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August 2023

2023.08.27

「君は行く先を知らない」

https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/

これは少し解説がないと、私のような普通の日本人には最後までわからない。

旅人というのは国外脱出者のことだ。場所はイラン。経済制裁の影響と宗教右派の支配のもとで国内に希望を見出せない家族が、せめて長男だけでも国外に逃がそうというお話。

王政時代には西洋文明を受け入れ繁栄していた名残が、家族のやり取りの中に仄かに感じられる。それが陽気なものであればあるほど、背景を知ったあとでは、現実の悲哀と裏腹だとわかって衝撃を受ける。まだかわいい盛りの次男坊が、ごく自然に大地にくちづけする礼拝をするたびに、昔の繁栄を知る母親が苛立つのも理解できる。

この少年が、宗教かぶれなのではなく、心の底から大地の恵みに感謝する気持ちを持ち合わせているように見えるので、単純にカルト批判のようなことは言えない。こういう生き方も確かにあるのだろうと思ってしまう。西洋のヒーロー映画の主人公への崇拝と、宗教的な敬虔とが全く矛盾せずに、小さく利発な子の中に同居している。

おそらくこの子も、成長するにつれて、兄や父母と同じように、宗教が支配する国の実情に幻滅を覚えるようになるのだろう。それともどうだろうか。純粋さを持ち合わせたまま、新しい世代を作っていくのだろうか。

折しも、イランという国は、宗派の違いからこれまで敵対してきたサウジアラビアと共にBRICsに加盟した。経済も政治もこれから大きく変わっていくかもしれない。

待ち切れずに国外へ逃れた兄と、父母の元に残った幼い弟と、それぞれにどんな明暗が訪れるのか、誰にも分らない。

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2023.08.20

「SAND LAND(サンドランド)」

https://sandland.jp/

原作は漫画らしい。知らなかった。wikipediaを見ると、短期連載だったようだから、ちょっとした小品なのだろう。

鳥山明の素の作風そのまんまが映画になったみたいで好感は持てます。あられちゃんとかああいう感じで、そこからはちゃめちゃ感とエッチ感は押さえて、真面目に子ども向けに作ってある。実際、子連れの客も多かった。

悪魔の王子とお付きのような老悪魔は助っ人の立ち位置で、一徹な感じの人間の年寄りが主人公。そう、なんと主人公は年寄りです。思い切ったな。でも正解のような気がする。

過去の未熟を悔いて正義を貫こうとするこの主人公の、水を求める探索の旅を描きながら、現代社会への批判も多々取り入れて、今風映画のスタンダードに沿っている。

あまりにスタンダードでアクがない分、むしろ物足りない気もする。例えば主人公の妻の話は、もうちょっとだけ引っ掛かりを作っておけば深みが出るところ、あっさりと昔語りだけで済ませているようなところがそう。おそらく、そういう深い話は子ども向けのコンセプトには合わないということで削っているのだろう。なので、大人が見ると少し食いつきが足りない感じになる。

名作の要素は全て揃っているのに、名作というほど記憶に残らないという、あの感じ。いい作品というのは、言葉にならない想いが込められているものだが、本作はすべて言葉で説明している。そういった仕上がりになった。

とはいえ、この悪魔二人のキャラはなかなかいい。次はもう少し拘りをもった大人向けの作りにしてくれると嬉しいが、たぶんそういうのは他でやるんだろうな。

まあ、時間があるなら見ても悪くはない、くらいの作品でした。

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2023.08.13

「マイ・エレメント」

https://www.disney.co.jp/movie/my-element

最高に感動する素晴らしい作品。
この作品は単に見た目が面白いだけでなく、品格が備わっている。

いっとき敬遠気味だったPIXER映画だが、見てみるとやっぱり良い。ストーリーはほぼ定番だから批評筋には受けないのかもしれないが、むしろ定番の良いところを巧みに組み合わせて、文字通り筋の良いお話を作っている。

その土台の上に設定の奇抜さを載せてビジュアルで魅せるという、アニメーションスタジオとして一番力を出せるコンセプトに忠実に従っている。揺るぎない幹と目にも彩な花実。そうして出来上がった作品が、面白く、美しく、感動を呼ばないわけがない。

本作は、火、水、土、風のエレメント達が暮らす街のディテールを想像力豊かに描き出していて、その驚きのアイデアの数々がまず楽しい。よくまあ次から次へと思いつくものだと感心を通り越して感動を呼び起こす。それぞれのエレメントの特質をよく捉えたうえで考え出されているのでストレスがない。観る側のイマジネーションを最高に刺激してくれる。

