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March 2023

2023.03.26

「トップガン マーヴェリック」

https://topgunmovie.jp/

NETFLIXで。

いかにもアメリカ映画らしい良さがある。不可能に思えるミッションを計画立案と訓練とチームワークで達成する話。

太平洋戦争で日本は米国に物量で負けたとはよく言われる説だが、本当はそうじゃない。勝利条件を冷徹に決め、必要な計画を綿密に練り上げ、ロジスティクスを整備し、大量の人間を訓練し、チームワークでやってきたのに負けたのだ。こちらには思い込みと妬み嫉みと同胞への不信が先に立っていた。負けて当然だったのだ。

まあ、それはそれ。

本作には、そういうアメリカの良さ、強さがよく表れている。ミッションの向こう側にいるだろう人間のことが頭をよぎるけれど、それよりむしろ、ほぼ全てが自動化・高度化されたシステムに対して旧式の道具と熟練の人間の技能で挑む話という面が強く出ていて好感が持てる。

前作を見ていればもっと感動したのだろうけれど、本作単独でも十分よいです。

それにしてもトム・クルーズかっこいいですな。よくわからん宗教の幹部でなければもっとよいのだが(汗

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「生きる」

amazonPrimeで
https://amzn.to/3FR5kR0

黒澤明の1952年の作品。これをリメイクしたものがそろそろ公開されるようなので、その前に予習しておこうとオリジナルを見てみました。

戦争が終わったのが1945年ですから、日本は焼け跡から復興の真っ最中だったでしょうか。その活気あふれる世の中で、役所の片隅で意味のない書類作業に忙殺されること三十年の一人の男が、不治の病で余命半年とわかります。ここまで見て、ああ余命ものかと少しがっかりするのですが、しかしさすがは黒澤明。そこからが本作の始まりです。

話の筋はもちろんパターンです。主人公は限りある命を抱えて、最初は放蕩三昧をするのですが満たされず、自分の部署の一番下っ端の女性が実に生き生きと過ごしているのを見て、死ぬまでに自分にもできることがあることに気付き、ひたすらその成就に邁進しはじめます。

映像は、その過程を見せずにとばして、五か月後のこの男の通夜の席に視点を移します。もう死んでしまった男の霊前で、いろいろな立場の人々が様々な意見を言い、あるいは無言でその意思を表します。この通夜の場面が本作の山場にして最長のシークエンスですが、この見せ方が実に上手い。回想シーンを使って、主人公の死に物狂いの行動力を、生きる意味を、見せていきます。そして主人公のこれ以上はないという死に様をも。

もちろん、役所というところは元来、陳情を受けるところではなく、市民に選ばれた議会と首長が決めたことを執行する機構に過ぎないというのが戦後民主主義の建前です。作り手もそれは重々承知で、通夜の席で憎まれ役の市の助役にそれを言わせています。彼に従う面々も、それぞれ己の立場でいささかの弁明を行い、当初は建前が優勢ですが、地位の高い者が退場して、場が崩れ酒が入るに従って、建前は崩れ本音が少しづつ現れます。

このあたりの本音と建前の厳格な壁や、言葉にならない所作や目線、座敷において座る位置など、この時代のプロトコルとでも言うべきものが濃厚に詰まっていて、私には古臭くも見えますが、一方で、これと重なる世界観に生きている人もまだ多くいるのではとも思われて、感慨深いものがあります

そして、そうした時代の違いを超えてなお、生きることの意味に古いも新しいもないことを、本作はど真ん中に据えて見せてくれます。

黒澤明、改めて見るとやっぱりすごいですね。

来週公開のリメイクは、脚本カズオイシグロ、主演ビル・ナイということで、どんな新しさと普遍性を見せてくれるのか、期待が高まります。

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2023.03.20

「暗黒と神秘の骨 シーズン2」

https://www.netflix.com/jp/title/80236319

NETFLIX 全8話

2つの独立した原作を1本にまとめるという大胆なコンセプトは、シーズン2でもわりとうまく機能しています。まったくタイプの異なる主人公級グループ2つが、あまり交わらない活動を展開してそれぞれの成果が最後にひとつの場に集約されて太陽と闇の対決に決着をつける。うまいことまとまっています。まとまっているというより、関わりを最小限にすることで破綻なく、アクションの山場が盛りだくさんな印象をつくるのに成功しているといったところ。

私としては、神秘の力を操る方の話よりも、街の支配権を巡って争う話の方がドラマがあって好み。魔法の威力があり過ぎると、単に魔法使いがフォォォォォとか気合を入れるだけの見飽きた光景になってしまうのです。それだけじゃつまらないですよね。ウルトラマンの話にはウルトラ警備隊がいてミジンコのようだけど一緒に頑張ってるからいいのであってね。

