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May 2023

2023.05.29

「雄獅少年/ライオン少年」

https://gaga.ne.jp/lionshonen/

上昇志向とか向上心は、それ自体はよいことなのだが、言葉の中に対価を求めている気配を含んでいて少し難がある。明治期、あるいは戦後高度成長期の日本などがそうだ。

本作は、そうしたものを彷彿とさせるにも関わらず、物質的な対価を求めていない。むしろ、最後のシーンからわかるとおり、精神性を強く押し出している。そこが本作の良さだ。

不可能へのチャレンジと挫折はたくさんの作品が取り上げているけれど、その先にこれだけの精神性を見事に表現し得た作品はそう多くないだろう。

今の中国のこういうところは素直に凄いと思う。
今年の自分的ベスト5に間違いなく入ります。

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2023.05.28

「アムリタの饗宴・アラーニェの虫籠」

https://www.amrita-movie.com/

まあ想像力には感心するけれど、同時に、これは不健康すぎるとも思う。さるところの映画評で星がたくさんついていたので見に行ってみたけど、私にはちょっと受けつけられなかった。

グロテスクや不条理がわるいわけではない。たとえば「JUNK HEAD」などはたいへん面白いと思ったのだが、違いは何かといえば諧謔の有無だろう。良い作品にはそれがある。本作にはそれが無く、病的にひたすら一つの穴に入り込み過ぎている。

というわけで、早く忘れて次で口直しするるのが吉という感じでした。

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2023.05.23

「MEG ザ・モンスター」

https://warnerbros.co.jp/movie/megthemonster/

NETLIXで。

あまりにもわかりやすいサメ映画。サメ退治ならもっといくらでも方法があるだろうところを、わざわざ危険な方法を採用する。
まあ、そうしないと映画にならないわけだけど。

この種の映画は、だいたい主人公の男が美女と恋に落ちるわけだけど、本作ではバツイチ男が北欧系美女の前の妻とヨリを戻すのではなく、中国系の子連れ美人科学者といい感じになるというのが少し目新しい。でもそうなる必然がああまり感じられないので少し興が削がれる。中国市場は無視できないのだけはよくわかった。

まあ、そんくらい。続編がもうすぐ公開らしいので、見るかどうか迷っていて、予習のために1を見たのだけど、2は見なくてもよさそう。ジェイソン・ステイサムは相変わらずかっこいいし、美人科学者の娘役のソフィア・ツァイちゃんが続編で随分大きくなって戻ってくるのはポイント高いけど、まあいいかな。

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2023.05.22

「ワーキング 〜社会を創る、"働く"の景色」

https://www.netflix.com/jp/title/81130576

NETFLIX、全4話
有名な映画俳優を使って探検させたりするジャンル。なんとこのほど元米大統領を引っ張り出した。

作品としては少々まとまりがなかったけど、同じ働くといっても様々あることをうまく映し出してはいた。そして米社会の階層化とディスコミュニケーションについても。

そういう層を横断できるレポーター兼アンカーとしてバラク・オバマを担ぎ出したのはポイント高い。まあ、デリケート過ぎるところには登場しない立ち位置であっても。

米国社会の最底辺から上層までのそれぞれを、4つに分割して見せている。

1、2話では最底辺とその次くらいをレポートしていて、彼がつくったメディケイドも直接関わるような話が出てくる。何度も繰り返し描かれるのは、労働組合の重要性だ。それがあるから、労働者は労働に見合う収入を得られるという主張が色濃く盛り込まれている。

3話目では米国の2番目の階層として人口の1割弱を占める人々を取り上げている。この層は親から受け継いだそこそこの資産に乗っかって比較的安楽な暮らしを営んでいるのだが、オバマはそこに批判的な視線を向けている。

