« 「街とその不確かな壁」 | Main | 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」 »

2023.05.14

「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」

https://psycho-pass.com/

「ドミネーター 起動します」
さあこれから国家権力を発動して圧倒的火力で容赦なくわるものを成敗しますから覚悟なさい宣言。をデジタルな女性の声によるあくまでも事務的言いまわしで。痺れますね。

で、その「わるもの」とは何か、というのを問い続けているのがこのシリーズ、という見方をしています。作品では、個々人の犯罪係数というものが測定されて、それをシビュラシステムという謎のAIが管理し、犯罪者とその予備軍を制圧するという世界が描かれます。

はじめは、まあありがちなSFアニメと思って放っておいたのですが、ふと時間があったときにNETFLIXで何本か見て、AIによる統治をわりと真剣に考えている感じがして、それ以来気になっています。今回は初めて劇場で観てみました。このテーマを2012年からずっと追求してきていて、物語にも厚みと蓄積があります。

前作までで既に、シビュラシステムが過去から現在に至るまでのエリート達による集団統治機構だということがわかって、それ自体結構衝撃的だったのですが、本作はそれを踏まえたうえで、AIによる統治は民主的な法治に取って代われるのか、というこれまた衝撃的なテーマを提示しています。AIが爆発的に進化している昨今、実にタイムリーですね。

もちろん、現実のAIにはいまのところそんな性能はありませんが、十分あり得る未来でもあり、興味深いところです。

AIと人間社会の関わりという最高級に面白いテーマ以外にも、本作に私が惹かれるもうひとつの理由は、これがインサイダー文学になっている点です。眉村卓のSFで司政官シリーズというのがありましたが、あの感触です。我々庶民の世界とは違う地平で展開されているもうひとつの現実、世の中を実際に動かしている力の内部で起きている様々な闘争を描いているのに興味を引かれます。無慈悲な権力と人間性のつばぜり合いを固唾をのんで見守る面白さとでも言いましょうか。

全体にアクションはもっさりしていて、血沸き肉躍る感じはありません。また、友情や先輩後輩関係、あるいは上司部下関係にも、浪花節的な色が少しあって、そこは好みの分かれるところですが、すべてはドミネータの最終形態デストロイ デコンポーザーが完全に吹っ飛ばしてくれます。十分ご注意下さい。

そうそう、エピローグ的に語られる物語の結びで、あっと驚くどんでん返しがあって、最後まで気を抜けません。予定調和をぶち壊して次に繋げるそういうところも、このシリーズの魅力のひとつです。

|

« 「街とその不確かな壁」 | Main | 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」 »

映画・テレビ」カテゴリの記事