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December 2022

2022.12.29

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」

https://www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar2
 
14年前、最初のアバターを見たとき、鳥肌が立つほど感動した記憶がある。今年、それ以上の感動を再び味わえるとは思わなかった。幸せです。
 
しかも本作は、一作目で作品世界の背景を描くために使った尺を全部物語のために投入して、前作を上回る世界観、人間観を描写して見せている。素晴らしいの一言に尽きます。
 
美しい海と色鮮やかで多様な生き物たち。前作の森の生き物たちの描写も素晴らしかったけれど、本作は海に造詣の深いキャメロン監督が本領を遺憾なく発揮している。想像を超える煌めきがある。
 
そして何より、この物語は人の生き方についての示唆に富んでいる。前作にはなかった二人のキャラクタ、元海兵隊大佐の記憶を持ったアバターと、大佐の息子でこの星でナヴィたちと一緒に育ったスカイ・ピープルの子ども。アバター自体もナヴィから見れば異質だが、この二人はそれ以上に奇妙で捩れた存在だ。
 
当初ははっきりしていた善悪・敵味方の境が、この二人によって曖昧になり、様々なイメージが呼び覚まされ、物語を意外な結末へと導く。
 
スカイ・ピープルがこの星へやってくる大きな理由が明かされた以上は、この襲来はずっと続くのだろう。もし次作があるとして、そのときあの大佐は一体どういう行動を取るのだろうか。
 
世界には善悪はなく、ただ互いの利害と生き方の異なるモデルがあるだけだ。作り手はそう言っているようにも見える。様々な立場があり衝突がある中で、家族という小さな単位こそが、互いに認め合うことができる共通点だと謳い上げている。物語の中心に位置する2つの家族の関わりと葛藤が、本作を単に美しいだけに留まらない普遍性を持ちうる作品に押し上げている。
 
さて、前作で英雄となったジェイクの家族は、本作では放浪の身に落ち、苦難の闘いで長男を失いながらも、最後に海の一族に受け入れられることになるのだが、そこで描かれる子どもたちの適応能力の高さは特筆されていいだろう。森の一族だった彼らが、海の生活に適応するのは、大人のナヴィには難しいことだが、二つの異なる部族の子どもたちは互いに遊びながら、難なく新しい環境に溶け込んでいく。ここをたっぷりの尺を使って生き生きと描いてくれたのはとてもよかった。新しい世は子どもたちが創るという当たり前のことを、こんなに陽気に楽天的に描いてくれて、見ている方も微笑ましい気持ちになれる。そこで培った子どもたちと生き物たちの繋がりが、クライマックスの死闘の末に進退窮まった大人達を救うことになるとは、なんという古典的で感動的な終わり方だろう。
 
大人たちの現実世界で繰り広げられている争いにも、作り手はさりげなく思う所を述べている。本作には鯨に似た雄大な生き物が登場するのだが、知性ある彼らも以前は互いに争い傷つけあっていたところ、その愚かさに気づき、争うことを禁じて今に至るということを、海の一族の族長の口を借りて言わせている。理想主義とかご都合主義と片づけられがちだが、これも普遍的な真実であるのは間違いない。二度の大戦で深く傷ついた欧州の国家群の今を見れば、その真実味を想わざるを得ないだろう。
 
家族と言う小さな単位から、種族のような大きな単位まで網をかけて、美しく時には迫真の映像でまとめ上げた、超一級の大作でした。

 

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2022.12.26

「ウィッチャー 血の起源」

https://www.netflix.com/title/81279312
 
NETFLIX 全4話
 
ウィッチャーの魅力はいろいろあるけれど、頭の中にあるファンタジーの定番を結構崩してくれる設定もそのひとつだろう。
 
本作は、そもそも人類がまだ居ない世界・時代のお話で、定型崩しの最北とも言えるかもしれない。エルフ族によって作られた怪物ウィッチャーの起源を巡る活劇が一応の筋だが、驚くことに、この話~エルフ族内部の階級闘争~が、複数世界(今で言うなら異なるユニバース)の混淆を生み出し、その結果、人間族というよそ者が、別世界からの漂着者としてこの世界に現れた、というあたり、大いに刺激を受ける。
 
主人公たちのアクション部分はもちろん楽しめるし、怪物の造形も独特で申し分ないのだが、それ以上に、お話の壮大な背景設定の方が大いに興味を掻き立てられる。
 
来年3月から配信予定のシーズン3「ワイルド・ハント」では、いよいよ異世界との関わりが物語の主軸になってきそうで、大いに盛り上がりそう。期待したいです。

 

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2022.12.19

「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」

https://www.pinocchio-jp.com/
 
NETFLIXで。
 
原作は実は1881年にイタリアのこども新聞に連載されたものらしい。ディズニーアニメはそこから残酷な描写を省くなどして出来上がったものだそう。
 
本作はというと、原作から様々な着想を得て作られているように見える。そして、本作独自のアレンジは、ゼペット爺さんに人間の子供がいて、悲劇的な亡くなりかたをした後にピノッキオがつくられた、というところ。ピノッキオがなろうとするよい子のイメージは、最初はこの亡くなった子供に重ねられている。
 
それが、お話が進むにつれて、よい子であることよりも、ピノッキオ自身のアイデンティティが善きものになっていくことに焦点が移っていく。それが最後にゼペット爺さんの感動的なセリフにつながっていく。
このあたり、タイトルにあるとおり「ギレルモ・デル・トロの」作品として終始一貫していて、単なる翻案のレベルを超えて高い完成度になっている。
 
