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June 2023

2023.06.29

「ウィッチャー シーズン3」

https://www.netflix.com/browse?jbv=81294100
NETFLIX 全5話

公開日の夜に一気見しました。ドラマとしてはあまり評判はよくない気もするけど、世界観やキャラクタと俳優陣、それに殺陣がよいので十分楽しめます。ヘンリー・カヴィルの魅力が大きい。

それに加えてこのシーズンは、ゲラルト、イェネファー、シリが逃亡を続けながら疑似家族のようになっていく姿が描かれていて、剣と魔法の熾烈な戦いの中に穏やかな人間味を加えることに成功していると思います。前シーズンまでは、むしろ彼らの反目や齟齬が描かれる場面が多かった。

その疑似家族が、追手の厳しい追跡によって崩れ、別れ別れになりながらも、互いを想いながらそれぞれの目的に向かっていく語り口もよいです。シーズン1,2に比べて物語に多少まとまりが出てきました。

今シーズンはアクションよりも魔法学校アレツザを震源とする陰謀が中心で、こちらも割と好み。最終話で陰謀の首謀者を捕らえて寛いだ空気で終わるかと思いきや、些細な綻びから真の黒幕に気付き慌ただしく再始動するところで今シーズンは終わり。次が待たれます。

東欧の神話が元になったファンタジーということで、慣れ親しんだトールキン的世界観と少し違うものを、今回もたっぷり楽しめました。

 

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2023.06.26

「ホンモノの気持ち」

https://www.netflix.com/title/80175806

NETFLIX

人工知能と人間との関わりについては、近年様々な作品が生まれている。取り上げられる人工知能も、クラウドから反応を返す知能だけの存在から、肉体を備えたものまで様々ある。また、知能といっても論理的な思考に特化したものから、人間と見紛うような感情を備えたものまで、千差万別だ。本作の公開は2018年というから、いまのAIブームが起きるより少し前になる。けれどもここに登場する女性型の人造人間(シンセ)は、今日のブームのはるか先を行く、肉体を備えたほぼ人間同等の人工物だ。

その彼女は、人間の男性に恋心を抱くようになる。まるで人魚姫をモチーフにしているかのよう。

童話の方は、王子が人魚姫を愛してくれれば魂を授かることができるという話だったが、本作もほぼ同じ。彼女を作った科学者の男が、人造人間である彼女を愛せるか、それを「越えられるか」と何度も問いかけてくる。いっとき、越えられたかに見えたが、人間の方にやはり微妙なわだかまりがあって越えられない。人間の男は涙を流せるが、人造人間の彼女はそれができないことで、両者の間に立ち塞がる壁が端的に示される。

失意の二人は別れ別れになり、自暴自棄に彷徨うのだが、あるとき女の方は、自分が作られた研究所に、自分と瓜二つの量産型が大勢いるのを見、試作品の自分は用済みでいずれ博物館に飾られることになることを知る。それでも、感情を獲得した彼女は稀有な存在として、停止(廃棄)だけは免れると聞かされる。

絶望した女は闇業者に自分の停止を依頼。自殺を試みるも死にきれず研究所に運び込まれ、そこで恋する男に再開する。死にかかっている彼女を見て、自分が何を喪おうとしているのか男はようやく気付く。その想いが伝わったのか、女はついに涙を流すことができる。

人造人間を材料にしながらも、この作品は、人間であるために何が必要かを順を追ってじっくりと描き出しているように見える。はじめに知性、感情、そして性愛、失意、自殺未遂まできて、最後に壁を乗り越えるものが嬉し涙というのは、あまりにもよく出来ている。加えてそれが、一方の側だけでなく、もう一方の側と共鳴することが不可欠だということまで示している。

風の精になった人魚姫が、初めて涙を流して不滅の魂を獲得する結末になぞらえた、美しくまとめられたロマンティックな良作でした。

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2023.06.25

「探偵マーロウ」

https://marlowe-movie.com/#modal

リーアム・ニーソンは庶民派いけおじを演じる俳優として確固たる地位を築いていると思うけど、このところ娘の危機が行動の動機になっている作品ばかりであまり見る気がしなかった。

