「ザ・メニュー」
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これはヤベーもの見ちゃったよ。
あーチーズバーガー食いてえ。
職人気質と高級サービス業というのは、うまく噛み合わないところがあって、本作はそれを極限まで突き詰めて金持ちや美食家や通ぶった連中の傲慢を糾弾している。
ここに登場するシェフは当代最高の技術を持ち、なお日々研鑽を怠らず、それゆえに自分の芸術の域に達した技術が、それを理解しない俗物どもにただ無意味に消費されるのを哀しい想いで見つめてきた。本作はその俗物どもを道連れに逝く職人の最期の日を描いている。おそろしいです。
様々な俗物が登場する。大企業のトップ夫妻は何度もここを利用しているが料理の名前ひとつ思い出せない無教養ぶり。
若く羽振りの良いグループは裏では不正会計で汚れた金を蓄財しているがそれも虎の威を借るキツネ。彼らのボスにしてレストランのオーナーが不正の黒幕だ。
芸術家の輝きを失った落ちぶれ俳優は、技術を磨くことをせず、ただ名声だけで見る目のない観客を騙し続けてきた。そのマネージャも金まみれで同罪だ。
料理評論家は料理人の天使でもあり悪魔でもある。その文筆で数多の才能を潰してきた料理界の寄生虫にして大罪人。その編集者も同罪。
シェフを崇拝する一般人は料理業界の人間ではないが、自身の味覚を鼻にかけ、隠し味を言い当てるなど手品の種明かし紛いの興醒めを披露する。料理をネタに得意げに語りながら、自分で料理を作ったこともなく、料理そのものへの敬意も持ち合わせない承認欲求の奴隷だ。
料理人たちの側にも俗物がいる。シェフの名声を盗もうとして近づいてきた副料理長は職人が持つべき矜持とは程遠い野心家だった。
そして、シェフは自分自身も糾弾する。美しい異性の部下にセクハラを働いた過去を自分で許せない。
かくのごとく俗物のオンパレードを見せられると、さすがにげんなりすると同時に、彼ら彼女らがみな裁かれるなら、観客の誰も自分だけは無実無縁だとは言えなくなる。本作がおそろしく思える所以。
そんな中、ひとりだけこれらの人々と異質な人物がいる。味覚が鈍るのもおかまいなくタバコを吸い、出された料理にたいした興味も示さず、シェフへの尊崇に満ちた場の中で、ひとり場違いな空気を纏っている高級娼婦。だがその物言いは率直で的を射ている。他の面々のような虚飾や忖度がない。
この最後の晩餐から、彼女ただひとりが生きて脱出するのだが、その方法が実に人間味があって見事だ。復讐の鬼と化したシェフがそのときだけは、昔の自分、人々に美味しい料理を振る舞い、愛情と感謝に包まれたひと時を提供していた素朴な自分を思い出したことだろう。本作はそのおかげで救われている。
あーつくづく美味いチーズバーガーが食いたいね。グルメ気取りのくだらない蘊蓄はどうでもいいから、素朴なやつをね。