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2023.03.26

「生きる」

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黒澤明の1952年の作品。これをリメイクしたものがそろそろ公開されるようなので、その前に予習しておこうとオリジナルを見てみました。

戦争が終わったのが1945年ですから、日本は焼け跡から復興の真っ最中だったでしょうか。その活気あふれる世の中で、役所の片隅で意味のない書類作業に忙殺されること三十年の一人の男が、不治の病で余命半年とわかります。ここまで見て、ああ余命ものかと少しがっかりするのですが、しかしさすがは黒澤明。そこからが本作の始まりです。

話の筋はもちろんパターンです。主人公は限りある命を抱えて、最初は放蕩三昧をするのですが満たされず、自分の部署の一番下っ端の女性が実に生き生きと過ごしているのを見て、死ぬまでに自分にもできることがあることに気付き、ひたすらその成就に邁進しはじめます。

映像は、その過程を見せずにとばして、五か月後のこの男の通夜の席に視点を移します。もう死んでしまった男の霊前で、いろいろな立場の人々が様々な意見を言い、あるいは無言でその意思を表します。この通夜の場面が本作の山場にして最長のシークエンスですが、この見せ方が実に上手い。回想シーンを使って、主人公の死に物狂いの行動力を、生きる意味を、見せていきます。そして主人公のこれ以上はないという死に様をも。

もちろん、役所というところは元来、陳情を受けるところではなく、市民に選ばれた議会と首長が決めたことを執行する機構に過ぎないというのが戦後民主主義の建前です。作り手もそれは重々承知で、通夜の席で憎まれ役の市の助役にそれを言わせています。彼に従う面々も、それぞれ己の立場でいささかの弁明を行い、当初は建前が優勢ですが、地位の高い者が退場して、場が崩れ酒が入るに従って、建前は崩れ本音が少しづつ現れます。

このあたりの本音と建前の厳格な壁や、言葉にならない所作や目線、座敷において座る位置など、この時代のプロトコルとでも言うべきものが濃厚に詰まっていて、私には古臭くも見えますが、一方で、これと重なる世界観に生きている人もまだ多くいるのではとも思われて、感慨深いものがあります

そして、そうした時代の違いを超えてなお、生きることの意味に古いも新しいもないことを、本作はど真ん中に据えて見せてくれます。

黒澤明、改めて見るとやっぱりすごいですね。

来週公開のリメイクは、脚本カズオイシグロ、主演ビル・ナイということで、どんな新しさと普遍性を見せてくれるのか、期待が高まります。

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