「ホンモノの気持ち」
https://www.netflix.com/title/80175806
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人工知能と人間との関わりについては、近年様々な作品が生まれている。取り上げられる人工知能も、クラウドから反応を返す知能だけの存在から、肉体を備えたものまで様々ある。また、知能といっても論理的な思考に特化したものから、人間と見紛うような感情を備えたものまで、千差万別だ。本作の公開は2018年というから、いまのAIブームが起きるより少し前になる。けれどもここに登場する女性型の人造人間(シンセ)は、今日のブームのはるか先を行く、肉体を備えたほぼ人間同等の人工物だ。
その彼女は、人間の男性に恋心を抱くようになる。まるで人魚姫をモチーフにしているかのよう。
童話の方は、王子が人魚姫を愛してくれれば魂を授かることができるという話だったが、本作もほぼ同じ。彼女を作った科学者の男が、人造人間である彼女を愛せるか、それを「越えられるか」と何度も問いかけてくる。いっとき、越えられたかに見えたが、人間の方にやはり微妙なわだかまりがあって越えられない。人間の男は涙を流せるが、人造人間の彼女はそれができないことで、両者の間に立ち塞がる壁が端的に示される。
失意の二人は別れ別れになり、自暴自棄に彷徨うのだが、あるとき女の方は、自分が作られた研究所に、自分と瓜二つの量産型が大勢いるのを見、試作品の自分は用済みでいずれ博物館に飾られることになることを知る。それでも、感情を獲得した彼女は稀有な存在として、停止(廃棄)だけは免れると聞かされる。
絶望した女は闇業者に自分の停止を依頼。自殺を試みるも死にきれず研究所に運び込まれ、そこで恋する男に再開する。死にかかっている彼女を見て、自分が何を喪おうとしているのか男はようやく気付く。その想いが伝わったのか、女はついに涙を流すことができる。
人造人間を材料にしながらも、この作品は、人間であるために何が必要かを順を追ってじっくりと描き出しているように見える。はじめに知性、感情、そして性愛、失意、自殺未遂まできて、最後に壁を乗り越えるものが嬉し涙というのは、あまりにもよく出来ている。加えてそれが、一方の側だけでなく、もう一方の側と共鳴することが不可欠だということまで示している。
風の精になった人魚姫が、初めて涙を流して不滅の魂を獲得する結末になぞらえた、美しくまとめられたロマンティックな良作でした。