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July 2023

2023.07.31

「ウィッチャー3 Vol2」

https://www.youtube.com/watch?v=aevqOSrvpuA

NETFLIX
シーズン3全8話中の6~8話

前回の公開で5話まできた続きです。シリを狙う勢力がアレツザに殺到して、守る側との間で派手に魔法合戦をやらかした結果、炎の中で学院が崩壊していくのが1つめの山場。エルフの棟梁も学院の魔法使いも持てる力を解き放ってなかなかよかったです。炎の魔法と雷撃の魔法、禁断の術が2つも飛び出して視覚的には大満足。でもまあその代償は支払われなければならないわけで、物語は重要なキャラを2枚も失うことになります。
この物語のいいところは、力の行使に必ず代償をセットにしているところ。そのおかげで話が引き締まります。

さて、もうひとつの山場は、なんとゲラルトの完膚なきまでの敗北。無敵と思っていた主人公が、詐術も人質もないシンプルな勝負において、単なる力の差で負けるという驚愕の展開です。よいですねー。それでこそのドラマですよ。

そしてシリはといえば、遠い砂漠へ飛ばされて死の淵を彷徨いながら自分の宿命を突き付けられ、受け容れられずに自分から力を放棄してしまいます。

瀕死のゲラルト、力を喪ったシリ、アレツザの立て直しを決意するイェネファー、それぞれが自分の道を歩きながら、再開を胸に秘めて次のシーズンへと続きます。

この作品はゲラルトの殺陣が超かっこいいわけですが、8話に続いて流れる製作秘話で、それを生み出す秘密が紹介されています。なんと、カメラマンも俳優と一緒に殺陣の一部として動きまわるそうです。俳優の振り付けとカメラワークが動的に一体化して、あのすごい動きが生まれているのですね。

次のシーズンがいつになるのかわかりませんが、早く続きを見たいです。

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2023.07.24

「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」

https://missionimpossible.jp/

 

お人形さんのように美しいレベッカ・ファーガソンを見に行ったつもりがなんか濃ゆい女たちを次々見せられましたよ。騙されました。

でもまあスピード感溢れる切れのいいアクション映画でよかったです。

 

冒頭でトムクルーズが休暇でロッククライミングしてたのは何作目だったか忘れましたが、そうしたタフで太陽のように明るく強い男というのがこのシリーズのイメージでした。これまでは。

でも本作は最初にアクションではなく老練な影の男の描写を持って来て我々オールドファンのハートを掴みに来ます。うまいですね。顧客層の加齢にきちんと対応しています。

今回の敵はつかみどころのない暴走AIで、その設定自体はもはやありふれたものですが、本作で刮目すべきはその位置づけです。AIはあまり表に出てこない。超然とした存在として描かれていて、その争奪に参加する人間どうしの闘いを中心に描いています。なので、作り手はこれまでの蓄積を素直に生かすことができているように感じられます。それが、目一杯面白い本作のウリになっています。

 

PartOneはこれで旨く行きましたが、次は当然ながらAI本体との闘いになるはずです。そのとき、どんな緊張感あふれる闘争を描くことができるのか。宿題が残った感じです。

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2023.07.17

「サントメール ある被告」

https://www.transformer.co.jp/m/saintomer/

予備知識なしで見に行ったので、前半はなんだかよくわからなかった。法廷劇なのだが、理屈が通らないやりとりが続くのだ。それでちょっと眠りかけてしまったくらい。論理をたたかわせる場である法廷に、論理ではないものが持ち込まれ、だれもそれに対処することができず困惑している。

ところが、呪術の影響だという被告の主張が出たあたりから目が覚めた。これはひょっとして凄い作品かもしれない。何が被告にそうさせたのか。彼女の背景と置かれた環境が徐々に明らかにされ、傍聴人を介してそれへの共感が示される。

途中、現代フランス社会が抱える人種差別、学歴差別、女性差別なども絡んで、静かな進行にも関わらず内容は阿鼻叫喚といった感じになってくる。

そして最後、物語を締めくくる弁護人の最終弁論で確信した。この作品は、人間(の女性)が太古から抱える生物の本能と、現代文明による際限の無い言語化論理化圧力との相克を描いているのだ。

まあそこまで力まなくても、最近しばしば耳にする母親の子殺しのニュースを見れば、何か身近なところに齟齬があり、それは昔から一定数あることなのだということはわかる。日本におけるこの現象は、ホスト狂いというわかりやすいストーリーでその闇を希釈されるようだけれど、表面上はそうであっても深い部分で納得が得られるわけでもない。本作のケースはフランスで、表面上は日本とは違う様相を呈している。が、本質は同じに思える。

上映後に登壇した監督の話の中で、アフリカ系の人々を主役・準主役にすることや、登場人物のポートレートを多用する絵画的な手法へのこだわりがあったけれど、これまであまり映像化されてこなかった、西洋化されていない黒人の表情が、呪術という言葉で表現されようとしている何かに、強い信憑性を与えている、たいへん印象的な作品でした。

