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April 2023

2023.04.29

「キル・ボクスン」

https://www.netflix.com/title/81478985

NETFLIXオリジナル

あーこれはいい作品だ。じんわりくる。
もちろん商業ベースだから、暗殺請負会社とか殺伐としたものが出てくるし、アクションも血飛沫舞う凄惨さは少しあるけれど、そういう血なまぐさいものは昇華されていて、物語の中にしっくりと組み込まれている。

そして物語は。庇護する者とされる者の普遍の関係を刻み出している。主人公とその擁護者の関係の原点がフラッシュバックした瞬間、何かの呪いが解けたような清々しさが吹き抜けていき、物語が終結する。

この瞬間が良くて、映画を見ているようなものです。素晴らしい。

展開のテンポもよい。まあ、倍速で見てしまったので少し割り引くとしても、邦画にありがちなどろどろうじうじに時間を取られたりせず、本質部分を鮮やかに切り取っている。韓国のクリエイターたちの実力は本物です。

それにしてもNETFLIX、このところオリジナル作品でじわりと真価を発揮しつつある感じがします。

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2023.04.23

「アニアーラ」

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一風変わったSF作品。SFというより、Sfを小道具として使い、宇宙空間を永遠に彷徨う人工空間を作り出して、そこに生きる人々を描写するという作品。
原作は、スウェーデンのノーベル文学賞受賞作家ハリー・マーティンソンの代表作だそう。

この宇宙船のデザインがなかなかよい。細長い長方形の巨大な板なのだ。およそ宇宙船という感じがしないが、シャープで、これこそ八千人を乗せた移民船という印象だ。重力は人工的に作り出す技術があることになっている。また、食料は備蓄が無くても藻を生産することで半永久的に供給できる。

しかしそうはいってもたかが八千人。閉鎖的で外部の開放系を持たないこの空間で、人々は疲弊し、様々な病理に取り憑かれる。エイリアンなどを登場させるよりよほどリアルで、1991年に行われたというバイオスフィア2の実験を思い起こさせる。

活劇の要素はないものの、その代わりに、年単位の時間が流れる中で、狂気や偏執、希望と絶望などが入れ代わり立ち代わり現れる様が描かれる。アメリカ映画のようにすぐ殺し合いになるわけではないが、北欧スウェーデンらしい理性とその崩壊がある。

そんな中で、技術者の女性が比較的淡々と理性を保ちつつ可能な範囲の仕事をこなして時間をやり過ごしていく強さが目立つ。だがそんな彼女も24年という歳月の終わりには、神に祈るようになる。

これと言った結論めいたものはないのだが、自分達の社会がどれほど外界との関わりによって救われ保たれているかを実感できた。

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「search/#サーチ2」

https://www.search-movie.jp/

前作に続いて、インターネットネイティブな暮らしぶりを取り入れたミステリー&ヒューマンドラマ。ネット上で情報が行き交うスピード感あふれる力作。オシント(Open Source Intelligence)とはどういうものかを、前作にも増して肌で感じさせてくれます。

私などはインターネット古生代の人間なので、わりとアナログ世界の殻をひきずってゆっくりまったり利用しているだけなのですが、このネイティブ世代は全く違う。手足のように様々な情報源を利用し、リンクでつながる人々の協力を仰ぎ、パスワードに守られた壁を推理で通り抜け、隠された真実に迫っていきます。まあ、お話の都合上、パスが簡単に推測できるのは作り物ですから目をつぶっておくとしましょう。

本作の素晴らしい点は、それら時代の息吹を存分に感じさせながら、その上にいつの時代も変わらない人間ドラマを巧みに構築していることです。単にギークな世界を描くだけなら、興味深い凡作に堕するところを、本作はドラマの力で一級の作品に仕上がっています。それを疎かにしないどころか、そこにこそ力を注いでいる。素晴らしいです。

前作同様、ネットネイティブにふさわしい新しい形の物語がこうして世に示されて、それを梃子にまた新しい生き方が拓かれていくとすれば、こんなにぞくぞくする楽しさはありません。

