「アイ・アム まきもと」
孤独死を題材にしながら、むしろ現代人の死生観について多くを語っている。人の死後は無であるという考え方を、作中では合理的と表現しているが、むしろ不可知論と言った方がいいだろう。市役所の端役である主人公に向かって、新任の局長が言い放つのはそのことだ。主人公の男はそれに対して感情剥き出しで抗議するのだが、現世の権力に抗う術もなく、大切にしていた骨壺の群れを片付けられてしまう。
そんな状況の中で、取り組みを許された最後の案件を懸命に追ううちに、この一見孤独だったかに見える死者の周囲に実に彩り豊かな人間関係があったこと、そして彼ら周囲の人々が亡くなった男の気骨ある不器用な生き方に良くも悪くも大きく影響されてきたことが次第に明らかになっていく。
主人公の粘り強い行動のおかげで、亡き男を介した縁が生まれ、葬儀に際して彼らが三々五々集まってくる感動的な最後へと向かう。のだが、その立役者には別の運命が待っていた。
話の筋はありがちなのだが、本作ではいくつもの人生が様々なエピソードを通じて繋がっていく。その多様さと豊かさが、亡くなった男の人生の厚みを表しているようでとてもいい。
のだが、どうもこの筋は前に見たことがあるぞと思ったら、「おみおくりの作法」が原作の由。それはそっくりなわけだ(笑
必要以上に湿っぽくならず、どろどろしたところもなく、主人公の社会性の無さが逆にユーモラスな色合いを醸し出すなど演出の力もあって、よい塩梅に落ち着かせている。味わいのある良作でした。
阿部サダヲという俳優は、禍々しい役だけでなく、こういう生かし方もぴったりくる感じで、配役の妙でもありました。