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February 2023

2023.02.26

「アラビアンナイト 三千年の願い」

https://www.3wishes.jp/

怒りのデスロードで我々をあっと言わせてくれたジョージ・ミラーが、今度は歳相応に味わい深い物語の世界を見せてくれます。

有名なランプの精のお話を下敷きに、現代の女性とジン、それぞれのストーリーを織り交ぜながら、最後はシンプルに愛の物語に落ち着きます。過度に感情を昂ぶらせることなく、それでいて愛の本質を短い言葉で表して、小振りながら品の良い姿に収まっています。

二人の会話劇の形を取りながら、ジンのはるかな過去の回想を辿っていくうちに、永遠に生き続けるジンが、それにも関わらず極めて人間的な感情を見せるのを興味深く見ていると、その想像を超える数奇な物語につい引き込まれます。

物語の研究を生業にする女性もまた同じように引き込まれ、いつしかジンを愛しはじめている自分に気づきます。この辺りを変にドラマチックに盛り上げず淡々と描写できるのは、長く生きてきた作り手の年の功でしょうか。ドラマ的な盛り上げはあくまでもジンの回想の中に包んで、全体の雰囲気を壊さないようにしているのがうまいです。この空気感、ヴィム・ヴェンダースの「アランフエスの麗しき日々」をちょっと思い出しました。

永遠の命を持つ魔人と、それに比べればあまりにも短い生を生きる人間との愛は、悲壮な終わりを告げそうなものですが、互いに自由に生きながらたまさかの邂逅を喜び合うという絶妙な解決策を使って、スマートに締めています。

初めに、これは遥かな未来から、サイエンスとテクノロジーの世紀という神話時代を眺めたものだという枠をはめたことも、ジンが持つ永遠性と、科学の時代の終焉を感じさせて、二人の愛もまたいつかは終わりを告げるのだという達観を、そしてそれゆえの尊さを醸すに十分な効果がありました。

ジョージ・ミラー、いい塩梅に歳を取っているようで、最後にジーンとくる終わり方で、とてもいい物語でした。

ジンなだけに。

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2023.02.19

「梅切らぬバカ」

https://www.netflix.com/title/81644021

NETFLIXで。

公式サイトによると、『ことわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」とは? 樹木の剪定には、それぞれの木の特性に従って対処する必要があるという戒め。転じて、人との関わりにおいても、相手の性格や特徴を理解しようと向き合うことが大事であることを指す。』
だそうな。知らなかった。

49歳の自閉症の息子を持つ母子家庭が本作の中心にいる。ステレオタイプに考えれば、公的扶助を受けながら苦労の多い生活だろうと思いがちだ。

本作の母と息子は、たしかに近隣への遠慮気遣いで気苦労はあるものの、都会の中の一軒家の持ち家に住み、母は名の通った占い師とあって、経済的な不安はなさそうだ。実際にはその問題が大きいところをさりげなく解消しておいて、心置きなく人々の人間模様に的を絞っているのがうまい。

この母子と、隣に引っ越してきた家族の母と子が、はじめはぎこちなく他人行儀だったのが、次第に言葉を交わすようになっていく過程に、温かみと相互理解が織り込まれていく。なあなあのもたれあいではなく、言うべきことはすっと言う筋の通ったさっぱりした関係の中での温かみで、それがとてもいい味わいになっている。

この母子家庭は、近隣からはあまりよく思われていない。それはそうだ。50になろうかという一見大人が自閉症のままでは誤解も多かろう。梅の枝は適度に剪定するのがよいというのが周囲の本音で、自閉症児がおこしたちょっとしたトラブルから、施設の立ち退き要求運動が巻き起こるのがその偽らぬ発露だ。

もちろん、非難される側の母にしてみれば、そんな簡単に切れるわけもない。自分が先立った後、一人では生きられないだろう息子のことを想って施設に預けようとした母の心根は、少しじんわり来るけれども、結局施設に居られず息子が戻ってきて、はじめてその大切さ、かけがえのなさに気づくところが、本作の山だ。

