「君は行く先を知らない」
https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/
これは少し解説がないと、私のような普通の日本人には最後までわからない。
旅人というのは国外脱出者のことだ。場所はイラン。経済制裁の影響と宗教右派の支配のもとで国内に希望を見出せない家族が、せめて長男だけでも国外に逃がそうというお話。
王政時代には西洋文明を受け入れ繁栄していた名残が、家族のやり取りの中に仄かに感じられる。それが陽気なものであればあるほど、背景を知ったあとでは、現実の悲哀と裏腹だとわかって衝撃を受ける。まだかわいい盛りの次男坊が、ごく自然に大地にくちづけする礼拝をするたびに、昔の繁栄を知る母親が苛立つのも理解できる。
この少年が、宗教かぶれなのではなく、心の底から大地の恵みに感謝する気持ちを持ち合わせているように見えるので、単純にカルト批判のようなことは言えない。こういう生き方も確かにあるのだろうと思ってしまう。西洋のヒーロー映画の主人公への崇拝と、宗教的な敬虔とが全く矛盾せずに、小さく利発な子の中に同居している。
おそらくこの子も、成長するにつれて、兄や父母と同じように、宗教が支配する国の実情に幻滅を覚えるようになるのだろう。それともどうだろうか。純粋さを持ち合わせたまま、新しい世代を作っていくのだろうか。
折しも、イランという国は、宗派の違いからこれまで敵対してきたサウジアラビアと共にBRICsに加盟した。経済も政治もこれから大きく変わっていくかもしれない。
待ち切れずに国外へ逃れた兄と、父母の元に残った幼い弟と、それぞれにどんな明暗が訪れるのか、誰にも分らない。
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