というわけで、アレクサ、敬遠し続けてきたけど、そろそろ使うかなあ・・あれもAI革命を受けて一段と凄いツールになりそうだし。

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2023.04.20

「チンパンジーの帝国」

https://www.netflix.com/title/81311783

NETFLIX 全4話

野生のチンパンジーの生態を、多少のストーリー性を持たせて描いている。迫真の映像がすごい。どうやって撮ったのだろう。
このエピソードは、領土争いをする2つのチンパンジーグループの抗争と、各グループ内での順位争いとが、複雑に絡んだ様子が映し出されている。これがどの程度編集されたものなのか、それともあるがままの姿なのかは、見ているだけではよくわからない。

検索してみると、例えば10年ほど前のこんな記事が見つかったりする。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2811/

ゴリラは、その巨躯にも関わらず、草食で性質は穏やかだと聞いたことがあるが、チンパンジーはそれに比べて攻撃性が強いようだというのはわかった。また、より小柄な猿を狩って肉を食うことも始めて知った。

ただ、上のリンク先記事によると、この地区のチンパンジーはやや特殊なケースである可能性もあるそうだ。

いずれにせよ、始めて見るものが多くて一気見してしまいました。

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2023.04.16

「静かなる海」

https://www.netflix.com/title/81098012

NETFLIX 全8話

最近のSFに疎いので、どんな新しいアイデアが流行しているのか知らないのだけれど、この作品のアイデアは面白い。ネタバレを避けるために書くのは控えるが、初めて見ると結構驚くかもしれません。

ハリウッド映画的な流れなら、この驚くべき存在と人間との闘いに落とし込んでいくワンパターンになりやすいけれど、本作では、途中まではそう思わせておいて、実はそれが人類の救いであるような変容を遂げるのが新鮮。戦いはむしろ人類どうしの勢力争いに移したうえで扱いを縮小させ、この優れてSF的な存在に焦点を絞っている。うまい。

韓国映画におそらく共通のスタイルとして登場人物の背景や家族愛などが濃厚に描かれるのだが、本作ではそれが嫌味でなく、むしろこのSF的存在が人類の救いであることを納得させるための自然なステップになっている。これもうまい。

TVシリーズにも関わらず、話の運びのうまさで映画的な存在感を作り出していて、良作でした。

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2023.04.15

「死すべき7人の王」

https://www.netflix.com/title/81460361

「ヴァイキング 〜海の覇者たち〜」に続く時代、アルフレッド大王の孫のアゼルスタンがブルナンブルの戦いで勝利し全イングランドの王を名乗るまでのお話で、かなり期待したけどはずれ。Vikingsの劣化コピーとすら言えない少々残念な出来でした。

まあでも、この時代のブリテン島の混迷というか、人種も宗教もばらばらで、外からはデーン人やアイルランドの両方から干渉され続けるカオスな状況が、なんとなくわかるような作品ではありました。

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2023.04.12

「シン・仮面ライダー」

https://www.shin-kamen-rider.jp/

全開する長澤まさみオーグに全米が泣いた。
自立して後をついてくるバイクに全HONDAが泣いた。

まあ、前半は面白いところもたくさんあります。映像のかっこよさが目立ってました。予告編でもずっと流れていたクモオーグの名セリフ「バッタオーグ!完成していたのですか!」の微妙に震える声に込められた驚きと畏怖などが、たいへんよい味わいです。最初の変身シーンとサイクロン号の変形とかエグゾーストの使い方とか痺れますね。これぞ仮面ライダーて感じです。実写部分は単に整備不良車両ですが・・

後半は・・・邦画の悪いところが全開でうんざりです。力づくで勝てない相手に、精神論をくどくど説明して改心してもらうっていう姑息な課題解決がいやです。それでもハチオーグの倒し方まではよかったのですが、その後が。。

洋画なら、力で勝てなければトリックや連携プレイで相手の弱点をピンポイント攻撃して逆転勝利し、どうだ、とばかりのニヒルな台詞で幕を下ろすところですが・・

どうして邦画はああなっちゃうんでしょうねえ。広告代理店とかが邪魔でもしてるんでしょか。

それとこの映画、低予算臭いのがちょっとアレだなと思いました。俳優さんの会話劇を多用すると、そう誤解されてしまうリスクがあります。たとえ作り手の意図が会話の中身にあったとしても、それを言葉以外の手法で表現するのが映画というものだろうと、素人ながら思います。舞台を限定した演劇的な映画は別ですが。基本をはずしてしまっていては駄作と言われてもしかたがありません。