結局、問題はちっとも解消に向かっていないけれども、悪くもなっていない。きっと明日もなんとかなると思わせるような、日常を描くところで終わっていて、後味もいい。

ままならぬ隣人との関係のお手本にしたいような良作でした。

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「OUR PLANET」

https://www.netflix.com/title/80049832

リミテッドシリーズ シーズン1全8話

デイビッド・アッテンボローのナレーションで紹介される自然もの。かつてはこの種の映像作品は自然界の営みを映して目を楽しませるだけだったが、いまどきは環境問題への問題提起の面が色濃くなっている。美しい映像を流した最後には、この貴重な生態系がかつての5%、あるいは3%とか1%しか残っていないこと、原因は人類による伐採や乱獲だということが、繰り返し語られる。

確かに、私が生まれた頃にコ比べても世界の人口は倍になっているわけだし、なんとかならないかなーと思わせる。

最終話で、チェルノブイリの自然が劇的に回復していることが取り上げられている。単に回復というだけでなく、欧州のどの地域よりも豊かな自然が戻ってきているというのだ。この地域の食物連鎖の頂点であるオオカミの密度が最高になっているらしい。

人間はそろそろ、自分達の居住域を限定して、それ以外の地域には立ち入らないようにした方がいいのかもしれない。

そんなことを感じました。

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2023.02.14

「岸辺露伴は動かない 第2,3期」

NETFLIXでは、アニメ版の配信開始と入れ替わりに配信終了したようだ。
それと知らずに先週見たのは、まさに終了直前滑り込みセーフだった。
 
一期が3話で構成されていて、割と手軽でかつ面白い。高橋一生の存在が大きい。はまり役と言っていいのではないか。
 
お話は怪奇もので、1期とちがって主人公のスタンドが必ずしも無敵万能でもない。それどころか、むしろ古くからある怪異の前に成すすべなく翻弄されている感もある。かろうじてそれらとの関りを絶つなどしてこの世に生還する感じだが、怪異の方も滅びるでもなくそのままあり続ける。渋いではないですか。
 
来週あたりからNETFLIXではアニメ版の配信がはじまるらしい。話のタイトルは同じなので、まあ見ても見なくてもという感じ。高橋一生の実写の方がいいような気もする。

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2023.02.13

「#マンホール」

https://gaga.ne.jp/manhole/

最初にネタバレはご遠慮くださいのお願いが出るので、あまり詳しくは書けない。はじめのうちは少しうざかったり馬鹿々々しかったりするのだが、その馬鹿々々しいと感じさせる主人公の愚行には裏があることが徐々にわかってきて戦慄する。

ネット黎明期には実名というものの比重はさほど大きくなく、自分とは違う誰かになって完璧に演じることを多くの人がエンタテイメントとして楽しんでいた。その後実名主義のFacebookの登場で、実名/顕名/匿名論争などがあった。

そしていま。子どもたちはおそらく、ネットでは自分の正体がわからないようにするのが安全だと学校から指導されているだろう。つまり、実名は大人になってから、というわけだが、子どもの頃の習性はそうそう変わるわけでもなく、ネット上で匿名のままであろうとするスタイルは多いのだろう。リアルな世界で日本の警察機構ほかがそんな状態を放置しているとも思えないけれど、一方でiPhoneのプライバシーに関するガードの堅さとか、nostroのセキュリティとか見ると、プライバシーを盾に官憲に抵抗する動きも根強いものがあるようにも見える。

さて本作はネタバレ厳禁なので、こんな風に隔靴掻痒な書き方でスペースを埋めるしかないのだが、因果応報とはまさにこのこと、という展開で、まあまあ楽しめる。

正義に乾杯!

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2023.02.12

「コンパートメントNo.6」

https://comp6film.com/

ガール・ミーツ・ボーイというジャンルがあるかどうか知らないが、まあそんな感じの作品。
ボーイ・ミーツ・ガールはたいてい男の子の方が女の子の機微を少しづつ知ることで仲良くなっていくのだが、本作はその逆で、女の子が男の子の純情や誠実を徐々に理解していく中で、女の子自身の感情の揺らぎや変化を描いている。そこがちょっと新鮮。

途中、当て馬的に登場するやさ男のシークエンスがあり、そこでは女の子が属する文明的な世界と、男の子が属する少し厳しいが包容力のある世界との、意思疎通のプロトコルのすれ違いが浮き彫りになる。