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2023.07.16

「君たちはどう生きるか」

https://eiga.com/movie/98573/

文明という石に色はないが、用いる人によっては悪意に染まる。君はどうするか。
まあそんなところか。

大叔父様が必死にバランスをとってきたものとは「戦後日本」だったろうなと思った 。

それ以上言うべきこともない極めてシンプルな問いかけを秘めながら、作り手の理想とする生き方のディテールをイマジネーション豊かに、時には真摯に、時にはコミカルに、変幻自在に描く。解釈は見る側の自由とでも言いたげだ。

激したところはなく、老境の作り手が獲得した淡々とした心境の反映にも見える。(もっと怒れw)

ひとつだけ、この作り手の主張がはっきりしているところがある。生命の禁忌に触れるべからず、ということだ。そこだけは、見る側の自由を制限している。遺伝子操作とか人工知能とか、ほんの最近開花しつつある一連の技術は、年寄りには極めて危ういものに見えるのだろう。そこはよくわかる。

とはいえ、この先どうするかは若い人たちに託したいという願いも込められている。いるものの、作中の若者はその申し出を拒絶し現実世界に還ってくる。そこで作品世界は閉じられ、問いかけだけが記憶として残る。

不思議の国のアリスのような幻想でもあり、崖の上のポニョのように死の匂いが色濃くもあり、なかなかよい作品でした。

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2023.07.15

「ヴァチカンのエクソシスト」

https://www.vatican-exorcist.jp/

エクソシストものを見るのは十年ぶりくらいだろうか。前に見たのは「The Rite」。心に残る美しい映画だった。

本作は、仕上がりはわりとあっさりしていて、脂汗も書かないし心臓がばくばくしたりもしない。この種のものでゲテモノ指向のは、どんでんがえしが何度もあったり味方が敵になったり一件落着と思った後に最後の惨劇が幕を開けたりと見ている方の体力を削りに来るのだけど、そういうエグさはない。

ここで語られているのは、悪魔に立ち向かう人間臭い神父が、過去に犯した罪の意識を克服する物語だ。若い司祭と二人、地下の遺構で闘いの小休止の間に行う告解で、その罪を述懐する。神の赦しという考え方を、我々非キリスト教徒にもわかりやすく見せてくれる。

こういう話はとてもよい。十年前の「The Rite」で、悪魔に圧倒されかけた神父見習いを救ったのは、彼が子どもの頃に感じていた母の愛の深さだった。闇の中でただひとつ輝くようなその映像のシーンは鮮明に覚えている。

本作はそれとは違って、中年おやじの若い頃の失敗と、それで死なせてしまった女性への申し訳なさでむんむんしていて、美しくもなんともないのだが、そういうものの中にある真実味を感じられるようになったのは、順調に歳をとってきた表れだろうか。憮然とするしかない(笑

あとは、本作には少し夾雑物が多いのが欠点といえばそう。思わせぶりな拷問器具とかは結局意味がなかったり。

ただ、中世の異端審問というむごたらしい人権蹂躙の歴史を、悪魔に憑依された聖職者の仕業にしていたのは、発想としては面白いか・・ちょっと責任逃れのようでもあるけれど。神は赦したもう。

最後に、事件を解決してヴァチカンに戻ってきた主人公の前で、法皇猊下がにやーっと笑って悪魔に憑かれたことがわかってしまうというどんでんがえしの結末をちょっと期待したのは、「The Rite」の結末の悪影響だろうか(爆

 

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2023.07.09

「Pearl パール」

https://eiga.com/movie/97924/

「X」というホラー作品の前日譚だそう。そして実は3部作の構想のもとに送り出された2本目だとか。

見始めると、これは前作を見ておけばもっと楽しめる映画なんだろうなという感覚に囚われる。カットの端々に前作を思い出させる雰囲気のものが映り込むのだが、前を知らないのでその意味を十分読み取れない。

そういうもどかしさはあるものの、本作はホラー映画の真髄、すなわち人というものの歯車が狂ってしまったときの恐怖をしっかり描き出していると思う。それでも前作に比べれば凡作だという評を見ると、どうにも1本目を見たくなる。

とはいえ、ホラーに対する世評というのは、失礼ながら血飛沫とか絶叫とか視界に不意にはいってくる気味悪いものとか、物理的なものに傾きがちだから、私の感覚とはずれているかもしれないとは思う。本作の怖さはそんなところには無い。

この作品の怖さは、主人公の女性が抱く不運な境遇への恨みに基づいている。その恨み自体は「理解できる」ものであるからこそ怖いのだ。同じ境遇でどうして自分や近親者がそうならないと言えるのか。