それを見透かすかのように本作は、一匹狼でストイックな本来のいけおじの役を振ってきた。見ないわけにはいかない。

出来は・・まあまあでしょか。

少し時代掛かった物言いが多くて、おまけに耳が悪くなったせいか台詞が聞き取りにくい。飲み物のブランドとかのつまらない拘りを教養と勘違いしていた時代のずれ感もある。粋な科白も時代を経るとまだるっこしく感じられる。前半で投入される要素が多すぎかつ背景が見えにく過ぎて閉口する。だめなところを挙げれば結構ある。

けれども、ポリコレまみれの今の時代にはない、善悪の微妙な判断基準がある。それが本作のような古い時代を描く作品の良さだろう。

悪を成敗する者は同様に悪に手を染めなければならない。そこをどう捌くか。形式的には同じ悪であっても、その動機、あるいは、悪を行う者の人間的魅力。そうしたものが判断の基準にある。

膿は出したという彼女の悪事を誰が裁けるというのか。主人公もその機微はよくわかっていて目をつぶった上で、仲間への誘いは丁重に断る矜持がある。渋いです。

年月を経ても人気が衰えない理由はそのあたりにありそうな、年代物の作品でした。

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2023.06.18

「天国大魔境」

https://tdm-anime.com/

シーズン1全8話

Desney+の公式Youtubeで無料公開中というので一気見してみた。
面白いじゃん。Desney+入るかなあ。。AppleTV+とどっちがいいのかしらん。

閑話休題。
破滅的な災害の後の世界に、ゆるめのキャラクタを置いて、謎解きのために歩き回らせる。ゆるめといってもそこは文明世界が破滅した後だから、それなりの辛い過去を引きずっている。まあありがちな話だけど、エピソードの味付け具合とか絵柄とかが割と好み。

主人公のひとりは途中でLGBTQだと明かされたりして、それがまた可愛い強くて憎めないとか、時流を押さえているし。主人公たちが強すぎるのは、まあお話を進めるために仕方がない。

教条主義で狂信的な団体とかも登場して風刺も効いている。一方で、旧文明の残渣がまだ活動していて、そこが謎の一方の極だ。

もう一方の極であるLGBTQ君がそこを目標に進んでいって、さあ何が起きるんだろうという期待を持たせて、このクールは終了。

次も機会があれば見たい。

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2023.06.17

「ビッグバグ」

https://www.netflix.com/title/81158472

NETFLIX

AIが統治するようになった世界で、人間らしい愚かしさや愛おしさをコミカルに描いた作品。111分という手ごろな長さで、暇潰しにはちょうどよい。

フランスの作品らしさがあちこちにあって、日本人としては少しくどいと思うところもあるけど、概ね定番路線といった感じ。統治機構の末端のロボットが、人間の面を付けているけど歯を剥き出しにして笑ったりするあたりが結構こわい。でも同時に、住人の話を聞いて法律を照会しながら妥当な判断を下す面もあって、おやおやという感じ。

トラブルがなければ、こうした機構は頼りになるのかもしれないが、融通の利かなさや、不寛容、そもそも旧時代の人間文化の抹消を旨とする主義など、やはり怖い存在であるには違いない。

家事をこなすアンドロイドたちが、人間の味方になるべく人間らしさとは何かを思索し実践しようとするところが笑える。彼らが人間らしさの本質と結論付けたのは「笑い」。なるほどそうかもしれない。

表向きの便利さに騙されて自己決定権を明け渡すと、とんでもないことになることを、コミカルに描いている。

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2023.06.16

「ザ・フラッシュ」

https://wwws.warnerbros.co.jp/flash/

ちょっと涙を誘ういいお話。
母ちゃん大好きだったバリー君、少し大人になったな。
知らなかったが、壁抜けもできたんだ。

多次元宇宙という新しい設定をどう料理するかは、ここしばらくヒーローものの一大テーマなんだろうけど、本作は比較的上手く対応していたんじゃないでしょうか。
カーラさんスタイル良くてぐっと来ました。いやそうじゃない。