最後に、話中の伏線を綺麗に回収して、そこで男の子の愛すべき馬鹿っぷりを女の子がひとり楽し気に笑うシーンで後味よく終わる。その前に、男の子が彼女の真心を得るために、隠れた犠牲を払っていることを彼女が気づいていると匂わせるシーンを見せた上のことなので、なおさらよい終わりかたになっている。

噺の展開はとてもゆっくりだから、気の長い人にお勧め。

なお、この話は、ロシアの男の子とフィンランドの女の子で構成されていることから、様々に想像は広がるのだが、それはあえて触れないでおこうと思う。ただ、ロシアにも尊重すべき固有の文化があり、決して馬鹿にしたり粗略に扱うべきでないことだけは、本作を観てよく理解できた。

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2023.02.05

「イニシェリン島の精霊」

https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin

アイルランドの西側にアラン諸島という3つの島があり、ここが舞台らしい。streetViewで見ると、なるほど映画に出てきた荒涼とした地だ。こんな土地を舞台に作り手は何を描こうとしたのか。いや、こんな土地だからこそ描けるものは何か。

文明の光がかろうじて届く最果ての地。後背地もない小さな袋小路の島。そこでは文明社会の末端に繋がる人々と、痩せた土地にはりついて生きる人々が、肩を寄せ合って生きている。

なにしろ狭い世界だから、お互いなるべく摩擦を避けて、「いいひと」でいることが習慣になる。そうして過ごすうちに、いいだけの人の感性は鈍磨して、文化と教養の香りを知る人との溝は知らないうちに深まっている。

この作品は、そういう背景のもとで、田舎と都会、集団主義と個人主義、情緒と理性といった対立を主軸として展開する。日々の変わらない暮らしが生きる意味そのものであるような生き方と、後世に残るなにがしかの事績を目標に励む生き方との相克とも言える。あるいは、ジモティーと意識高い系とでも言おうか。

意識高い系の教養人はジモティーの農民とはもう絶縁したい。一方農民は教養人を自分と同じ目線に引き戻したい。あらゆる時代に通じる普遍的な対立構造だ。なんという面白さ。

本作ではこれを軸にしながらも、互いの共通点も描いている。荒れた風土の影響だろうか、行動はどちらもぎょっとするほど過激だ。その暴力的な振る舞いには教養もへちまもない。だがその過激さが、二人の溝の深さを強く印象付けてくる。

農民の妹は読書家で、文化の素養がある人間だが、粗野な兄と島への愛情は揺るがない。両者を繋ぐ存在に思えたが、その彼女でさえ次第に退屈と苛立ちを感じるようになり、最後には島を離れていくことになる。彼女が去って孤独になった兄の心が頑なになっただろうことは想像できる。

その一方で、文明社会の権威をかさにきた司祭や警官に対する感情はみな共通だ。この点では、権威の横暴を仕方なく受け入れている農民のほうがおとなしく、文化の反骨を知る教養人の方が躊躇なく実力行使に及んだりもする。そうしたときだけ、見ている方は友情の名残りを感じるのだが、しかしそれは錯覚に過ぎない。

互いの応酬は次第にエスカレートしていき、ついには農民がこよなく愛したロバが巻き添え事故で死ぬに至って、亀裂は決定的になる。農民の心は昏い復讐心に塗り込められ、この闘争を未来永劫続けると決意する。

だがそこまでに至っても、教養人の飼い犬の安否は気遣う農民の心持ちには、単純で強い感情だけで推し量れない機微をも感じさせる。

この、随所にみられる複雑な機微が、本作の味わいだ。「スリービルボード」でもそうだったが、作り手はものごとを単純な図式にはめ込んだりしない。あるがまま、行くがままに事態を高い解像度で描き出し、そこに機微としか言いようのない微妙な心の動きを織り込んで見せる。

 

島の対岸でいつまでも続く遠い世界の内戦が象徴するように、この種の諍いは終わりなく続く。農民が最後に昏く疲れたような表情で言い放ったのはそういうことだ。異なる文化的背景をもつ人々の間で、感情のもつれから起きる紛争を抱える我々の世界の、全き縮図がここにある。

教養人が片手の指をすべて失ったように、現実の我々もおそらく無傷ではすまないのだろう。そうなってもなお、本作の登場人物のように、それを厳しいまなざしで黙って受け入れられるだろうか。

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