もちろん、この人物が生まれながらのサイコパスであることを初めに示してはいるから、誰でもそうなるわけではないという常識的な理屈は織り込み済みだ。しかし同時に、母親からの遺伝であることもそれとなく匂わせながら普通と異常の境界を曖昧にしているので、常識的な解釈で自分とは関係ないと言わせない。こうして手が込んだ理屈の罠を仕掛けて、普通であり得たはずのものが次第に普通でなくなる可能性を匂わせいく。「私って怖い?」という主人公の悲痛な問いかけは、普通に振る舞いたいのにそれができないこの女のどす黒い魂の悲鳴だ。これが怖くないわけがない。関わりたくないと誰もが思う。それをこの異常者は敏感に察知して怒りを昂らせていくという悪循環。存在自体が罠なのだ。あなおそろし。

もともとおかしかった主人公だが、不遇な環境でなければ、その異常性をここまで発現させずに無事に一生を終えることもできたのかもしれない。けれどもそうはならない必然もあった。

それを象徴的に表しているのが、姻戚が親切心で差し入れてくれた豚の丸焼きだ。他者からの援助を頑なに拒む母親の狭量がこの一家を蝕み腐らせていく過程を、玄関脇に放置され次第に蛆が湧き腐臭を放ち始める豚の料理で見事に表現している。このガジェットが、他の犠牲者がこの家にやってきたときに真っ先に異変を嗅ぎ取る手掛かりになっている仕掛けもにくいほど上手い。上手く隠したつもりでも本性は隠しきれない。

環境や状況に突き動かされながら、女は次第にその本性に覚醒していく。友人である義姉を前に不満をぶちまけ始めると、もう止まらない。長い一人語りを通して恐怖がじんわりと加速していく感じは、本作の最大の見せ場だ。あーこれはやばい、早く逃げろ、取り繕っているひまがあったら脱兎のごとく逃げろと思って見ていながら、結局これも逃げきれず惨殺されるまで見せられる。あー怖い。

この作品には驚きはない。ただひたすら、ある種の現実にあり得る恐怖を見せられる。なんという怖い作品でしょう。1と3も是非見たい。主演のミア・ゴスさん、巧みな表情の変化でサイコパスの心の変容を見せつけてくれました。すごいですね。

そうそう、ひとつ勉強になったことがある。この女殺人者の夫はいいところの御曹司で、彼女は彼をつかまえることで農場暮らしから脱出できると思ったのに、夫の方は彼女が忌み嫌った農場暮らしをこそ夢見て彼女と結婚したのだという、なんともやりきれないすれ違いもあった。これも彼女が抱える痛みのひとつなのだが、男目線からはそういうことは見えなかった。女のあまりにも自分中心な語りの中に、一片の真実を見た気がします。

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「Fate/Apocrypha」

https://fate-apocrypha.com/

ときどき中二病を発症して見たくなるのがこのシリーズ。独特の哲学めかした会話の内容に加えて、大仰な台詞回しと大立ち回りが、時代劇が廃れた今の時代に燦然とした輝きを放ちます。戦闘シーンのアニメーションも申し分なく、今回も期待に違わない内容でした。

おまけに本作では少し設定を捻ってあって、聖杯という絶対にして超絶的な存在がなんと実際に使用されるうえに、その使用方法を巡って敵味方すら判然としなくなる混沌の面白さがありました。

山場もいつもどおりいくつもいくつもいくつもあっておなか一杯。2シーズンという長めのフォーマットが遺憾なく効果を発揮しています。

そして締めはいつもどおり純愛でまとめて定型美が完成。毎度すばらしいですね。

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2023.07.02

「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」

https://www.disney.co.jp/movie/indianajones-dial

大音響のレイダース・マーチに乗せて、インディ・ジョーンズの空気感を正しく再現していたと思います。冒頭に、この物語の因縁の発端となる、若きジョーンズの無茶な冒険の回想をたっぷりと入れてきたのが大正解。ほぼ唯一の正解と言っていいでしょう。あれで本シリーズの感じを完全に思い出しました。予習の必要もありません。

加えて今作では、インディの後継者の資質を持った女性を登場させて、当初は知識豊富なだけで即物的だった彼女が、真の教養ある大人に成長する物語も絡ませて、文句のつけようのない物語に仕上げています。

インディ・ジョーンズの物語にはオーパーツが登場するのが常ですが、今回のそれは過去作のような魔術色を排して科学的な色彩を帯びた逸品で、これがまたよいです。

その超絶的な機能で、インディたちが導かれる世界、これがまた想像を超えていて、しかもジョーンズ博士の本業である考古学者の冥利に尽きるようなものになっているところなどは、鳥肌が立つほどの旨さを感じます。彼は本心から、その世界に留まりたかったのだろうなあと、深い感慨を覚えます。

おそらくハリソン・フォードが演じるインディの最後の作品になるであろう本作で、考古学者としてのジョーンズ博士の見果てぬ夢を実現してくれて、本当によかったと思います。やっぱりこの作り手は凄い。そう思わせるに十分な作品でした。

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