1.5倍速で見たけど、そこそこ面白かったです。
シーズン2で闇の壁みたいなのが消し去られてめでたしめでたしで終わるのかとおもいきや、今度はそれですか、というシーズン3へのフックがありました。もうお腹いっぱいなのでもういいかなあとも思いますが、また時間が経てばクロウの面々を見たくなるかもしれません。

 

 

 

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2023.03.13

「WENDSDAY」

https://www.netflix.com/title/81231974
NETFLIX シーズン1全8話

ティム・バートン、最高。
ウエンズデー、超クール。
ジェナ・オルテガ、キュート。

予告編にもあるピラニアをプールに放つときのセリフが、当初は「弟を拷問していいのは私だけ」だったのがいつのまにか「いじめていいのは」に変えられているのは納得できない。常識という不条理に対してそれを上回る鉄の自我を突き付けて満足の笑みを漏らすのがこのキャラクタの魅力だろう。そういう尖ったところを勝手に丸めてはいけない。

この、随所にみられるセリフの尖り具合は、実はジェナ・オルテガの役作りに負うところが大きいらしい。
https://jp.ign.com/wednesday/66355/news/


あくまでもストイックに冷酷非情ぶりを見せつけつつ、実は人間的な温かさにも理解はあるようなそぶりを少しだけ見せる。少しだけだ。その落差の微妙さ、匙加減が絶妙で、おそろしい言葉をすらりと口にするこのゴシック調の少女が段々可愛らしく見えてきて、つい引き込まれる。口数の少なさに隠れた責任感や自我の強さも、周囲に流されがちな普通の人にとって大きな魅力だ、

学園を舞台にしているだけあって、競技会ありダンスパーティあり近隣との交流会あり秘密クラブありで、個々のイベント自体が目を楽しませてくれる。そしてそれぞれが大筋に沿った謎解きに絡んでいて、映像の1秒1秒に無駄がなく意味がある。TVシリーズとして飽きさせないだけのネタの豊富さが嬉しい。それを夜通し一気見できる幸せ。

普通に聞いていたら眉をしかめそうなウエンズデーの過激な言葉がそれほど耳障りではないのは、この事件の背後に隠された悪の大きさと比較するからだ。本シーズンでは前景に人食いの怪物を置き、後景にはカルト的存在を置いて重層的に楽しめる。事件の解決が最後の最後までもつれて最終話まで緊張が持続する。

何から何まで、一片も無駄もなくそれでいながら内容が豊かで、ティム・バートンの最高傑作に数えられるのではないでしょうか。

 

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2023.03.06

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

https://gaga.ne.jp/eeaao/

「スイス・アーミー・マン」の脚本・監督をやった人だ、というのを知っていればもう少し理解が早かったと思う。観終わったあとでそれを知って、ああなるほどと納得した感じ。

わけのわからない空想のお話がコラージュのようにばら撒かれていて、そこに真心のピースを一緒に紛れ込ませて、ふっと感動を呼び起こす、というのがこの作り手の手口だ。またしてもうまいことやられました。

今回は、主人公の女性がリアル世界で抱えているストレスフルなせわしなさが、空想の世界の断片のめまぐるしい切り替わりと重なり合う感じがうまく出ていて、以前より進化している気がする。

情け無用の徴税吏も、我儘で頭の固い老親も、反抗期の娘も、頼りにならない夫も全てが、事業主で扶養者にして母でもあり妻でもある一人何役もこなしているこの私の敵だ。夢の中でその敵どもを痛快になぎ倒していく自分は課題解決のスーパーヒーローだ。

そう思ってはみたものの、結局納税書類は間に合わず、最悪の結果になってしまう。ストレスが極限に達したとき、溜まりにたまった怒りを・・そう、これは理不尽な日常に対する怒りだ。それを店の窓ガラスにぶつけるカタルシスとともに、何かがふっきれて一皮むけた。

ふと我に返ると、足を引っ張るばかりに思えた夫の人あたりのよさが胸に沁みる。役人から譲歩も引き出してくれた。頑固な父親は自分の不必要な忖度や遠慮が生み出した虚像で、自分がきっぱりと自分でありさえすれば、見え方も変わってくる。そして娘。惜しみなく愛情を注いできた娘だけれど、母の所有物でもなんでもない。独り立ちする時が来ただけだった。

なんだか全てが赦せる気持ちになれた、というのが落としどころだろうか。主人公の心の裡の変化が巧みに画面に滲み出てきて、いい感じに収まっている。そんなにとげとげせず、恐れず、リラックスして物事を達観してごらんと、作品が語りかけてくるようだ。

個々の表現は少しエキセントリックだったりお下劣だったりするけれど、全体の流れがそのまま主人公の心理描写になっているようなうまさも感じられて、日々を生きていくってこういうことだよなと腑に落ちるような良い作品でした。

そうそう、窓ガラスをたたき割ったときのミシェール・ヨーの無言の表情は、積もり積もった怒りがもろに伝わってきて最高でした。

 

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