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September 2023

2023.09.25

「ロスト・キング 500年越しの運命」

https://culture-pub.jp/lostking/
 
これがほぼ実話というのがすごい。
 
論理的に突き詰めていけば、それしか結論はないと見えるのに、現状の一般認識からかけ離れていたり、これまでの学説や一般常識と合わない場合に、アカデミズムがどんな姿勢を取るかがよく見える構成になっている。
 
学者も人の子。論理的帰結に従って金をかけて検証してみた結果が違っていたら地位も名誉も失うとなれば、保守的な常識で論理を封じ込んでしまうのは仕方がない。理系学問であればそうでもないが、歴史学となると実態は派閥争いのようなものだろうから尚更だ。
 
そんな人々の無理解にも関わらず、直感を信じて行動し誰も成し得なかった発見にたどり着いたのが、市井のいち主婦だったというのが、本当にすごい。
 
また、それを後押しした市当局の論理が、市の宣伝になるから、というのが痺れる。真偽の定まっていないロマンに対してリスクを取りに行くマインドが役人とは思えない。まあ、資金集めは人任せで損はしないという計算ではあるけれど。
 
そして、クラウドファンディングによる資金集めというのがまた今の時代を感じさせてよい。リチャードⅢ世のファンが古くから大勢いたことも大きな力になった。
 
様々なエピソードが盛り込まれていて、飽きずに最後まで見られました。

 

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2023.09.24

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」

http://johnwick.jp/
 
いや本当に3時間ぶっ通しのアクションだったらちょっと辛いなと思ったら、案外静かな幕間もあって、登場人物たちの心の中をちら見せしてていいんじゃないでしょうか。
 
そうはいってもやっぱりアクションてんこ盛りで大盛り上がりです。最初の舞台となる大阪で、コンチネンタルの主が「できるだけたくさん殺してってくれ」と笑い混じりに言うところが、お祭り開始の合図です。この台詞のお祭り気分な空気を、真田広之はすごく上手く発声して表現してくれました。こういうディテールに神は宿りますね。
 
そこからはもう殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくる爽快な展開。
 
二つ目の舞台ベルリンでは、クラブの太っちょオーナーが殺しても殺しても殺しても殺しても死なないやつで、強烈な印象を与えます。まあ最後はやられちゃうんだけど。これを演じているスコット・アドキンスさん、検索すると普段は均整の取れた筋肉隆々のスタントマンなのに本作でのデブつよ汗っかきの怪演は記憶に残りますね。北斗の拳のハート様みたいな。こういうのをまた見たいです。
 
そして三つ目のパリ。最後の大舞台にふさわしい狂乱です。車と人が乱舞するこんなアクションは見たことがありません。特殊な銃弾を使った派手な銃撃戦も惜しげもなく展開されてそれを俯瞰して見せるのも新しい。すごいです。
それにしてもスタントはたいへんだったろうな。
 
そして最後は、敵にすら敬意を抱かせる主人公の人徳?がじんわりくる階段の攻防で悪役集団の番頭を倒して決着の舞台に到着。古風な決闘で締めくくり。どう収めるのかと思ったらたいへん満足のいく終わり方で溜飲を下げてくれます。
 
派手に畳みかけてくるアクションの陰で、結構ドラマもあったのがまたよいです。トラッカーという一風変わったキャラクタが隠し味としてよく効いています。彼のエピソードを挿入したことで、主席連合というものがどのように成立しているのか、その原理を垣間見ることができました。シマズやケインのような友ではなく客観的な第三者の視点から主人公の人となりを浮き上がらせるのに一役買っています。そしてなにより、シマズやケインのようないわゆる陳腐な役回りとは異なるものを使って、物語に厚味を持たせることに成功しています。
 
というわけで、たいへん満足のいく仕上がりでした。
 
そうそう、最後に侯爵が余計な行動をとらなければ、という思いが頭をかすめたのは否定しません。彼は決闘の前日に、ジョンウィックは撃たないだろうと言って彼の人がましい弱点を見抜いていたわけですから。せっかく透徹した眼力を持ちながら、最後に傲慢さを抑えきれずに身を滅ぼしたのは、これも彼の宿命とでも言えばいいのでしょうか。
 
