「アムステルダム」
この感じ、いいなあ。
権力指向とか利益至上主義とかが全体主義と結びついて自由な市民社会を抑圧するという構図は、われわれ庶民向け娯楽物語の設定として鉄板だけど、本作はそれをあくまでも背景に留めて、むしろそれに立ち向かう主人公たちの友情と愛に焦点を当てて明るく温かい基調で描いているところに好感が持てる。
やっぱり人間は明るさや温かさの方に惹かれるものだし、そういう環境でこそ一番能力を発揮できるんだよね。
本作がミステリーであり実話ベースのクライムストーリーであるのに陰鬱にならず、主役3人を通じてコメディやアートの要素をふんだんに入れ、人の活力を引き出す方向を向いているのはまったく正しいあり方だ。なにより、タイトルを見れば本作が伝えたいことがはっきりわかる。
そして、富と権力の側にある人達を代表する富豪の若夫婦にも、彼ら3人組との関わりの中で極めて普通の人間的な側面があることを見せて、階層間の断絶を回避している。マーゴット・ロビーとアニャ・テイラー・ジョイが広壮な屋敷で些細な言い争いを演じている場面が対等の人間味を出していて印象的です。
お先真っ暗な予想が蔓延する今の世の中に、少々の希望を感じさせてくれるような、意義のある作品でした。
欧米での評価は辛口だそうだけど、彼らの黒歴史が題材になっているからなんだろうか。それには縁のない東洋人の私は、もっとずっと高い評価をこの作品にあげたいと思います。
クリスチャン・ベール、求められているそのものずばりを的確に表現していて、今回も真価を遺憾なく発揮しましたね。彼の表情やしぐさで本作は駆動されていると言ってもいいくらい。特に、物語の終盤で彼が演じる貧乏医者が正しい選択をする場面での表情が、なんとも味があってすばらしい。ちょっと刑事コロンボを思い出しました。
もちろん、他のキャストもすばらしいので、それはここあたりを読んでください。
https://www.banger.jp/movie/86419/
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