母ちゃんもそうだけど、このところラテン系の進出が目覚ましくてよいですな。んで、そのラテン系二人どちらも救うことができなくて、悲しいけど過去を元に戻す決断をしたバリー君。えらい。んで結局アフリカ系の彼女ですか。。アメリカの人種問題は複雑よな。

そうは言っても過去を完全に元に戻さずちょっとだけ細工して還ってきたことで、バットマンもワンダーウーマンも別の人になってますけど、いいんでしょうか。

ジェームズ・ガンがトップになって、ちょうど役者が変わる噂もあるからいいんでしょかね。でもバットマンの役者は・・さすがに彼はないんじゃないの。

スピードと時間を制する者が最強と密かに思っているワタクシには、その能力の優越をたっぷり見られる嬉しい1本でした。

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2023.06.12

「聖なる証」

https://www.netflix.com/title/81426931

NETFLIX

本作には、背景として飢饉が出てくる。Wikipediaを見ると、19世紀に全ヨーロッパで発生したじゃがいも飢饉というものがあり、アイルランドの人口が激減するなど、その歴史に大きな爪痕を残したらしい。飢饉への対応も、地主であるブリテン島の貴族の強欲が災いして人災の色彩を帯びたという。

この作品が、それへの批判であるのかどうかはわからない。話の筋立てでは飢饉はあくまでも背景で、代わりに兄妹の不義が焦点として浮かび上がってくる。けれども、残された妹の断食が贖罪の意識からだとすれば、飢饉を人災に変えた罪を問う意識を突き付けていると言えなくもない。

作り手の意図は不明だが、この話は、飢饉の記憶と因習に沈む村の環境とを重ね合わせて、一人の無垢な少女とその家族が追い詰められる話になっている。

食べなくても生き続けている少女を聖跡と見做して、観察するだけで手助けしてはならないと繰り返し主張する委員会の面々、聖職者や医師や政治家などは、飢饉の最中に農民を見殺しにした地主たちの写し鑑のようだ。

彼らは、少女(=アイルランドの農民たち)が死に至ったのは聖なる行為の証であって、自分達には罪はないという形をつくり、免罪されたがっている。

イングランドからやってきた異邦人である看護師と新聞記者は、この少女を助けたい。だがそのためには、少女自身の自責の念が障害になる。そこで看護師が意を決して取った最後の手段が目から鱗だ。これはいわば、地主はじめ旧い社会を牛耳る人々からの洗脳を解除する方法を示してもいるだろう。

紆余曲折あったものの、異邦人の二人は最終的にはこの少女を引き取って生まれ変わらせることになるのだが、そのために住み慣れた地を離れ新天地を求める旅に出ることになる。この話はそれでおしまい。

古くなった社会や組織を変えることは、個人には重すぎる。それより、そこを離れて新天地で新しい社会を作るのがよい、そう言っているような作品でした。

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2023.06.11

「M3GAN/ミーガン」

https://m3gan.jp/

この種の映画は筋書きは決まっている。初めは人を喜ばせたり役に立ったりするために作られた人造人形が、当初の計画をはずれ、次第に自律性を持って、別の目的のために人を害するようになる、というものだ。

別の目的はたとえば、単純に人の隠れた害意を読み取って忠実に実行したり、人類は地球の敵のような環境過激派思想に染まったり、自己実現と自由を求めたりと様々だ。

本作の結構リアルで怖いところは、両親を喪ってふさぎ込んでいる子どもを慰めるため、その子を外敵から守ることを第一義としている点。純粋な善意なのだが、社会性がまだ備わっていない子どもの感覚を読み取って、忠実にそれだけをチタン製の強靭なボディで拡大実行していくのが怖い。いじめっ子に対してどう振る舞うかを見れば、そのおそろしさがわかる。

数年前なら、こうした作品は、ただの妄想として笑ってみていられたが、いまや真剣に見て考えなければならなくなった(笑。

途中からは人造人形の目的が自己防衛に移っていって、最後は primary user である保護対象の子ども自身に斃されるのだが、子どもの成長に伴って役割を終え捨てられていく玩具そのもので、少し可哀そうな気もする。

