「聖なる証」
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本作には、背景として飢饉が出てくる。Wikipediaを見ると、19世紀に全ヨーロッパで発生したじゃがいも飢饉というものがあり、アイルランドの人口が激減するなど、その歴史に大きな爪痕を残したらしい。飢饉への対応も、地主であるブリテン島の貴族の強欲が災いして人災の色彩を帯びたという。
この作品が、それへの批判であるのかどうかはわからない。話の筋立てでは飢饉はあくまでも背景で、代わりに兄妹の不義が焦点として浮かび上がってくる。けれども、残された妹の断食が贖罪の意識からだとすれば、飢饉を人災に変えた罪を問う意識を突き付けていると言えなくもない。
作り手の意図は不明だが、この話は、飢饉の記憶と因習に沈む村の環境とを重ね合わせて、一人の無垢な少女とその家族が追い詰められる話になっている。
食べなくても生き続けている少女を聖跡と見做して、観察するだけで手助けしてはならないと繰り返し主張する委員会の面々、聖職者や医師や政治家などは、飢饉の最中に農民を見殺しにした地主たちの写し鑑のようだ。
彼らは、少女(=アイルランドの農民たち)が死に至ったのは聖なる行為の証であって、自分達には罪はないという形をつくり、免罪されたがっている。
イングランドからやってきた異邦人である看護師と新聞記者は、この少女を助けたい。だがそのためには、少女自身の自責の念が障害になる。そこで看護師が意を決して取った最後の手段が目から鱗だ。これはいわば、地主はじめ旧い社会を牛耳る人々からの洗脳を解除する方法を示してもいるだろう。
紆余曲折あったものの、異邦人の二人は最終的にはこの少女を引き取って生まれ変わらせることになるのだが、そのために住み慣れた地を離れ新天地を求める旅に出ることになる。この話はそれでおしまい。
古くなった社会や組織を変えることは、個人には重すぎる。それより、そこを離れて新天地で新しい社会を作るのがよい、そう言っているような作品でした。