また、遊んで暮らせる国が、第一次大戦時の少年兵の訓練に差し替えられているところも、作り手が本作を「自分の」作品ととらえている意識が感じられる。これが原作やディズニーアニメの焼き直しではなく、それらにインスパイアされながらも、独自の作品として成り立っているのが強く感じられる。
 
ストップモーションアニメであるのをつい忘れるような自然な動きと、登場する生き物たちの味わい深い造形とが相俟って、いつのまにかデル・トロの思い描く物語世界に引き込まれる。
 
よく知られた、記号化されたピノキオの話ではなく、人形が人間に生まれ変わるために何が必要か、それが周囲をどれほど変えていくかを、温もりのあるまなざしで描いた、一級の作品でした。

 

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2022.12.12

「スクール・フォー・グッド・アンド・イービル」

https://www.netflix.com/title/80218885
 
NETFLIX
 
おとぎ話の典型をいちいち組み替えて現代的に再解釈するという感じの学園もの。とりわけ、善とされているものが現代では偽善になりがちということを、善悪双方が「善(悪)を演じている」と自覚している設定が面白い。
 
とはいえ、興味深いけれどそれほど深くもない、NETFLIX映画という新ジャンルに区分けされるライトな作品。
 
よく言われるとおり、聖書の中で悪魔が殺した人間の数に比べて神が殺した人間の数は桁違いに多い話など思い出される。
 
一方で悪の側が実は過去に勝利しており善人に化けているというのもいかにも悪らしくてよろしい。
 
おとぎ話の中の善悪は、まことの善悪に比べると、確かに境目は曖昧なのかもしれない。

 

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2022.12.11

「マッドゴッド」

https://longride.jp/mad-god/index.html
 
グロテスク。場面場面で何を暗喩しているのかはなんとなくわかるのだが、作品全体から何かを得られたかというとよくわからなかった。まあMADでありGODだということなのだろうか。
 
目的と使命をもって進むも思惑通りの成果は果たせず、代わりに自身が生贄となって宇宙創成の種になるとか、そもそも目的地にたどり着けず永遠に進み続けるとか、そういうローフルなことを一応の筋としているようにも見える。
 
けれども、どちらかというと個々の場面で示される悪徳の方が印象が強くて、そういうカオスを実は描きたかったのかもしれない。
 
積もり積もったカオスの中でローフルな存在は弱く、押しつぶされそうになりながらそれでも進む。エンドレスに。という感じだろうか。
 
ストップモーションアニメでは、今年はJUNK HEADという力作があったが、あちらの方が面白かった。グロテスク過ぎずユーモラスでいつの間にか作品の中に入り込んで登場するクリーチャ達と一緒に楽しめる感じがあった。あれに比べると本作はむしろ拒絶反応の方が出てしまう。グロ過ぎるし世界観は理解はできるが馴染めない。
 
そうか、これが地獄というものか。

 

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2022.12.05

「トロール」

https://www.netflix.com/title/81245455
 
NETFLIXで。
 
怪獣映画の小品という趣。舞台がフィンランドというところがちょっと目新しい。ゴジラ映画が世界中の好き者たちを刺激して地域に根差した神話や伝説を巨大な怪物の話に仕立てる動きなんてものがあるのだろうか。
 
トロールが首都オスロを目指してくる理由というのが意外性があってちょっと面白い。日本の怪獣映画でもこういう設定はあったような気もする。
 
人間対怪獣という構図は文明対自然の比喩なのはもちろんだが、本作では文明=キリスト教、自然=それ以前(北欧神話ほか)という要素がもう1枚加わるようだ。キリスト教化というものが現代にもテーマとして存立していることが少し窺える。
 
少々人間のご都合主義が目立つ脚本で、そこはまあ人間世界で語られるのが前提だから仕方がないのだが、自省の念というものが日本人より弱い気がする。結局文明を捨てることなどできはしないのだが、それを開き直るか忸怩たる思いに耽るかの違いかもしれない。
暇なら見てもいいかくらいなのでお勧めはしません。

 

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2022.12.04

「ブラックアダム」

https://wwws.warnerbros.co.jp/blackadam/
 
ブラックサンジョー!
って爆笑しました。サイコーのプロレスっすな。
プロレス見たことはないんだけどね。
 
あの胸のマーク、どうもよく似たのを見たことがあるぞと思ったら、まさにアレなのか。どういうつながりなんだろう。きっと同じユニバースなんだろうな。
 
そんでこれ、お話としては善悪二元論ではなくて、正義の正統性を問うみたいなつくりになっていて、それはブラックアダム誕生の経緯からして当然の流れだけど、なかなかよいです。悪の大魔王みたいなのはむしろお話を進めるための狂言回しくらいの位置づけ。
 
ピアース・ブロスナンがスーパーヒーローなんてなんだかキモいんじゃないかと思っていたけど、そんなことは全然なく、最も味のあるキーマンの役回りでたいへんよろしかったです。Dr.フェイトっていうのか。使うアイテムや魔術の視覚効果も美しいの一言につきる。一話限りなんて超もったいない。
 
そんで主役のドウェイン・ジョンソンがこれがもう渋くて言うことありません。最後にある男と対面するところがまたニクい。これからどうなるんでしょうか。期待して次を待つ。

 

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