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2023.06.05

「怪物」

https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/

はじめの方で、子どもの様子がおかしいことに気付いた母親が、誰にそんなひどいことを言われたのかと我が子に聞き糾す場面がある。それを見て、ああこれが発端だと思った。あとはほぼ想像通りの展開。

本作は、ほんの小さな行き違いや齟齬、誤解、思い込み、そうしたものが積み重なりつつ、点在する実際によろしくないものを巻き込みながら、大きなスキャンダルに発展していく様子を描いている。

これだけ多岐にわたる連鎖であればどこかで止まりそうなものだが止まらない。止まらない理由は「不信」の一言に尽きる。

もしこの母親が最初に、世の中にはいろいろ言う人がいるけれど、私はあなたを信頼していて、誰よりも大切に想っているとまっすぐ伝えていたら、この連鎖は起きないし、トラブルももっと小さな傷で収まったかもしれない。

校長はなぜ嘘をついたのか。世間は信じられないと思ったから。そしてそれには相応の根拠がある。マスコミにしろその煽りに乗る世間にしろ、およそろくでもないものだ。そうした不信が根底にあるから、嘘をつかざるを得ない。人を嘘に追い込む状況を作り出しているのは我々自身だ。つまり、それが怪物の正体だ。

我々はいつも自分自身が知らずに作り出しているこの怪物に怯えながら生きている。その怯えが判断を誤らせる。本作が浮き上がらせているのは、そういうことだろう。

物語の渦中の二人の少年が、そんな怪物に振り回されながらも、自分達の密やかな世界を堅持して、力強く叫びながら走っていく姿を最後に持ってきたことで、作品も見ている我々も大いに救われ、清々しい気持ちになる。その気持ちを、映画館の外でも忘れないようにしたい。

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