そして、それらディテールの豊かさが、ストーリーの本筋としっかり噛み合って、山あり谷あり愛と涙ありの素晴らしい作品として立ち現れてくる。

* * *

故郷の災禍から逃れるようにこの町へやってきた移民家族の艱難辛苦を背景にしながら、逞しさ、優しさ、希望、寛容、互いへの思いやりと自己実現の希求、葛藤とその昇華、ありとあらゆるものが盛り込まれていながら十分吟味され然るべき位置を与えられている。
その締めくくり、娘の旅立ちに際して父娘が交わす伝統の礼に込められた万感の想い。最高じゃないですか。

こういう良さは、想像だけれど、作り手たちの誠実さやひたむきさがそのまま作品に結実しているのではないかと思う。

繰り返しになるけれど、本作には品格がある。本年でも指折りの良作でした。

https://eiga.com/news/20230814/13/

 

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2023.08.12

「バービー」

https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

Googleで「バービー」を検索すると、検索結果リストの画面にキラキラ効果が出るという力の入れよう、ただものではありません。

こどもに夢を売るのが人形というものですが、それが見せる夢の形が進歩的な価値観に縛られ過ぎていることを疑問視して、むしろ大多数の平凡な人々の平凡な幸福を「定番」バービーに体現してもらうというお話に見えました。

結婚して子供を産むのが女の幸せという昔の幸福の形に、一周して戻ってきたと言ってもいいのかもしれません。もちろん、昔と違って、それ「だけ」が選択肢ではないという意図は十分に盛り込みつつ。

加えて男の側にも、闘争と支配のマッチョ指向から卒業して、次の次元に移れと言っているようでもありますが、それが何なのかはよく読み取れません。まあバービーは女の世界の話なので、男は付け足しになるのは致し方ないという割り切りでしょうか。

直感的に今という時代の流れを感じ取るという姿勢が、本作の見方としてはいいのかもしれません。

それにしてもこのデザイン、ド派手というかキッチュというか。眩暈がしました。

その割に、夢から醒めて現実を見ろ的なことを言うんですよね。日本だったら「シン・エヴァンゲリオン」ですが、米国だとザック・スナイダー版「ジャスティスリーグ」てことになるんでしょか。さりげなくdisられてましたw

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2023.08.11

「ハート・オブ・ストーン」

https://www.netflix.com/title/81416533

NETFLIX

ガル・ガドットさん立ち姿がほんとかっこいい。いつもスパイアクション映画みたいなのばっかりで、もっとこうラブロマンスとか出ないのかなあ。来年はスノー・ホワイトって聞いて期待してたら女王役だとかでがっかり。むしろはまり過ぎてこわいわ。

というくらいに、俳優の名前だけで客を呼べるガドットさん、本作でも遺憾なく存在感を発揮してくれてます。他の出演者は全て彼女の引き立て役にすぎないというくらいのスターっぷりはトム・クルーズと双璧と言ってよいでしょう。

映画の内容はというと今回は割とあっさりしていて淀みなく山谷あって巧みです。あーつまりとてもよく出来ていて記憶に残らないくらい。でも最近はちょっとそういうのがいいのかもしれないなと思ったりもします。その中で自分にヒットするポイントだけ掴めばいい。

本作にも流行のAIが出てくるのですが、AI自体にはさほどの意味もなくて、人間集団どうしの闘争を描くためのトロフィーです。一点、ちょっと良かったのは、確率だけで出力を出すのなら形成逆転はない。それをやれるのは人間だけ。という考え方があったことです。だいたい世の中の認識はそのあたりに着地しつつあるということなんでしょうか。

てことで、映画館でなくて配信でも十分楽しめる作品でした。

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2023.08.06

「アンデッドガール・マーダーファルス」

https://undeadgirl.jp/

NETFLIXで。1~4話

ファルスって「笑劇」という意味なんだ、ということは知らなかったけど、この作品は笑劇というか、むしろ駄洒落劇なんじゃないかと思った。それをわざわざファルスなどと気取った言い方をするところに、作品の端々に現れる西洋礼讃な感じがよく出ている。その舶来指向の上に、不死と鬼という本邦の皮を被せて、古臭い和魂洋才な感じを出している。

で、そういうところが割といいなと感じるわけだ。
もちろん、実際にそんな奴が身近にいたら鼻持ちならないわけだが、創作の中であればむしろそれが輝くことになる。

とはいっても、そうとうやり過ぎだ。お馴染み過ぎて陳腐さすら感じさせるヴァンパイアとかホームズとかルパンとかオペラ座の怪人とかモリアーティとか、もうごった煮状態。そのご都合主義あふれるカオスの中に、どんな怪物の再生能力をも阻害する力を持つという設定の鬼の血を持つ東洋人を投げ込んで暴れ回らせる。

あざとすぎます。

いかにもフジ系列らしい、芸術気取りの低俗な作品でした。でもたぶん次も見てしまいそうです。

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