そして4話目ではタタグループのトップを取材し、その層の人間の仕事に対する義務感を持ち上げている。

ちょっと毛色の変わった、でも面白い作品でした。

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2023.05.18

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」


https://marvel.disney.co.jp/movie/gog-vol3

最高な傑作でした。

「スーサイド・スクワッド」で、映画つくるの上手いなと気になっていたジェームズ・ガンですが、それを上回る最高の映画を見せてくれました。ひょっとしてこの人、群像劇の名手なのかもしれません。

実は、過去のツイートの咎で一度は本作の監督を解雇されたところ、出演者たちや一般の映画ファンの復帰を求める運動で返り咲いたという経緯があったようです。そのためかどうか、シリーズの過去作よりさらに上の熱量が感じられる力作でした。

といっても、変に力んでいるわけではなく、多彩なキャラクタやこれまでの多くの物語を材料に、ロケットの過去を縦糸に据えて、巧みに捌いた、おいしく料理した、という感じの仕上がりです。上手さが随所に光っています。

この監督がいいなと思うのは、目配りの確かさがあるからです。本作に登場するどのキャラクタにも、その特徴、長所を生かした見せ場があり、しかもそれにとどまらず、ドラックスのように意外な一面を露出させて、シリーズ最後にふさわしい心温まる空気をつくっています。ネビュラがドラックスに手向けた最後の言葉は感動的。言われた方も嬉しかったろうと思います。

そして、それらたくさんの要素のさりげない配置の見事さ。こういう流れるような捌き方は、力みがある作り手にはできない芸当で、なにげなく作業をしながら傑作を生みだす達人と言っていいでしょう。

なるほど、DCのトップに引き抜かれるだけのことはあります。
これからもいい作品をたくさん見せてほしいです。

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2023.05.14

「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」

https://psycho-pass.com/

「ドミネーター 起動します」
さあこれから国家権力を発動して圧倒的火力で容赦なくわるものを成敗しますから覚悟なさい宣言。をデジタルな女性の声によるあくまでも事務的言いまわしで。痺れますね。

で、その「わるもの」とは何か、というのを問い続けているのがこのシリーズ、という見方をしています。作品では、個々人の犯罪係数というものが測定されて、それをシビュラシステムという謎のAIが管理し、犯罪者とその予備軍を制圧するという世界が描かれます。

はじめは、まあありがちなSFアニメと思って放っておいたのですが、ふと時間があったときにNETFLIXで何本か見て、AIによる統治をわりと真剣に考えている感じがして、それ以来気になっています。今回は初めて劇場で観てみました。このテーマを2012年からずっと追求してきていて、物語にも厚みと蓄積があります。

前作までで既に、シビュラシステムが過去から現在に至るまでのエリート達による集団統治機構だということがわかって、それ自体結構衝撃的だったのですが、本作はそれを踏まえたうえで、AIによる統治は民主的な法治に取って代われるのか、というこれまた衝撃的なテーマを提示しています。AIが爆発的に進化している昨今、実にタイムリーですね。

もちろん、現実のAIにはいまのところそんな性能はありませんが、十分あり得る未来でもあり、興味深いところです。

AIと人間社会の関わりという最高級に面白いテーマ以外にも、本作に私が惹かれるもうひとつの理由は、これがインサイダー文学になっている点です。眉村卓のSFで司政官シリーズというのがありましたが、あの感触です。我々庶民の世界とは違う地平で展開されているもうひとつの現実、世の中を実際に動かしている力の内部で起きている様々な闘争を描いているのに興味を引かれます。無慈悲な権力と人間性のつばぜり合いを固唾をのんで見守る面白さとでも言いましょうか。

全体にアクションはもっさりしていて、血沸き肉躍る感じはありません。また、友情や先輩後輩関係、あるいは上司部下関係にも、浪花節的な色が少しあって、そこは好みの分かれるところですが、すべてはドミネータの最終形態デストロイ デコンポーザーが完全に吹っ飛ばしてくれます。十分ご注意下さい。

