「カモン カモン」
これは・・たぶん自分的には今年最高の映画になりそうだ。
何度か見てみないと、これの真価は定まらない。1回見ただけのとりあえずの感想をとりとめなく書いて置いておく。
普通、商業映画には作り手と受け手のあいだにある程度暗黙に了解した線があって、そこからの距離の取り方で傑作凡作奇作問題作の違いが生まれると思う。
本作は、そういう暗黙の了解、つくりものである映画というものを成立させる作者と観客の共犯関係から逃れ、自由な振る舞いを見せていると思うのだ。
作中で、街の音を拾いながら叔父が言う「平凡なものをテープに定着させて特別なものにするって素晴らしい」というような趣旨の台詞がある。これが、本作全体を象徴する部分であり、私が本作を最高だと思う所以でもある。
何かを意図していない。
ただ、何かをそのまま提示している。
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平凡さを表現する手法はもちろんいろいろあるだろう。けれども大抵の作品では、それは平凡を装っているにすぎない。平凡であることを見せることによって別の何かを表現しようという意図がいつも隠されている。それが、普通は映画というものを作る者と見る者とが共有する作法だろうと思う。
ところが本作は、平凡さをまるごと投げつけてくる。平凡そのものを描いて見せている。物語の中心にいる9歳の甥の行動が、その剥き出しの平凡さをつくっている。
実際、これほど当たり前で生の感じがする9歳を、これまで映画作品の中で見たことがあっただろうか。何の飾りもてらいもない。本当にそこに居そうな感じがする。
例えば街中を見回せば、意味のない雄叫びを上げてスーパーで買い物中の母親にぶつかっていく小さい子とか、何か振り回しながらその辺を意味なく練り歩く子とか、そういう、まだ制御されない剥き出しのエネルギー、平凡だが刮目すべきものを毎日目にしている。それに付き合ってへとへとになりながら困惑する大人、あるいはエネルギーを貰って幸せそうな大人たちとが対になって、何の変哲もない日常の街の風景をかたちづくっている。それをそのまま、加工せずに取り出したような感じがするのが本作だ。
言葉が多いのも本作の際立った特徴だ。様々な街での子供たちへのインタビューの声の挿入と、街から街へ移動しながらその仕事を続ける叔父と甥、大人と子ども、人と人との会話や行動が、折り重なって圧倒してくる。ストーリーを作る目的の、為にする挿入ではなく、ただただそれらが日常の平凡さそのものであるような構成。
その平凡さの連続の中に、大人と子供の関わりや喜怒哀楽、その移ろいを微妙に織り込んでいるのが、本作のまことに優れているところだ。ストーリーを作って、その中に感情や主張を埋め込むのではない。感じたそのままを塊として提示してくる。
こういう作品はなかなか無い。得難い体験でした。