かくして、それぞれが相応の報いを受けて、壮絶なシリーズは終幕となりました。面白かったですねえ。
 
それで、この終わり方ですが、キアヌ・リーブスという俳優の過去の悲劇を知ると更に味わいが深くなること請け合いです。現実と虚構、二重のドラマになっていますね。

 

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2023.09.18

「ミステリと言う勿れ」

https://not-mystery-movie.jp/
 
漫画が原作らしい。探偵役がひたすらじゃべくりまくるそうだけど映画でもその片鱗が伺える。
 
話の展開がそれなりに面白い。最初、主役の女の子の演技があまりにクサいのでああ邦画だなあと思っていたら、それは実は(作中においての)演技でそこからこの話が本筋へと導かれるというトリッキーな展開。やられましたね。
 
そう思って見ると主役の女の子の演技が上手く見えてくるかと言うと決してそんなことはなく、やっぱり下手である。まあでも周囲のベテラン達が暖かく見守っているので救われた感じはある。
 
なによりこれは設定が興味深い。物語中盤で鬼伝説が語られてその全体像が見えてくるのだが、この伝説がなかなか真実味がある。鬼というのは比喩的な表現で、あの活気と混沌に満ちた時代にそういうことが実際にあったとしても驚かないようなものになっている。
 
そしてもうひとつ。伝説が教える伝統を墨守しようとする老人たちとその家系の若者がいて背筋が寒くなる一方で、鬼の血筋の子孫たちがそうした悪しき伝統は自分たちの代で終わらせるという意志を持って果敢に行動していることが、閉塞感の強い今の世の中に示唆を与えているのがよい。
 
願わくは、本作の製作者であるマスコミグループが、日頃の報道においても同様の姿勢を見せてほしいものだが、こちらの方はさて・・期待しておきたいとだけ書いておきますか。それと1点付け加えると、この画のテレビ臭さというかやぼったさはもうちょっとなんとかならないかといつも思う。
 
 
それからそうそう、犯人はほぼ最初からセオリーどおりで怪しい奴が結局真犯人だったけど、一時、松坂慶子演じる使用人のおばさんも怪しいかもと思ってしまいました。ありませんでしたね。すみません。松坂慶子にそんなケチな役をやらせるはずがありませんでした。お詫びして反省したいと思います。
 
でも松坂慶子が善人の仮面を被った大悪人っていう展開もどこかで見たい気がするんよねえ・・松たか子を超えるような極悪人役。ブランドを考えると無理なんだろうけど見たいなあ。

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2023.09.11

「カンフー・パンダ: 龍の戦士たち シーズン3」

https://www.netflix.com/title/81227574

シーズン3全19話。NETFLIXで。

前シリーズでは、天山の武器4つを首尾よく集め、それを破壊すべくイングランドへの航海に乗り出したのだった。本シリーズはその続き。途中少し寄り道はあったものの目的地に到着して、イタチの魔法使いとの闘いかと思いきや、想像もしなかった意外な敵が折り重なるように現れてまたしても大冒険。全19話という長さが全く退屈せずに見られる盛りだくさんなエンタテイメントです。素晴らしい。

この「竜の戦士たち」は中国から飛び出して世界中を旅する設定で、ストーリーがダイナミックで面白い。異国の地で仲間になったキャラクタも特徴的で、彼らの背景描写であるサブストーリーもそれぞれ面白く話に広がりがある。それでいて、ポーとルテーラの名コンビが話の主軸をしっかり押さえていて散漫にはなっていない。
このルテーラの存在が本シーズンの最大の成功要因だと思います。

