「ナイトメア・アリー」
ギレルモ・デル・トロがお行儀よく作ったという感じの作品。
第一部のサーカスの描写のところは、この監督らしさが出ていて割とよい出来。
第二部以降は、らしくない。下賤な出自の主人公が上流社会に食い込もうと詐術を駆使するのだが、鬼気迫るところもなければ妖しさがあふれ出すのでもなく、淡々と進んでしまう。
金持ち権力者の過去の罪とかボディーガードの危険な匂いとかは、もっとおどろおどろしく描ける技術を持っているはずなのに、そうしていない。本作の意図はそこにはないということなのだろう。
この金持ちの「大金を払ったのだからそれに見合うものをよこせ」という強烈な信条は、一種の呪文というか領域展開(笑)というべきもので、主人公の成り上がり願望と騙しの技術を土壇場であっけなく打ち砕く。
まあ、詐術というのはバレてしまえば中身の無い白けたものだ。主人公の成り上がり願望の強さは、この金持ちが経てきた真っ黒な現実の強烈さに遠く及ばなかった。
詐欺師としての半端さは、相棒と思った女博士を迂闊に信用して全てを失うところにも表れている。この女の黒さも相当なもので、主人公はそれにも及ばない。
彼は結局、元の居場所たる場末のサーカスへ転落するように戻ってきた挙句、身の程を悟って嗚咽を漏らす。
嘘や幻想を操って成り上がるには、相応の魂の黒さがなければならないと、作り手はうそぶいているかのようだと言ったら穿ち過ぎだろうか。