「街とその不確かな壁」
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冒頭からしばらくは息苦しかった。自分の10代後半を克明に記述されているようで、ほとんど忘れていたことをあれこれと思い出した。それが甘酸っぱい記憶だけに留まらず苦しさを感じたのは、喪失を伴っているから。本物との早すぎた出会いの感覚を残したまま、さしたる理由もなくそれが消える。修羅場があるなら却って話はわかりやすいが、そういうものではなく単にいつしか消えて、心残りだけが長く続く。読み下すのに骨が折れ、時間がかかった。
その後は平易に読み流せる。まあいろいろあるよね人の一生には、という感じ。マジックリアリズムと言うのだそうだけれど、異世界転生大流行のおかげでいまではさほど珍しくもなくなったこの手法に載せて、理由もわからない喪失感に何とか納得のいく解を見つけようとするのだが、結局それは幻影だったということに落ち着く。
むしろ、その後のリアリティの方が大切なのかもしれない。
モラトリアムの終わりを描いているようでもあるし、専門性と包摂を描いているようでもあるし、それらの継承をもって締めくくっているようでもある。安直にまとめたりしないのは、これがエンタテイメントではなく文学作品だからだろう。そういうものを久しぶりに読んで、いかにそこから遠い地点に自分がいるかを自覚しました。
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