親を想うと哀しくなるけどミーガンといると楽しい、忘れられる、と言った子どもに向き合って、保護者である叔母が、
You should be sad.
と諭すところが、本作の白眉だ。

世界は必ずしも快適なことばかりではない。不快なことや辛いこともあって、それへの対処を学ぶのが成長ということなのだと、人間の物の見方を教えている。

複雑でやっかいな要素を盛り込みながら、人間の子どもの成長という線に落とし込んで、ほどよい感じに仕上がっていました。

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2023.06.05

「怪物」

https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/

はじめの方で、子どもの様子がおかしいことに気付いた母親が、誰にそんなひどいことを言われたのかと我が子に聞き糾す場面がある。それを見て、ああこれが発端だと思った。あとはほぼ想像通りの展開。

本作は、ほんの小さな行き違いや齟齬、誤解、思い込み、そうしたものが積み重なりつつ、点在する実際によろしくないものを巻き込みながら、大きなスキャンダルに発展していく様子を描いている。

これだけ多岐にわたる連鎖であればどこかで止まりそうなものだが止まらない。止まらない理由は「不信」の一言に尽きる。

もしこの母親が最初に、世の中にはいろいろ言う人がいるけれど、私はあなたを信頼していて、誰よりも大切に想っているとまっすぐ伝えていたら、この連鎖は起きないし、トラブルももっと小さな傷で収まったかもしれない。

校長はなぜ嘘をついたのか。世間は信じられないと思ったから。そしてそれには相応の根拠がある。マスコミにしろその煽りに乗る世間にしろ、およそろくでもないものだ。そうした不信が根底にあるから、嘘をつかざるを得ない。人を嘘に追い込む状況を作り出しているのは我々自身だ。つまり、それが怪物の正体だ。

我々はいつも自分自身が知らずに作り出しているこの怪物に怯えながら生きている。その怯えが判断を誤らせる。本作が浮き上がらせているのは、そういうことだろう。

物語の渦中の二人の少年が、そんな怪物に振り回されながらも、自分達の密やかな世界を堅持して、力強く叫びながら走っていく姿を最後に持ってきたことで、作品も見ている我々も大いに救われ、清々しい気持ちになる。その気持ちを、映画館の外でも忘れないようにしたい。

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2023.06.04

「ウーマン・トーキング 私たちの選択」

https://womentalking-movie.jp/#modal

もちろん、これは現代の寓話だ。いや、実話に基づいているし話の内容は女たちが正当な地位を獲得するための直接的な行動を描いているから、寓話と呼ぶのは不適切かもしれない。

にも関わらず寓話的な印象を強く受けるのは、この話が、権力や歪な制度から受ける理不尽な暴力と搾取に辟易している全ての人間に訴えかけるものがあるからだ。それを、少し前の時代を思わせる因習の軛に組み敷かれた女たちに投影して見せている。

映像はモノトーンで、登場人物たちの服装は古めかしく、乗り物も馬車に限っている。そうやって、昔語りのような静謐な空気を作ったうえで、いかにも不自然で場違いな自動車とけたたましいスピーカーを、2010年国勢調査という名目で短い時間だが突然投げ込んでくる。このことが、本作が昔あった実話ではなく、まさに現代社会で進行中のできごとのたとえであり、現代の寓話であることを端的に示しているように思う。

女たちの話し合いは二つの意見の対立に集約される。戦うか、逃げるか。何もせず受け入れる選択肢は少数派のものであり、早期に場からはずされる。

二通りの道を巡って、静かに熱く話し合いが続けられる。各々の意見も右に左に揺れながら、それでも戦うことには強い抵抗感があり、なによりそれは赦しを説いたキリストの教えに反することから、皆の意見は次第に逃げる方へと傾いていく。

それでも、子どもや夫、愛する者たちを置き去りにただ逃げだすことでいいのかという疑問は解消しない。おおよその流れは決まっているのだが、そこに納得感がない。

ここで、年長の年老いた女が知恵ある言葉を語る。それは彼女のものというよりは、聖歌の中に織り込まれ長い年月を経てきた人の知恵の粋だ。距離と時間を置くことは、狭量な我々が赦しに至るためのほぼ唯一の道なのだと、その歌は告げているかのようだ。逃げるのではなく距離を取る。いつか相手を赦せるように。

