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2023.02.26

「アラビアンナイト 三千年の願い」

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怒りのデスロードで我々をあっと言わせてくれたジョージ・ミラーが、今度は歳相応に味わい深い物語の世界を見せてくれます。

有名なランプの精のお話を下敷きに、現代の女性とジン、それぞれのストーリーを織り交ぜながら、最後はシンプルに愛の物語に落ち着きます。過度に感情を昂ぶらせることなく、それでいて愛の本質を短い言葉で表して、小振りながら品の良い姿に収まっています。

二人の会話劇の形を取りながら、ジンのはるかな過去の回想を辿っていくうちに、永遠に生き続けるジンが、それにも関わらず極めて人間的な感情を見せるのを興味深く見ていると、その想像を超える数奇な物語につい引き込まれます。

物語の研究を生業にする女性もまた同じように引き込まれ、いつしかジンを愛しはじめている自分に気づきます。この辺りを変にドラマチックに盛り上げず淡々と描写できるのは、長く生きてきた作り手の年の功でしょうか。ドラマ的な盛り上げはあくまでもジンの回想の中に包んで、全体の雰囲気を壊さないようにしているのがうまいです。この空気感、ヴィム・ヴェンダースの「アランフエスの麗しき日々」をちょっと思い出しました。

永遠の命を持つ魔人と、それに比べればあまりにも短い生を生きる人間との愛は、悲壮な終わりを告げそうなものですが、互いに自由に生きながらたまさかの邂逅を喜び合うという絶妙な解決策を使って、スマートに締めています。

初めに、これは遥かな未来から、サイエンスとテクノロジーの世紀という神話時代を眺めたものだという枠をはめたことも、ジンが持つ永遠性と、科学の時代の終焉を感じさせて、二人の愛もまたいつかは終わりを告げるのだという達観を、そしてそれゆえの尊さを醸すに十分な効果がありました。

ジョージ・ミラー、いい塩梅に歳を取っているようで、最後にジーンとくる終わり方で、とてもいい物語でした。

ジンなだけに。

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