定番です。作品の練習と並行して裏側では経営危機が進行し、はらはらしながら観ていると、本番公演と危機の解決がどんぴしゃりのタイミングで重なって感動がいや増すという流れ。でもこれが本当に良く出来ていて、しかもそこに裏方二人のすれ違いと和解も重なって、美しい歌に浸ってもう涙出ちゃいます。
そんで、真面目なだけじゃなくて結構笑いも入っていて、特に裏方の女性が降霊術者なのを上手く使っています。
 
ということで、本年ベスト10に入りそうな良作でした。
 
ところでクライマックスの公演の途中、客席を映した場面でアン・ハサウェイが座ってた気がしたんだけど見間違いかな・・あんな特徴的な顔を間違えたりしないと思うけど、一瞬だったから錯覚かも。。

 

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2023.10.21

「ザ・クリエイター/創造者」

https://www.20thcenturystudios.jp/movies/thecreator
 
出だしのSF感が素晴らしい。空に浮かぶ要塞ノマドのシャープな造形やスキャナーの非現実感と、それと裏腹の絶対的な物理的破壊力にぞくぞくきます。神の視点。これですよこれ。
 
翻って地上では、20世紀的オートマタとシミュラントと呼ばれるAIロボットと生身の人間とが、東南アジアの自然の中で混然となって生きている様が描かれています。言うなれば虫の視点。
 
天空の要塞のクリーン過ぎる非人間感と、地上の現実の泥臭さとの鋭い対比に痺れます。
 
従来の映画における人間対AIの構図は、人間が泥臭くてAIがクリーンというイメージでした。ところが本作では、これを反転させています。クリーンで非人間的な空からの破壊者が実は旧世界の反AI派の人間。一方、泥臭く命の息吹を感じさせる地上の生活者がAIロボット(とそれに共感する人間)。このイメージの反転が、本作のSF感、センスオブワンダーの源です。素晴らしい。
 
前者が米国、後者が東洋諸国というイメージをこの構図に投影しているのも、ややステレオタイプですが、東洋から見た現実の米国のベトナム戦争以降を彷彿とさせて説得力があります。
反AIに傾いたロサンゼルスの核爆発が、人間の操作ミスによるものだったのを、AIからの攻撃だと嘘を言って対AI戦争を始めた米国人という設定は、対イラク戦争を強烈に皮肉っているようです。
 
さて、SF的な出だしを過ぎると、後はむしろ人間ドラマ。AIを人間と同様の存在に見せることで、人間とAIとの「人間」ドラマに仕立てています。筋書きが多少飛躍していたり、新兵器と呼ばれたシミュラントの少女の力が超能力であってscientificでなかったりでSF感は後退しますが、代わってドラマとしての盛り上がりで惹きつけます。
 
天国へ行けるのは善い人だけだ、自分は行けないと、罪悪感を背負う元軍人がつぶやくのへ、シミュラントの少女が「それじゃ私も天国にはいけないね。人間じゃないから」と応えを返すところなどは、思わずしんみりします。もうAIにどっぷり感情移入している自分に気付きます。
 
この後は、元軍人が植物人間になった元妻の元に辿り着きその最後を看取るとか、シミュラントと一緒に天空の要塞に取り付いて破壊を試みるとか、アクション満載のエンタテインメント。ここでは、米国人が機械を機械として無慈悲に消費していくのに対して、ニューアジア人がAIを戦友として対等に扱う対比が描かれています。徹底していますね。
 
そして締めくくりは、無敵と見えた要塞の崩壊。それをもたらした男と、元妻のシミュラントとの最後の出会いはまるでローグ・ワンじゃないかと思ったら監督同じ人でした。
 
今回、二人の最後は彼らのかけがえのない子供たちを守るためという点が新しく、ローグ・ワンのときより深みが増しています。ただやっぱりそれ以上に、そこには惹かれ合う二人の魂が描かれていて、この監督の至上の価値観がその辺りにあるのかと思わせます。
 
 
ということで、細かいことに目をつぶれば、最高に楽しめるSFエンタテイメント作品でした。

 

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2023.10.14

「毒」

https://www.netflix.com/title/81711973
 
ロアルド・ダールという人の小説を原作としたウェス・アンダーソン短編映画4部作というのがあるそうで、そのうちの1本。どの作品もきっかり17分、というところが、まるで本棚に並んだ同じサイズのシリーズ本のようで、既にアンダーソンらしさが出ている。
 
俳優に本を朗読させながらその中身を演技させるという、いかにもこの監督らしい手法で全編ができている。それ以外には特にない。
 
アンダーソンという映画監督は、ひょっとすると映像表現だけに生きる人で、お話の中身とかメッセージとかは、実は二の次なのではないか、ということを、本作を観ていてほんのり思った。
 
ということで、どこから見てもウェス・アンダーソンの様式美を追求した作品でした。

 

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2023.10.08

「岸辺露伴ルーヴルへ行く」

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CGVX76SP/
 
amazonPrimeで
 
動かない岸辺露伴が動いた!とかつまらないことを言ってみても仕方がない。前の何本かに比べると少しあっさりしているというか、一本調子な感じがした。それを隠すかのように、露伴の若かりし頃の秘密を話に織り込んではいるのだが、うまく機能したのかどうか。。
ただ、露伴の祖母という人物がほんの短いショットで出てきて、その曲者ぶりはよかった。そして結末で明かされる謎の女性と岸辺家とのつながりも悪くない。
 
まあ、1.5倍速で見るくらいでちょうどいい感じでした。

 

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