加えて鍵になるアイテムが巻物とかではなく魔法の武器なので、それを使ったバトルシーンも超派手で見応えがある。私はやっぱりガントレットが一番好きかな。次がヘルム。

というわけで、すごく楽しめます。まあ、私の精神年齢にちょうど合っているということかもしれませんが。

次のシーズン4はなんと、ポーが大都会に出てくる設定らしくて、またまた期待が持てます。末永く続いてほしいですね。

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2023.09.04

「ONE PIECE 実写版」

https://www.netflix.com/title/80217863

NETFLIX 全8話

原作漫画やアニメは見たことがない。映画版を1本だけ見たけれど、あまりにお子様向けの展開であまり面白いとは思わなかった。

ところがところが。本作はかなりの力作だ。
無理が無く、筋が良く、心の琴線に触れるところがある。

アニメのハリウッド実写化は失敗が多いようだけれど、この作品にはそれには当たらない。それどころか、出来の悪いテレビドラマに比べて、はるかに優れていて面白い。

うまくいった理由は、端的にここに書かれているのでご覧あれ。
https://jp.ign.com/one-piece-live-action/70224/news/netflixone-piecesbs

ともあれ、これでハリウッド実写化のコツが作り手たちに広く共有されて、日本の漫画・アニメコンテンツが世界に進出して行ってくれることを祈らずにはおれませんわ。

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2023.09.03

「アステロイド・シティ」

https://asteroidcity-movie.com/

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」が、アメリカから見た憧れのヨーロッパって実はこんな感じ、という作品だったとすれば、本作は、そこに住んでいる目から見るとアメリカっていまこんな感じ、という作品なのではないかと思いました。

「フレンチ・ディスパッチ~」が、雑誌という媒体にヨーロッパの断片を切り取って張り付けた形式を取っていたのに対して、本作は、演劇という媒体を使った米国のコラージュの形式を取っています。

米国のイメージとして他国の我々にもお馴染みの様々なイメージ、砂漠とサボテンの西部、資源を運ぶ長大な列車、農業大国と自動車王国と核ミサイルの同居、UFO、ショービジネス、福音派とキリストを信じない子どもたち、小数の科学の天才たちが牽引するフロンティア、警察と犯罪者のカーチェイス、などなどなどが戯画化され、演劇のひと場として詰め込まれています。その裏側では、劇作家と主役俳優を取り巻く人間模様がモノクロで挟み込まれて行きます。

この2本立ての進行は交わらずに続いていくのですが、最後に、劇中劇の主人公がセットから抜け出して脚本家に抗議にいくことでその境界が破られます。主演俳優は、自分が演じているものの意味がわからないと言い、劇作家は、それでいい、あなたは正しく演じていると答えます。そして主演俳優は、息抜きに出たバルコニーで、劇中には出番のなかった彼の妻役の俳優と出会い、言葉を交わします。

この場面には生身の人間の実感が籠っており、本作の他の部分が生の感情を出さない蝋人形のような体裁をとっていることと、鮮やかな対比を成していて、奇妙な感慨を呼び起こします。おそらく本作は、この場面を際立たせるために、ここまで手の込んだ機械仕掛けのドタバタを延々と見せてきたのではないか。ではこの場面が意味するものは何でしょうか。

妻の死。その悲しみが本作には随所に埋め込まれています。故意に無表情な描き方をしているので気づきにくいけれど、そこには深い悲しみがあるはずです。それが最後のこの場面で突然浮上して、観る者の心を揺さぶるようにも見えます。

あるいは、人の目に触れずに役割を果たして報われることなく消えていったものへの哀愁もあるかもしれません。直接的な受け止め方ですが。

更には、歴史の転換点に立っているアメリカは、この先どうなっていくのだろうかという不安もありそうだといったら、さすがに穿ち過ぎでしょうか。米国社会のコラージュを使っているので、そう読み取れなくもない気もします。

いずれにせよ、この最後のパートで、見る側は、何重にも折り重なったイメージが同時に着床する不思議な気分に囚われます。そして、エンディングの歌がまた意味深です。

"You Can't Wake Up If You Don't Fall Asleep"
歌詞はこのサイトにありました。
https://www.azlyrics.com/lyrics/jarviscocker/youcantwakeupifyoudontfallasleep.html

目覚めるために、まず眠れ。とでも訳しますか。

伸びんとすればまず縮めという諺を思い出してしまいます。
どう受け止めるかは人それぞれだと思います。

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