「流浪の月」
外形的な事実をもって、人は他人を判断し、時には断罪する。けれども当人たちにとっては、真実は異なるということがある。本作はそれを切なく美しい物語に仕立てている。
もちろん、たとえばオウム真理教の例を引くまでもなく、世間としては外形的にものごとを切り分けていかざるを得ないのだろうけれど、それはあくまで、当人たちの外側の世界の利益・不利益に基づいた行動だ。本人たちがその中で満ち足りていて、外の世界にさしたる害もないのであれば、過剰に干渉する必要もないことだろう。
その過剰な干渉、価値体系の無自覚な押し付けに対して、若い女性がきっぱりした拒否の言葉を返すまでに成長しているのが現代的な味付けになっている。
普通に感想文を書くとすれば、まあそんなところか。
ただ、少し設定を捻り過ぎている感じがあって、落ち着きが悪い。話のつながりも作為的な匂いがしてしまうのが残念だ。先が読めてしまうというか。もう少し微妙な綾でつなげられればとも思うけれど、題材が特殊なだけに難しいのかもしれない。
それにしても、広瀬すず、上手かった。一度目に更紗が文に泣きじゃくりながら謝るところは絶妙でした。アクの強さがストレートに出る感じの俳優さんだけれど、この場面は全く違う才能を見せてくれた気がします。
お話も、ここで止めていればハッピーエンドだったのになあ。まあ、それだと凡庸の誹りを受けそうだから、先へ進まざるを得ないのだろうか。
この後、世間は二人の幸福を許さず愚劣な牙を剥く。安寧は破壊され、二度目の謝罪から流浪へとおちていくことになる。
やりすぎに感じるのはこの辺りだが、これは作り手の問題というよりはむしろ、物語を過剰に消費せずにはおれない受け手側の強欲、少数者の不幸を見たくて仕方がない人の愚かさの方に問題があるのかもしれない。
とはいえ、この二人、特に更紗の方は、そんな世間の目など気にせず、内面の幸せがあれば十分だと悟って終わるのが救いだろうか。