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2022.03.13

「THE BATMAN」

これはいい映画だな、というのが素直な印象です。筋立てが大人向けなだけでなく、関係者の機微が丁寧に繊細に描かれ、それが作品の本筋にいつしか連なっているからです。

そう思ったのは、まだ壮年といっていいアルフレッドと、青臭さが抜けないブルース・ウェインとの関わり方を見たときです。ほんの少しのカットだけでさりげなく深く捉えています。


二人の関係は当初は、若き当主と先代からの忠実な執事の域を出ません。この若者は執事を使用人としてしか見ていないことが台詞から読み取れます。ところが、カフスのちょっとしたやりとりで、先代がどれほど深くこの執事を信頼し、準家族として接していたかがさりげなく示され、当主の心を揺らします。そして、姿の見えない敵との頭脳戦のさなかに、当主の行動の甘さから、執事が瀕死の重傷を負ってしまいます。病院で、だれか知らせなければいけない家族はいるか聞かれ、若者は答えに詰まります。

そうした変遷を経て、ブルース・ウェインの信頼を勝ち得たアルフレッドだからこそ、若き当主が敵の老練な言葉に惑わされたときに、彼を正道に引き戻す言葉を届かせることができたのです。


この一連の構成は強く結びついていて、本作の背骨を成していると思います。他の登場人物達、セリーナ・カイル、ペンギン、ファルコーネなどもそれぞれ魅力的で作品を豊かにするのに大きく貢献していますが、本作の中心軸はあくまでもバットマンとアルフレッドです。

肉親の過去の過ちを知り、その罪を背負いながらも、その弱みを突いてくる敵に立ち向かう彼らの心の強さが、本作の主題です。ひとりよがりではない、万人の共感を呼ぶその理が、アルフレッドの言葉に結実しているところに、本作の真の値打ちがあります。

本来闇の存在であるバットマンが、そこから一線を画す存在になり得ているのは、その心の働きがあってこそなのですから。

まさに神はディテールに宿る。この機微を捉えた描き方だけで、本作は力強い品格を獲得していると思いました。

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