「帰らない日曜日」
同名の小説が原作で、原題は"mothering sunday"。かなり古くからあった祝日らしい。この日、奉公人たちは1日暇をもらって好きなように過ごすことができたとの由。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mothering_Sunday
その日、ある上流階級の屋敷で働くメイドの女性は、近隣の同格の家の跡取りと最後の逢瀬を楽しむのだが・・という発端から始まって、当時の英国の没落しつつある旧家と、新しい時代を象徴するような作家という職業の勃興を、やや哀愁を込めて描いている、ように異国の私には見えました。英国人から見ると、どういう感慨を抱くのかはよくわかりません。
この主人公が作家を志すことになった直接の切っ掛けは、最後の逢瀬の日に一人で彷徨った恋人の大きな家の書棚で見かけた本にありました。そのことを本作ではさりげなく、ロマンチックに描いています。
しかしそれとは別に、衰えを知らない創作意欲の原動力はというと、自身が最後に受賞インタビューで答えているとおり、言わずにはおれない事どもを抱え込んでいたから、ということでした。
人生の諸々を、義務という名の元にあらかじめ決められていた旧家の御曹司と、孤児からメイド、書店員、そして作家へと、自らの意志で諸々を掴み取ってきた女性との鮮やかな対比がここに見られます。全てを与えられて始めた者と、全てを奪われたところから始めた者との対比、とも言ってもいいでしょうか。作中ではその全てを奪われた状況を、別の登場人物の口を借りて、"Gift"と言わせています。この見方は新鮮でした。
本作の本義はその辺りにありそうですが、ほかにも、異なる立場の二人が数年の間互いに愛し合いながらも、男の方は注意深く避妊し続けていた描写のあたりに、社会階層の溝を見たりすることもできるような、ある種の微妙さも孕んだ作品でした。