でもまあ、続編の粗筋を聞くと面白そうなので、めげずにどう生かせるか、制作側は思案のしどころでしょかね。。

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2023.04.09

「エクセプション」

https://www.netflix.com/title/81002444

NETFLIX 全8話

宇宙の彼方への移民という話はこれまでもたくさんあった。生物の寿命を超える旅の時間の長さを乗り越えるために、これまでは人工冬眠というアイデアがよく使われてきた。

ところが本作は、その道のりを亜空間飛行でほんの短期間のうちに超える。生命はそのプロセスを通り抜けて生き残ることはできないから、到着した先で生体3Dプリントと記憶の移植によって、元の人間とうり二つの存在を作り出す。

人間をコピーする物語はこれまでもたくさんあったと思うけれど、その手法の意味付けをこれほど明確に位置付けたタイプは、そうはないのではないか。この話における技術には明確な目的を達成するための必然性が感じられる。そこがまず面白い。

あとは、到着した先で再生されたクルーたちの人間ドラマだ。彼らが意識や自我を持つかどうかは特に掘り下げず、普通に人間として行動させている。陰謀もからめたミステリーの筋書きに沿って、彼らがコピーされた人工物であることに起因する様々な出来事が起こり、それを通じて人間とは何か、人と人との間の信頼というものがどう生まれるかを描く。その話の運び、ミステリーの二転三転逆転ぶりが手が込んでいて、これがまた面白い。

締めくくりは、目的地での死闘の合間のひと時に、人間性の核心に触れる会話があり、これまでの彼らの行動の全てが腑に落ちる。そしてラストスパートのアクションへ。

なかなかニクい仕上がりで、良作でした。

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2023.04.03

「JUNG_E/ジョンイ」

https://www.netflix.com/title/81465109

人間の思考や意識を100%人造の義体にインストールする技術が完成している未来のお話。一応、宇宙移民と地上人との戦争を背景に置いているけれど、話の本筋は、人間の欲望と尊厳とが鋭く対立する点に置かれている。

金=富という魔物に絡めとられている人間社会において、個人の尊厳の尊さとそれを保つことの難しさを問いかけてくる。

小品の趣きながら的を絞って感情を揺さぶる良作でした。

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2023.04.02

「生きる LIVING」

https://ikiru-living-movie.jp/

黒澤明の原作のリメイク。いまこのテーマの映画が作られるにはそれなりの意義があるだろう。原作の幹を成すコンセプトはしっかり受け継がれて再び見る人を感動させる。

見始めてすぐにわかったのだが、原作が戦後昭和のコミュニケーションプロトコルを当然のように駆使していたのに対して、本作は我々が憧れる英国紳士階級のプロトコルを使って、原作の筋をほぼそのまま再現している。先週原作で予習した身としては、だから、英国紳士のかっこよさを見るのがよい、という見方になった。

どこが違うかといえば、英国風はやっぱりあか抜けていてスマートだ。その代わりに階級の壁は厳しく存在している。例えば原作で主人公が工事現場の視察で驀進するトレーラーを避けようとして転んで泥まみれになるシーンがある。英国版だとこれが、体調をくずして椅子に掛けさせられお茶を飲むシーンになる、といった具合。

なにより、原作では沈黙と映像とで表現している心の動きを、英国版ではあくまでも秩序だった言葉で表している。

どちらがいいのかはわからないが、旧い日本人としては原作の方が、主人公の血みどろの奮闘が身近に感じられたことは否定できない。

もちろん、英国では紳士の階層と労働者のそれとがはっきり分かれているそうだから、この映画では示されない我々同様下世話な部分もあるのだろうけれど、作品の中にはそれは現れない。

ただ、本作が原作を上回ったと思う点がひとつある。
原作では、故人の奮闘ぶりと周囲の思惑はすべて葬儀の席で語られ、それゆえにそこが少し長いと感じられなくもなかったのだが、本作では、葬儀の場、後日譚の汽車の中、そして最後に現地の夜と分けて語られることで、あっさりした中に感動を織り込んで、センスがよい。これは彼我の社会や人々の在り方そのものにも関わりそうなところなので、迂闊に優劣は言えないのだが、私は本作の捌き方の方が、感動の質が上がる感じがした。