そうそう、エピローグ的に語られる物語の結びで、あっと驚くどんでん返しがあって、最後まで気を抜けません。予定調和をぶち壊して次に繋げるそういうところも、このシリーズの魅力のひとつです。

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2023.05.09

「街とその不確かな壁」

https://amzn.to/3M5ezzB
冒頭からしばらくは息苦しかった。自分の10代後半を克明に記述されているようで、ほとんど忘れていたことをあれこれと思い出した。それが甘酸っぱい記憶だけに留まらず苦しさを感じたのは、喪失を伴っているから。本物との早すぎた出会いの感覚を残したまま、さしたる理由もなくそれが消える。修羅場があるなら却って話はわかりやすいが、そういうものではなく単にいつしか消えて、心残りだけが長く続く。読み下すのに骨が折れ、時間がかかった。
 
その後は平易に読み流せる。まあいろいろあるよね人の一生には、という感じ。マジックリアリズムと言うのだそうだけれど、異世界転生大流行のおかげでいまではさほど珍しくもなくなったこの手法に載せて、理由もわからない喪失感に何とか納得のいく解を見つけようとするのだが、結局それは幻影だったということに落ち着く。
 
むしろ、その後のリアリティの方が大切なのかもしれない。
モラトリアムの終わりを描いているようでもあるし、専門性と包摂を描いているようでもあるし、それらの継承をもって締めくくっているようでもある。安直にまとめたりしないのは、これがエンタテイメントではなく文学作品だからだろう。そういうものを久しぶりに読んで、いかにそこから遠い地点に自分がいるかを自覚しました。

 

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2023.05.05

「聖闘士星矢 The Beginning」

https://kotzmovie.jp/

原作は読んだことはないのだが、周りが読んでいた漫画の中でズシャアという効果音がしょっちゅう出ていたのだけ覚えている。殴られて地面に倒れ込みながら顔でスライドする痛そうなオノマトペだ。あれが海外ではうけるのだろうか。。

日本アニメのハリウッド実写版というと、あまりいい記憶が無くて、これもそうなのかと思いつつ一応見て見たら、そう悪くもなかった。原作を知らないから、比較してどうこういう点がなく、虚心坦懐に見られる。

B級感あふれる映像だが、少ない予算やサポートの中でがんばってる感が出ている。格闘アクションもまあまあ切れがあっていい。
ストーリーは割と鉄板だが、マンネリというより見ていて安心感がある。作品の値打ちがほかにあるときはその方がいい。

本作の真価は、主人公が姉妹や姫のような庇護されるべきものを守り抜くという昭和的価値観にある。まあ騎士道精神てやつかな。武士道というと封建制の悪い面を想起してしまうので、そんな風に言っておこうか。

この騎士道精神というのは最近は敬遠され気味で、女性の自立が持て囃され女主人公が銃とか打ちまくって平気で人殺しするような殺伐とした作品が多くなっている。ポリコレここに極まれりという感じで嘆かわしいのだが、本作の価値感はそれと真っ向から対立している。こういう懐古的なのを臆面もなくやってくれるのが、私のような疲れた年寄りには効くのだ。

超絶的な力を持つ者を止めるためにその精神の内側に働きかけるのは、普通にやると凡作になるのだが、本作はその前に入念な下ごしらえをして凡庸さをうまく回避している。
アテナというのを人間性を持たないある種の機械という位置づけにして、それを制御するシエナという人間の緩衝帯を置いているのがそれだ。

そこがシン・仮面ライダーの残念感との違いだろうか。また、そういうものを長く引っ張らず、手短に鋭い山をつくっているのもいい。脚本がしっかりしている感じがする。

そういうわけで、配信にたくさんあるティーンズ向けの学園ドラマに比べれば、結構よく出来ているなと思えました。こういうのを、完全大人向けの、例えば黒澤明とか是枝裕和とかと比較しようとするのは、そもそもジャンル違いのお話なのです。

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