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2023.07.17

「サントメール ある被告」

https://www.transformer.co.jp/m/saintomer/

予備知識なしで見に行ったので、前半はなんだかよくわからなかった。法廷劇なのだが、理屈が通らないやりとりが続くのだ。それでちょっと眠りかけてしまったくらい。論理をたたかわせる場である法廷に、論理ではないものが持ち込まれ、だれもそれに対処することができず困惑している。

ところが、呪術の影響だという被告の主張が出たあたりから目が覚めた。これはひょっとして凄い作品かもしれない。何が被告にそうさせたのか。彼女の背景と置かれた環境が徐々に明らかにされ、傍聴人を介してそれへの共感が示される。

途中、現代フランス社会が抱える人種差別、学歴差別、女性差別なども絡んで、静かな進行にも関わらず内容は阿鼻叫喚といった感じになってくる。

そして最後、物語を締めくくる弁護人の最終弁論で確信した。この作品は、人間(の女性)が太古から抱える生物の本能と、現代文明による際限の無い言語化論理化圧力との相克を描いているのだ。

まあそこまで力まなくても、最近しばしば耳にする母親の子殺しのニュースを見れば、何か身近なところに齟齬があり、それは昔から一定数あることなのだということはわかる。日本におけるこの現象は、ホスト狂いというわかりやすいストーリーでその闇を希釈されるようだけれど、表面上はそうであっても深い部分で納得が得られるわけでもない。本作のケースはフランスで、表面上は日本とは違う様相を呈している。が、本質は同じに思える。

上映後に登壇した監督の話の中で、アフリカ系の人々を主役・準主役にすることや、登場人物のポートレートを多用する絵画的な手法へのこだわりがあったけれど、これまであまり映像化されてこなかった、西洋化されていない黒人の表情が、呪術という言葉で表現されようとしている何かに、強い信憑性を与えている、たいへん印象的な作品でした。

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