こうして、女たちは納得し、日の出とともに馬車を連ねて旅立っていく。その様子はまるで出エジプトを思わせる。数千年にもわたって、人はたいした進歩もせず同じような困難と向き合い続けて、今度もまた、といったところか。まさに寓話的な締めくくり。


本作は、聖書の言葉や聖歌を端々に織り込んでいて、まるで宗教が色濃く残る地域に語り掛けようとするような含みがなかっただろうか。
あるいは、男性としては唯一の登場人物については、どのような意味があっただろうか。男と女は決して全面戦争をしたいわけでもないし、男の側にも理解者は居るというところか。

いずれにせよ、必ずしも論理的な展開とは言えない筋書きではあるにせよ、落としどころの納得感には大いなる知恵が感じられて、良い作品でした。

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2023.06.03

「ブルージェイ」

https://www.netflix.com/title/80117746

NETFLIX

懐かしくてせつなくてちょっぴりほろ苦くて、生きる勇気が湧いてくる。時が経てば名作と呼んでもかまわないかもしれない。本年ここまででベスト。

何の変哲もない郊外のスーパーで古い知り合いらしい二人が偶然再会する。何十年ぶりかで交わす挨拶はなぜかぎこちない。

そのまま別れようとするも、後ろ髪引かれる思いで噛み合わない会話でつなぎ、お茶でも、ということになる。

長い歳月の間に二人とも相応に歳を取り、女はまあまあの人生、男はやや不本意な人生を送っていることが、身なりから読み取れる。

会話の中から少しづつ、二人の昔の関係といまの暮らしぶりが見えてくる。若い時の恋人どうしらしく、努めて明るく振る舞おうとしていても、固い会話の感じからは意に沿わない別れがあったのかと思わせる。

その固さも次第にほぐれて、青春の輝きを思い出させるような明るさへと少しづつ移ろっていく。このあたりの、もどかしさが行きつ戻りつ消えていく運び、二人の表情の変化が絶妙だ。カフェから出て水辺や下町の思い出の場所へ、さらに住む人もいなくなった男の実家へと場面を移しながら、手を取り合って記憶を遡っていく。まるで、別の人生をやり直すために時間を巻き戻していくかのよう。

この思い出深い家の中を、女が一人歩きながら、記憶をひとつひとつ呼び覚ましてまわる様子にじんわりする。モノクロの映像とピアノの旋律が調和して、繊細で美しい。いま、という現実の重みからいっとき離れて、記憶の中の光で心を洗うような清らかさがある。

男のアイデアで、10代の頃二人でやったバカ騒ぎを再現して大いに盛り上がるところは、屈託のない若い頃を思い出して懐かしい気持ちでいっぱいになる。

そのクライマックスで、ふと我に返る二人。男の方が耐え切れず泣き崩れながら別れの理由が明かされる。切っ掛けは、まだ大人になり切れていなかった青年が、身籠った彼女に宛てた一通の手紙。本心を真っすぐに伝える勇気を持てなかった、悔やんでも悔やみきれない失敗。

もはや取り戻すことのできない時間を想って落ち込むところだが、そこでふと転機が訪れる。年の離れた夫との生活で感情が押し殺されていた彼女が、何年かぶりに涙を流すことができたのだ。意外ななりゆきに、思わず笑みがこぼれる。この二人は強い。

若かったときの失敗をずっと引きずってきた二人が、やっとわだかまりを吹っ切って陽の光が差したようなこの場面が、最高に良いです。

本作は、二人の心の移り変わりを、受け手が読み取りやすいように実に繊細に描写してくれて、なおかつ、説明的な興覚めは一切無く、自然な感じを醸し出しているところが素晴らしい。そうした熟練の技の上に、中年男女がいっとき夢見る青春の甘く苦い記憶と、過去の過ちを全て赦したうえで、今の自分達に肯定的に向き合う物語を載せて、これ以上ない名作になりました。

 

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