そして、原作と違って本作では、主人公の考えが、職場の若手への遺書の形で、はっきりと言葉で示されるのだがその中に、「この仕事は小さなものだ」という言葉がある。

そこには、公僕が持つべき社会全体への眼差しと個々の思いで奮闘する個人との結びつき方がはっきりと示されていて、この人物の教養の高さが窺える。

原作では、個人の思いの強さが全体の優先順位を押しのけるのが無条件によいことだと受け止められる面もなきにしもあらずだったが、本作はそこを、ケースバイケースだよ、がんばれと、若者を諭し励ましているかのようだ。後味はこの方がずっとよい。

基本の感動は共有しながらも、この辺りの一連を原作とは違ったシークエンスにすることで、本作は原作を超えたと思う。公共というものに対する構えの違いが現れたと言えるかもしれない。

ともあれ、英国紳士の在り方を感じ取ったり、英語の教材にしたりもできそうな、上質な作品に仕上がっておりました。

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「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」

https://dd-movie.jp/

TTRPGは知り合いがよく主催していたので、参加する機会はあったもののあまり遊ばなかった。どうも展開の緩さがしっくりこなかったのだ。まあ友達が集まって無駄話をしながら時間をつぶすという感じのものだったので、私には向いていなかったかもしれない。

しかしこの映画は文句なく面白い。展開のリズムはノリがいいし、エピソードも豊富でそれぞれに物語の筋に寄与する何かがあるし、アイテムやモンスターはお馴染みのが具現化しているし、魔法の視覚効果もナイスだし、パーティの面々の成長もあるし、そして基底には物事を楽観視するコミカルな空気が流れているしで、いうことなし。

特によく出来ていたのが、ここそこの杖という短距離テレポートのアイテムの使われ方。

これは本筋と直接関係ないイベントで入手するので、最初はそこを通り過ぎてしまって、計画がにっちもさっちもいかなくなって仕方なく訪れたら偶然手に入る。でも運び手は効能に気付かず、思い出の品ではあるが単なるお荷物程度にしか思っていなかったところが、旅の仲間と合流してダンジョン攻略に出掛けた先で運悪く進退窮まったときに、別の仲間の知識からその使い方がわかる。この偶然が幾重にも重なって威力を発見されるという経緯にまずぐっとくる。RPG的面白さの真髄と言ったら言い過ぎだろうか。

しかもこのアイテム、いったん威力が知れたあとは縦横無尽に使われる。危険な場所から逃げるため、あるいは封印された場所へ忍び込むため、そして最後は、物語の締めくくり、主人公の誓いの成就、悪役への懲らしめをコミカルに描いた最高の場面でその機能を遺憾なく発揮する。これは見てのお楽しみです。

ゼラチナスキューブやミミックは出たな!て感じで登場するし、クァールみたいなクロネコはいるし、太ったドラゴンは笑えるけど笑っていると食われるし、悪の魔法使いは強力過ぎて歯が立たないのを絶妙で意外な連携プレイで仕留めるし、それももとは敵方のアイテムを逆手に取るしで、諸々の要素がしっかり噛み合って、ほんとに文句のつけようのない痛快娯楽大作に仕上がっている。他の作品との兼ね合いで映画館では扱いが少し小さめだけれど、本来は堂々の看板作品の価値があります。ぜひ劇場でRPGのパーティと一緒に鑑賞しましょう。

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2023.04.01

「ほの蒼き瞳」

https://www.honoaokihitomi.com/

NETFLIX

老練な元刑事が陸軍士官学校で起きたオカルト絡みの猟奇殺人事件を解決するために招かれる。事件は紆余曲折あったものの、最後はオカルト一味の崩壊をもって解決される。だが・・・

犯行の二重性、そこに隠された元刑事と士官学校の因縁などが重なり合って面白い構成でした。展開が遅いので途中ちょっと寝てしまいましたが。

それにしても、本作ではどの殺意にも哀しい裏があって、人は様々な理由で人を殺すのだなと。そしてもちろん、政治的正しさからすれば殺人は許されないとはいえ、そうせずにはおれない心というものもまた、人の一面ではあるのだと、しみじみ思いました。

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